第238話 混乱したので、ちゃんと説明して欲しい
逃げていく魔物にたいし、山彦は追い打ちはしなかった。
ミサイルはまだありそうだが、撃つだけ金の無駄だし、ヤケクソになって向かってこられたら厄介である。
だから追い払うだけにしたのだろう。魔物軍は残ったが、対処はあとから考えればいい。
これでしばらく攻めてくることはない。冬も近いしな。
山彦は全て理解して行動している。やっぱり頭のいい弟だ。
こうしてヘスペリスの危機は去った。落ち着いた俺は雅に頼む。
「雅さん、みんなにラジオで伝えてくれ。勝ったと」
『はい海彦様……ヘスペリスの皆さん、魔王は勇者に倒されました。魔物軍は逃げていきました。私達の勝利です!』
「うおおおおおおおおおおおおおおー!」
「やったあ――――! 勝った――――!」
各地で歓声が上がってるようだ。ここまで空耳が聞こえてくる。
分かりやすく雅が放送してくれたのは良いが、話をはしょりすぎていて、あとから誤解をまねきかねなかった。
俺が一人で魔王を倒したみたいじゃねーか!
やったのは山彦と潜水艦の攻撃である。まあ、勝利に水を差すつもりはない。
改めて各部族に無線連絡をすると、族長達は予備の気球でアルテミス湖に向かってくる。
気球の数もかなり増えており、空を移動するのが一番早い。
俺達は港近くに気球を着陸させる。少し広い場所さえあればよかった。
浮上した潜水艦は、ゆっくりと移動して港に近づいてきていた。が、途中で停船しゴムボートを外に出して人が乗り込む。
港は水深が浅く狭いので入港するのは難しいのだろう。船体が大きすぎる。
ゴムボートに乗ったのは三人。山彦と穂織がいたのは予想通り。
海神グループは軍需企業でもあるので、軍艦を造っている。国内
山彦はお嬢様の力を借りて、俺を助けにきたのだろう。
そしてもう一人は、レインコートを着て顔を隠していた。
恐らくは今回の
でなければ異世界のヘスペリスには来られない。
恩人には礼を言いたいので、あとで海彦に紹介してもらおう。
俺は気を揉みながら桟橋で待っていた。嬉しくて顔がゆるんでしまう。
なにせ弟との二年ぶりの再会だ。
ゴムボートが桟橋に横付けされ、俺はすぐに渡し板をかける。
歩いてきた山彦と俺は顔を合わせる。
「兄ちゃん……」
「山彦……」
俺達は感極まって何も言えない。そこに、
「海彦さーん! わ――――ん!」
「ぐおっ!? 穂織さん?」
俺にタックルして、
そのまま大泣きし、しがみついたまま離れない。これには参った。
前に婆の水晶玉で見たときは暗い顔をしていたので、俺の事をずっと心配してくれていたのだろう。
あと罪悪感もあるのかもしれない。気持ちは十分、伝わってくる――!
「あんたー! 海彦から離れなさいよ!」
突然、フローラが近づいて穂織を俺から引っぺがす……いてえー。
フローラは怒り爆発状態。
他の女達とはよく喧嘩してるが、ここまで怒ったのは見たことはない。
なんでや?
「痛いわね! いきなり何すんのよ!」
お嬢様も負けていない。フローラをにらみつけて詰め寄る。
どうやら馬が合わないらしい。髪と目の色は違うが、なぜか顔はソックリな二人だった。
一触即発の中、三人目が割って入る。
「お主ら止めんかい! 男の取り合いは見苦しいぞよ!」
「なによアンタ! 横から入ってくるんじゃないわよ――――えっ!? 私!?」
フローラはその顔を見て驚き、俺もビックリする。
両耳が尖っているのでエルフなのだが、その顔もフローラそっくりだったのだ。
同じ顔が三人。一体どうなっているんだー!?
「妾の名はユーノー。お主の叔母じゃな、お姉ちゃんと呼ぶがよい」
「誰が呼ぶか――――!」
フローラは切れまくる。いきなり訳の分からないことを言われたらむりもない。
うーん。ますます混乱してきた。
そこに、エルフ・ダークエルフ族長のロビンさんとアランさんがやって来る。
「「姉上――――!」」
「おおっ! 弟達よ久しぶりじゃのー! 150年……いやヘスペリスでは三〇〇年ぶりかのー」
もうわけがわからん。混乱の極みだ。
「……すみません。話についていけませんので、場所を変えませんか?」
「そうじゃの。まずは落ち着くとするかのー」
大騒ぎになって収拾がつかなくなり、俺達は港の休憩所に移動することにした。
船乗りの食堂なので、かなりの人数が入れる。
あいにく回収したので食い物はなかったが、茶葉は残っていたので、みんなでお茶にすることにした。
リンダが手早く用意して俺も手伝う。もめた時のまとめ役なので、本当にありがたい。
それと山彦がクーラーボックスに茶菓子を入れてきており、みんなで食べることができた。
気が利く弟のお陰で助かる。久々に食べる日本の駄菓子は美味かった。
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