第241話 どうしていいか分からない!

「保叔父さんは元気で働いているよ。海神家がお礼に新しい漁船を贈ろうとしたけど、『中古でええ』と言ったから、テスト船が渡されたよ」


「ははは! 叔父さんらしいな。欲がない」


「僕達が乗ってきた潜水艦『潮干丸』も試験艦なんだ。次世代の無人艦でAIが艦をコントロールしてる。動力は試作の全個体電池。ただ居住空間がなくなる予定だから、数人しか乗れないけどね」


「なるほどな、中に人がいなけりゃ食料や酸素を気にせず、長時間行動できるわけか。艦のサイズも小さくできるから利点が大きい。やっぱり海神はすげーな」


「うん。ところで海彦兄ちゃん、僕達が来なかったらどうする気だったの?」


 山彦は俺の最終作戦を聞きたいのだろう。


 えぐい作戦なので言いたくなかったが、弟に嘘はつけないので正直に話す。


「十万の敵とまともに戦えるわけがねーから、ドワーフ村の工場で作っていた、半硬式飛行船で戦うつもりだった。ちなみに竜骨キールには神怪魚ダゴンの骨が使われていて、軽くて丈夫だから積載量は増やせる。唯一の問題はヘリウムガスが少ししか作れんから、危ない水素を使って空に浮かすしかなかった」


「確かに危険だけど気体では一番軽いし、扱いを慎重にすれば問題はないね。飛行船なら高速飛行はできるし航続距離も長い。高高度から攻撃できるから、武器はもしかして……」


「山彦の想像通りだ。ゴムの木からとれるラテックスを油やその他と混ぜ合わせ、『ナパームもどき』を作った。ようは焼夷弾。これを上空からバンバン落として空襲する作戦だった。消えない炎は、アルテミス湖を焼き尽くしたかもしれないな……」


「でも兄ちゃんも、魔物の食料だけを焼くつもりだったんでしょ? あとは冬がくるまで頑張れば、魔物軍団は北に逃げ帰るしかない」


「ああ、その通りだが追い打ちをかける気でいた。飛行船を北上させて敵の補給基地を叩く。魔物の村を見つけ次第潰して、ヘスペリスに攻めてこれないようにする。非戦闘員も含まれるから、大虐殺ジェノサイドだな……」


「やっぱ兄ちゃんは……いや、戦争だから仕方ないね。ここは平和な日本じゃない。それに僕も手を汚してしまったから、善人面はしないよ」


「だが山彦が来てくれておかげで、皆殺しをやらずにすんだ。ありがとな」


「兄ちゃんやめてくれ、照れるよ」


 ひとしきり二人で笑ったあと、山彦は真面目な顔をする。

 しばらく黙っていたが、意を決して俺に告げた。


「……僕は穂織さんが好きだ」


「……そうか、ずっと一緒に過ごしてりゃー当然か。ガンバ……」


「でもね、穂織さんの気持ちは別の人にある。だから兄ちゃん、こたえてやって」

「…………」


 聞かされた俺は何も言えず、山彦は離れていった。


 どうすりゃいいんだー!


 ここで脳裏に浮かんだのは、なぜかフローラ達だった。


「日本に帰るんだよな? 俺……」


 独り言は疑問形になってしまう。


 魔物は撃退し両親と山彦に会えたので、もうヘスペリスにいる理由はない……なのに何でこんなに悩むんだー。


 ダメだ全然頭が回らない、色んな事がありすぎ。まずは頭を休めんと。


 眠れないと思うが寝ることにする。俺は一人、クルーザーの中に入って横になる……。

 


 ――夜半、目がさめる。


 どうやら疲れていたので、思ったより眠れた。


 クルーザーから外に出て見ると、辺りは満月に照らされて明るく、夜景は美しかった。


 俺は歩き出し、アルテミス湖の港を散策してると過去を思い出す。


「何もなかった所を、みんなと頑張って城塞と港町を作ったんだよなー。楽しかったなー……これが見納めになるのか……」


「……海彦」


 いつの間にかフローラが側にいた。


 何と言っていいかわからずもやもやしていたが、俺は感謝の言葉を伝える。


「フローラ今まで世話になったな。ありがとう」


「……やっぱり日本に帰るの?」


「ああ家族とも再会したし、あとは叔父さんと会うだけだ。心配をかけたしな」


「そう……」


 それからしばらく俺とフローラは夜空を見ていた。どうも話が続かない。


「一つ、海彦に謝らなくちゃいけないことがあるわ」


「…………」


「湖巡りの旅に出る前に、ヘカテーの湖の浄化は終わっていたの。とっくに霊道アウラは開くことができたわ。黙っていてごめんなさい」


「……そうか。だが、そのお陰で親父とお袋に会えた。気にしなくてもいいぞ、フローラ――――!?」


 ほんの一瞬のことだ。フローラは顔を近づけて俺と唇を重ねる。


 人工呼吸のキューマスクは使っておらず、モノホンのキス……柔らかい。


 口づけはエルフとって結婚の誓いであり、絶対に破ってはいけない決まりがある。


 だからこそ最初に出会った時、勘違いしたフローラは怒って俺をぶっ飛ばしたのだ。


 しばらくしてからフローラは離れる。


「海彦好きよ、行かないで!」


「俺は――――」



「あんたー! なにやってんのよ!?」


「きゃっ!」


「うぐっ!」


 これも一瞬だった。穂織が現れてフローラを突き飛ばし、俺の唇を奪う。


 何か上書きしようとしてるように思える。


 二人は従姉妹のようなものだが、仲は悪く張り合ってるようだ。


 俺は突然の出来事に呆然となる。ショックが大きい。


「帰って来て海彦さん!」


「いかないでください、海彦さん!」


「海彦がいなくなるのはいやなのだー!」


「日本には帰さないのじゃ!」


「お兄ちゃん行かないで!」


「私、泣いちゃうわん!」


「みんなの言うとおりだわさ。行くな海彦!」


 どこからともなく女達が全員現れ、俺に抱きついて大泣きする。


 身動きができないまま、俺は迷ったまま……本当に困った。


 やはりヘスペリスに未練はあるが、日本に帰りたい気持ちもある。


「キュ――――――――イ!」


 さらにリーフが水中から現れ、涙の雨が降る。頭がいいから、状況が分かっているのだろう。


 あー、コイツもいたんだった。


 みんなから泣きつかれ、ロリエの占いを俺は思い出す……望みは叶うが、最後に決めるのは俺。これが本当の選択だった。


 困ったことに占いは外れない。


 俺は一体どうすればいいんだ――――!?



 大騒ぎになり親父とお袋や族長達も集まってくる。


 俺は決断できず、みんなで話し合うことにした。


 ――三日後、俺は日本へ帰った。

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