人生のネタばらしをひとつすると、奇跡は起きる。こちらのタイミングなど読まない。唐突に起こる。ふと手にした本に心から求めていた言葉を見つけたり、全てから楽になろうとしていたその時に、何気ない誘いの電話が鳴ったりする。
今このレビューを読んでいるあなたが、もしも、壊れそうな心を抱えながら毎日を過ごしていたとして。この物語を読んで、単調な往復を降りてしまえたら、手を引いてくれる誰かがいたら、こんなに素敵なひとときを過ごせたら……と、思いを馳せることができたとしたら。
あなたも作中の少女たちのように、ゆめみる貨物になれたということだ。
この『ゆめみる貨物列車』という小説との出会いは、僕にとってもまた、非日常という、忘れ難い奇跡だった。
いつかこの先、絶望の底に沈んでしまった時、この物語が胸の中で煌めくだろうと僕は思う。
こんな、人生の救いになるような1日のことはきっと一生忘れない。どちらにとっても。
コンビニじゃなくてちゃんとしたベーカリーで買ったパンを食べているクラスメイトに憧れる気持ちってわかる。私も高校の頃、登校途中に「太陽堂」というベーカリーでパンを買って学校に持って行ったことがある。ただし、菓子パンや調理パンでなく、太陽堂名物の玄米食パンを一本。三斤ぶんの長いやつ。炊いた玄米がたっぷり練りこまれている重量感のある温かいパンを抱えて歩くわたしは、中型犬を抱いているようだった。他人から憧れられないクラスメイトの例だ。
書きながらものすごくどこか遠くに行きたくなって来たけど、今普段居住しているところからずいぶん離れたところで越冬中なのだった。居心地が良いとそこが「普段」になってしまう。
あちこちに、居心地がよい場所があるとよいね。それが多いほど、自由だ。それを探す旅は気楽で楽しい。同じくらいのテンションの相棒がいればなおさらだ。