第237話 涙は押さえられない

「あれは日本の潜水艦だ!」


「映画で見た、水の中を進む船ね!」


 俺はうなずく。神怪魚でないのにホッとはしたものの、不安はぬぐえない。


 何をしにきたのか分からないからだ。ヘスペリスを侵略しに来た可能性もある。


 ……まてよ、こうした軍艦を造ってる企業と言えば、



「あれは、なんだわさ!?」


 リンダが叫ぶ。考える間もなく状況は動く。


 潜水艦の内部から、上甲板に何かがエレベーターで上がってきていた。


 それは、折りたたまれていた翼を広げる。


「飛行機、いやドローンだな。だから危険を承知で浮上したのか。晴嵐せいらんを積んでいた伊四百型潜水艦のようだ」


 ドローンはプロペラを回して発進する。小型機なので滑走路は短くても十分なのだろう。


 空に上がり、あちらこちらに移動を始めた。カメラが付いてるので偵察機なのかもしれない。


 さらに潜水艦からは、マルチコプターが数機飛び立っていた。


 そのうちの一機が俺達の気球に近づいてくる。


「むっ!」


 俺達は警戒するが、マルチコプターのスピーカーから声が聞こえてくる。


『あーいたいた、あんちゃん! 無事でよかったー! すぐに片付けるから、少し待っててね』


「その声は山彦!」


 血を分けた弟の声を忘れるわけがない。何年経とうとも。


 驚くと同時に、ヘスペリスにやって来たわけにも気づく。


「そうか……俺を探しにきてくれたんだな……」

「海彦……」


 俺は嬉しくて涙をこぼす。フローラは俺を気遣ってくれた。


 腕で涙をぬぐい、気球全機に高度を上げるようにいった。安全のためである。


 山彦は状況を分かっているのだろう。魔物軍団を倒す気だ。


 海神グループが造った最新鋭の潜水艦だとすれば、余裕でやれるはず。



 飛行機ドローンが、魔王がいる陣へと向かっていく。大将狙いだ。


 まずは空対地のヘルファイアミサイルが発射され、陣の近くで爆発し魔物の数匹が吹っ飛ぶ。


 ドローンはそのまま接近して、小型のバルカン砲を撃つと、けたたましい音が鳴り響いた。


 最新兵器の攻撃をまともに喰らえば、跡形ものこらないはずだが、


「やっぱり精霊の盾はすげーな。ミサイル攻撃も防ぐか……」


「魔王を守ってる魔法使いも強そうね」


 親衛隊の大半が倒れ伏していたが、魔王は健在。ローブを着た魔物達が、ナイアスの守りで完全防御していた。


 飛行機ドローンが弾を撃ち尽くすと、潜水艦へと戻っていく。


 ただ攻撃を止めたわけではない。今度は機銃をつけたマルチコプターが、横四方から魔王を撃っていた。


 これも赤い精霊が弾を防いではじく。


 俺は違和感を覚えた。銃が効かないのは、山彦も分かっているはずだ。


「そうか、そういうことか! 横からの銃の攻撃は目くらまし。本命は――――!」


 マルチコプターも弾を撃ち尽くすと、陣から離れて行く。


 いや巻き添えにならないよう、急いで退避行動をしたのだ。


「ホッ、ギャ――!?」


 ドローン攻撃をしのいで、魔法使い達の気がゆるみ精霊の盾が消える。


 その瞬間、直上から何かが陣に落ちて大爆発が起きる。ドゴ――――ン!


「SLBM……ミサイルだ。恐らく秒速四キロメートル、威力も半端ではない。マッハの速度で飛来してきたら、精霊の盾も間に合わん。それとあの爆風は防げん」


「……恐ろしいわね。これが本当の兵器」


「魔王の首が飛んだわさ!」


 リンダに言われて、見て見ると――――おいおい、コッチに向かって飛んで来てるじゃーねーか!

 まだ生きてんのかよ!? こえええええー!


 魔王は目を見開いて、憤怒の表情。


 裂けた口を開け、俺に向かってくる。噛みついて殺す気だろう。二本の牙が光る!


「海彦!」


「おりゃあ――――!」


 俺はとっさにロングナイフを腰から引き抜き、そのまま突き出す!


「おのれー! 勇者めー!」


 ナイフは顔面に突き刺さり、魔王は恨みの言葉をはく。


 だがそれまでだった。頭だけの魔王は塵になって消えていく。


 最後の悪あがきだったのだろう。



「……ふう」


 ホッとした俺がよろめくと、フローラが支えてくれた。


 そして他の場所でも爆発が起きていた。潜水艦のミサイル攻撃は終わっていなかったのだ。


 ただし魔物を直接狙ったものではない。


「兵糧置き場を狙い撃ちか……流石は山彦だ。抜け目はない」


「これで魔物達は戦えなくなったわね」


「ああ、もう戦争は終わりだ。魔王も死んだしな」


 食い物がなければ、飢えて死ぬだけ。十万もいたら直ぐに足りなくなる。


 魔物達は爆発音と、立ち上った煙を見て大混乱。


 陣の近くにいた部隊から状況は全軍に伝わっていき、魔王が死んだことも分かったようだ。


「アギャー!」


 魔物達は武器を放り投げ、我先と逃げだし始める。完全な敗走だ。


 大軍勢がいたのに、大将の魔王があっさり討たれてはどうしようもない。


 信長公が勝った桶狭間の戦いと同じだ。奇襲じゃないけどね。


 未知の攻撃に恐れおののき、北へと逃げて行く。

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