第240話 天界と神界

「姉様方、ただいま戻りました」


「今までよくやってくれました。ありがとう妹よ」


「長い間、ヘスペリスをよく守ってくれましたわね」


 彼女は姉達と順番に抱き合い、ねぎらいの言葉をもらう。


 ……ただ、それは別れの挨拶でもあった。



「力を使い果たした私達は、霊体を捨て魂となって神界へと旅立ちます。これからはあなたが、我が子らである亜人を見守りなさい。今から貴女がアルテミスです」


「はい、姉様」


 別れを惜しむ暇も、見送る時間もなく、五人は次々と消え去ってしまう。


 新たな女神アルテミスとなった彼女は、しばらく立ったまま黙祷したあとで、椅子に座ってつぶやいた。


「さあ海彦よ、本当の試練が待っておるぞ。ひょひょひょひょ!」


 女神でも性格は意地悪婆のままだった。



 ――神界・ルルイエ


「くそー勇者め! 俺の計画が台無しじゃねーか! ……まあいい。次の魔王を異世界から喚びだしてやる。魔物の数をもっと減らさんとあふれてしまうわ!」


 彼は邪神C。


 人の言語では、発音と表記ができませんので〝C〟とさせていただきます。


 邪神は悪とはかぎらず、自身が管理してる世界の神である。


 魔物達をヘスペリスにけしかけたのも、増えすぎた人口を移民……ではなく棄民するのが目的だった。


 善悪、勝ち負けなどはどうでもよく、数を減らさねば魔物社会がもたないのだ。


 食い物と資源には限りがあり、全員にはまわせない。


 魔物達が住んでる北方は取れる食料が少なく、数百万匹に分け与えるのは無理である。


 だからこそ邪神は魔物達を南下させたのである。ようは口減らし。


 魔物全体のことを考えればしかたなく、邪神は利己的なわけではなかった。


「……ん?」


 何かの気配を感じ取って振り返れば、五人の女神がいた。


 いきなり敵対していた者達が現れて邪神は驚く。


「お、お前らー! なんのようだ!?」


「初めましてC。神界にきたばかりなので、ご挨拶にうかがったのですわ」


「アポなしですけどね。うふふふふふ」


「それと、私達のヘスペリスにちょっかいを出してきたお礼をね」


 聞いた邪神はビビる。まさか自分の領域テリトリーに入ってくるとは思ってもいなかった。


 冷や汗をかきつつも、強がって見せる。


「……そうか。だ、だが神である俺は殺せんぞー!」


「ええ知ってますよ。神界では私達も不滅の存在ですから、戦うなど不毛ですね。ですが快楽はどうでしょう?」

「なにっ!?」


「海彦が言ってたわね。『神様同士でヤリ合え』てね」


「初めてだから優しくしてねん」



「ウソつけー! お前らは亜人を最初に生んだ母親じゃねーか!」



「「「「「きゃははははははははは!」」」」」


 亜人誕生の秘密である。


 女神は生母で、魔物も創造した神がいるのである。


 けっして猿から進化したわけではない。


「こまけぇこたぁいいんですよ! C。私達が満足させてあげますわ!」


「永遠にね」


「や、やめろー近づくな! ア゛――――――――――――――――!!!!!」


 神界で神を助ける神はいない……合掌。


 こうしてしばらくヘスペリスは平和になる。


  ◇◆◇◆


 ユーノーの話は、雅がラジオ放送で伝え誰もが知った。


 いつもの平穏が戻ったので、アルテミス湖に人々が急いで戻ってくる。


 兎族や移住した者達からすれば、自分達の街で暮らしたいのだ。もう故郷である。


 人が集まれば祝勝会となり、各村でも祝杯を上げてはしゃいでいる。


「がっはははははははは!」

「おほほほほほほほほほ!」


 笑い声が絶えなかった。長い戦いが終わってみんな安心し、嬉しくてたまらない。


 気持ちは分かる。が、俺は宴会に付き合わされて大変だった。


 ようやく解放されたところで、俺は山彦と話し込む。

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