第235話 格好はつけさせない

「話は決まったのう。ならば儂らは城塞に残って、殿しんがりをするとしよう」


「そうじゃな、兄者あにじゃ


「父さん何を言ってるのよ!? ココにいたら死ぬでしょうがー!」


「パパ、駄目よん!」


「そうか、なるほどのう。儂も残るぞい」


 父と娘が言い争いを始めてしまう。


「海彦……」


 さらに突然、オグマさんに呼びかけられて俺は驚く。初めて「うむ」以外の言葉を聞いた。


「リンダを頼む」

「ふざけんじゃないよ! 親父!」


 リンダはキレて、オグマさんに噛みつく。会議は一転、親子喧嘩の場になってしまった。


 族長達の考えは分かる。自分達を囮にして、作戦開始まで時間稼ぎをする気なのだ。


 城を枕に討ち死に、そして娘と嫁さんを逃がす。


 戦国時代ならともかく、現代戦でそんなことはしないし、やる意味もない。


 命を粗末にするような真似は、絶対にさせない。俺は語気を強めて言う。


籠城ろうじょうは却下します! 総大将としての命令です!!」


「うっ……」


 嫌な役目を押しつけてきた族長達へのお返しだ。立場は俺が上なので、ぐうの音も出まい。


 もちろん意地悪するだけではなく、理由もちゃんと説明する。


「俺達の最強兵器であるレールガンの威力は、もう魔物達に伝わっているでしょう。だったら、城塞攻めをしてこない可能性が高い。ここにいても待ちぼうけになるので、無駄です!」


「そうねん。一発でやられたら、私は我慢できないわん!」


「妾もそうするのう。迷わず彦海へ進軍じゃ!」


「…………」


 娘達にも言われて、父親達は黙るしかない。ハイドラの発言は無視する。

 エリックさんは豪快に笑う。


「わはははははは! これは一本とれられたのう。老いては子に従えと言う。これは婿殿に任せるべきじゃ」


「……うむ」


 婿じゃねー! 突っ込みは心の中だけにしておく。いちいち反応してたら切りがない。


「一応、城塞には何人か残ってもらい、空城の計をしますよ。魔物達への牽制けんせいです。ただし直ぐに逃げられるように、気球や自動車を置いときます」


「それでしたら、私が光精霊を使ってケラウノスを動かしてるように見せますわ。光が見えただけで、魔物達はさぞビビるでしょうね。うふふふふふ」


「あまり無茶はしないでくれよ、雅さん」


「雅様は私が守る!」


 ミシェルがいれば大丈夫だろう。特に心配することもない。


 これで意見は出尽くした。あとは実行あるのみ。


「じゃーみんな、よろしく頼む!」


「ええ!」



 会議が終わった後、ラジオで徹底抗戦することを皆に伝えた。


 詳細は族長や部隊長から話してもらうことにして、俺は演説をする。


『勇敢なるヘスペリスのみんなに告げる。我がケラウノスによってザ……ゴーレムは倒れた。たとえ巨人だろうと俺達を倒すことはできない! どんな敵だろうが、何万の魔物がこようが、打ち砕いて見せる! 立てよ戦士達! 魔物を倒し正義を示すのだ!!』


「おお! やったるぜ!」


「勇者海彦がいる限り、俺達は負けはしない!」


 俺の演説で盛り上がったようだが、ただの詭弁だ。某総帥のまね。


 でもこうでも言わなければ、恐くてみんな逃げだすかもしれない。


 蟻の一穴で城が崩れるように、士気を下げるわけにはいかなかった。


 最終作戦準備は、俺が思った以上に早くすすむ。


 みんな勤勉だし協調性があって、もめ事を起こさないからだ。これには頭が下がる。


 地球だったら、人同士の思わくや面子がぶつかりあって、まとまることなど滅多にない。


 この団結力があるかぎり、ヘスペリスは負けはしないだろう。



 親父とお袋と話をしようかと思ったが、これから酷いことをするので止めた。


 息子が悪人になるのは見たくもないだろう。


 俺も気が引けるし、縁を切られるのも覚悟の上だ。


 なので両親のことは、フローラに任せることにする。


「わかったわ……」


「悪いが頼む」


 何か言いたそうにしていたが、気持ちを察してくれたのだろう。感謝だ。


 城塞からの撤収作業は大詰め、水路の防衛線構築も順調だ。


 テミス湖の水路にはリーフを送りだし完全封鎖した。最強聖獣に勝てるわけがない。


 他の水路には伏兵を配置して、丸太や廃船でバリケードを築いていた。


 これで他の湖への侵入を防ぐ。


 水路で勝つ必要はなく、時間さえ稼げればいいのだ。あとは……


「どうですか、チャールズさん?」


『おう、アレへの積み込み作業はもうすぐおわる。戦士達もやる気満々じゃ!』


「わかりました。敵の戦線が伸びきったところで、エアーレイド作戦を開始します!」


 ……そして魔物の大軍がやってくる。

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