第239話 説明と再会

 やがて続々と他の族長や戦士長らもやってくる。


 親父とお袋の姿が見えたので、俺は山彦と一緒に外にでた。


 二人を見るなり弟は直ぐに駆けだす。お袋も息子と分かったようだ。


「おかあさーん!」


「山彦ー!」


 母子はひっしと抱き合って泣く。親父も泣いていた。


 感動の対面で、俺のようにドライではない。


 幼い頃、山彦と一緒に街を歩いていると、親子連れを羨ましそうに見ていたものだ。


 俺より小さかったから、母親が恋しかったのだろう。顔も覚えてはいまい。


 ちなみに俺は親父似、弟は母親に似だ。時間はかかったが、めぐり会えて本当によかった。


 まあ絵面的には大男が小さい女性を抱きしめてるので、他人が見たら誤解されるかもしれないが、誰にも文句は言わせない。



 しばらくしてから、俺達家族は休憩所に戻った。そしてユーノーと名乗ったエルフの話を聞くことになる。


「はるか昔のことじゃ。ヘスペリスで巫女に選ばれたわらわは、女神アルテミスから啓示を受けた。『私達はいずれ消え、ヘスペリスは魔物に滅ぼされる』とな。焦った妾は、防ぐ方法はないのかと尋ねてみたら『異界の力を借りよ』と言われた」


 聞き逃さないよう、誰もが静かに聞いていた。


「そこで妾は婆様と相談し、霊道アウラを開いて異界に向かったのじゃ。ヘスペリスに帰れるかどうかは分からんかったが、他に手はなかった。着いた場所は日本の海、妾は漁師に救われ、そのまま夫婦になって子をなした。それが海神家の始まりじゃ」


「だから姉上は突然いなくなったのですね? 俺達は霧の外に出てしまった、とばかり思ってました」


「そうじゃな兄者。くまなく探したけど見つからんかった」


「すまんのうロビン、アラン。誰にも告げず秘密にしたのは妾の動きを、邪神に気取られるわけにはいかなかったからじゃ」


「なるほど」


「それから妾は夫を助け、海神家を大きくしていった。機械文明が発達していく時代で、強力な兵器も作られていた。武器があれば魔物に勝てると妾は確信し、子孫達に作らせた。あとはヘスペリスに帰る機会を狙っておったのじゃが、霊道がいきなり開いて計画が狂った……」


「……それって、私のせい?」


「そうじゃのう、我が姪よ。地球にオドの力は少なく、魔力を少しずつためておったのじゃが、子孫の穂織が襲われていては見過ごすわけにもいかず、神怪魚を送り返してやったのじゃ。じゃが悪いことだけではなく、開かれた霊道のお陰で婆様と連絡がつき、お力を借りることができた。ヘスペリスに来るのは遅れたがのう」


「それに俺は巻き込まれたと……」


「すまんかったのう勇者。お主にとっては災難じゃったろうが、ヘスペリスに科学技術を伝えてくれて感謝しとる。でなければ神怪魚と魔物に皆やられていたじゃろう」


 ユーノーが頭を下げると、族長達とみんなも頭を下げた。

 もはや責める気はないので、謝られると居心地が悪い。


「みなさん頭を上げてください。俺は百科事典の翻訳と通訳をしただけで、何もしてない」


「いやいや海彦殿がいなかったら、我らにどれだけ犠牲がでたかわからない。本当に皆感謝しておるぞ」


「そうじゃのう」

「うむ」


 褒められると、こそばゆい。


 こうしてユーノーの話は一段落して、あらましの事情は分かった。


 あとは俺を探していた穂織と山彦と一緒に、霊道を開いて潜水艦でやってきたのだ。


 ナイスタイミングとしかいいようがない。実際危ないとこだった。


「あれ……」


「海彦どうしたの?」


「女神の恩恵が戻ってないか? フローラのエルフ語が日本語に聞こえる」


「本当だわ!? 海彦は日本語を喋ってるのよね?」


「ああ」


 女神は消えたはずなのに、世界の通訳機能が復活していた。


 一体どういうことなんだー?


  ◇◆◇◆


 ――天界


 そこは大理石で囲まれた広大な庭園があり、美しい花々が咲き乱れていた。


 近くを流れている小川は澄みきっていて、あきらかに人界のものとは違う。


 これぞ絵にも描けない美しさ。


 そこにこつ然と、一人の老婆が現れる。


 一瞬で姿が変わり、黒ずんでしわくちゃの皮膚が地面に落ちて消えた。


 まるで人皮を脱ぎ捨てたかのようだが、正確には受肉した古い体を捨てたのである。


 彼女は本来の姿を取り戻して若く美しい女性に変わり、どこからともなくキトンを手に取って裸身に身につけた。


 彼女は歩き出して、大きな広場へと向かう。そこには彫刻された五つの椅子があった。


 座している者はおらず、彼女を出迎えたのは五人の淑女。


 ――ヘスペリスの五女神である。

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