第236話 もう勘弁してほしい……

「おー、いるわいるわ。魔物がたくさん」


「……まともには戦えないわね。敵が多すぎるわ」


「だわさ……」


 俺はフローラとリンダと一緒に気球に乗って、空から敵状視察。


 十万の魔物軍団は圧巻の一言。これだけ多いと、恐れるよりも開き直れる。


 フローラの言うとおり、少数で挑んでも負けるだけだ。



「見慣れない魔物も一杯いるなー。あの一万ですら、先遣隊にすぎなかったようだな。こいつらが本隊」


「しかも、部隊ごとにちゃんと行動しているわ」


「見えたよ、アレが親玉だね」


「どれどれ……」


 フローラとリンダは肉眼で確認し、俺は双眼鏡で見て見ると、魔物軍団の後方に四角い陣があった。


 陣は盾に囲まれ、さらに魔物達が守っている中心に、派手な椅子に座ってる者がいた。


 姿は人、タキシードにマントで裏地は赤、明らかに異彩を放っている。


 上空を見上げ、俺にガンを飛ばしてくる。奴もコッチが見えてるようだ。


「吸血鬼か!? 日中でも動けるデイウォーカー。恐らくあれが魔王……でもなー……」


 顔が某総帥のように見えるのは、気のせいだろうか?


「海彦、どうしたの?」

「いや、何でもない。他人のそら似だ」


 俺達が偵察を続けてると、魔物達に動きがあった。


「魔法使い達が集まって何か始めたわね。あれは丸い核!」


「黒いゴーレムだわさ!」


「…………こんどは、ド○かよ」


 しかも、お約束の三機。某なんちゃらアタックでもやる気か?


 ただ大きさは十メートルほどで、前のゴーレムよりは小さく、城塞攻略用ではないのは確か。


 黒ゴーレムは動き出して、三方向へと分かれていった。


 小さい分、魔力の燃費は良いのだろう。ゴーレムの動きは早かった。


「……そうか、水路までの迂回路を作る気だな。ゴーレムを先頭にすれば、罠もへっちゃらだ。やっぱり知恵がある」


「前の戦いで、レールガンの威力は知ったし、城塞は落とせないと分かったんでしょうね」


「だわさ。もっともアルテミス湖に、仲間は少ししか残ってないわ」


 もう味方の撤退は完了しており、城塞と砦に残っているのはわずかな人数である。


 胸壁には人形を立てて、戦士達がいるように見せかけている。


 せいぜいビビってくれれば、時間は稼げる。


 今頃族長と戦士達は水路を塞いで、待ち構えているだろう。


 無理に魔物を倒す必要はなく、遅滞戦闘とゲリラ戦をするだけだ。ようは足止め。


 時間が経てば経つほど、俺達が有利になる。あと少しで季節も変わる……。


 激戦が予想されるテミス湖の水路には、リーフがいったので心配はない。



「よし、戻るとするか。あとは敵の動き次第だ。奴らが散らばったら仕掛ける!」

「ええ!」


 俺達は偵察を止めて、基地に帰還しようとしたところ、


『海彦、大変だわん!』


「どうした!?」


 弐号機のハイドラから無線が入る。別な空域で偵察をしていたのだ。


 また魔物の増援じゃねーだろーなー。勘弁してくれー!


『アルテミス湖を見てん!』


「あれは!」


「うそっ!」


 でかい湖の真ん中に大きな円ができて、光り輝いていたのだ。


 二年前のあの時と同じ。ヘスペリスにくるきっかけを、俺は忘れようがない。


霊道アウラだわ!」


「だよな。フローラが開いたわけじゃないよな?」


「ええ、そんなことをしてる暇はなかったわ。霊道を開くには全神経を集中させないといけないし、オドの力を使うのに時間もかかるのよ」


「そっか。だとすれば、別な誰かが開いたわけか。それとも噂の邪神がやったのか? こんな時に神怪魚ダゴンの相手まで、やってらんねーぞ!」


 俺は頭を抱えるしかない。イレギュラーもいいとこだ。


 魔物軍の相手だけで手一杯のとこに、不確定要素が入れば作戦が失敗しかねない。


「…………」


 無言のまま時が過ぎる。


 もはや手の打ちようがなく、何が出てくるか見ているしかなかった。


 やがて黒い影が湖面に浮かんでくる。


「……鯨よりでけーな。全長は五十メートルくらいか。リーフよりはるかに大きい……」


「ええ……」


 こんなのが襲ってきたらおしまいだ。


 ただ妙なことに、そいつは途中で浮上をやめ、動きがピタリと止まる。


 俺が首をかしげていると、棒のようなものが水上に顔をだす。


「潜望鏡だと!? だとすれば潜水艦!」


 潜望鏡が引っ込むと、船体がゆっくりと浮上してその姿を現す。


 船橋には文字が描いてあり、艦名は「潮干丸しおひまる」。

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