第45話 金髪美少女
「確認ですけど、元の世界へ戻ると、元の世界の時間の流れに戻るんですよね?」
「せやで。ウチが異世界転生した時から、この世界にトンネルが出来てるねん。今はそこの蓋が閉まっているから、それを開けたら元の時間軸――こっちの世界に居た数日分の時間が過ぎた、向こうの世界に戻るねん」
つまり、リナさんが失敗して三十年前に来てしまったけれど、元の世界へ戻れば、ちゃんと三十年後の世界へと戻れるそうだ。
何でも、このトンネルを作るのに十年分の魔法の力が必要らしいけど、既に作られたトンネルを通るだけなら、数日分の力で良いらしい。
「しかし、この伏見稲荷大社の池が異世界へ繋がっているだなんて、思いもしませんでしたよ」
「んー、ウチがこの場所を選んだ訳やないねんけど、もしかしたら不思議な力が働いている場所なんかもしれへんね」
流石は大きな神社と言ったところか。
ここには、魔法を使うリナさんにも分からない、不思議な力がある場所なのだとか。
いや、魔法以上に不思議な力があっても困るけど。
「ママー?」
リナさんに抱っこされたミウちゃんが、何のお話をしているの? とでも言いたげに、声をあげる。
ちなみに、ミウちゃんは未だに狐耳が生えたままだ。まだ朝の八時過ぎで誰も居ないけれど、念のため頭にフードを被せている。
「ところで優ちゃん。ミウを病気って事にして、ウチだけ皆に挨拶してきたけど……ホンマにミウは大丈夫なん?」
「大丈夫です。リナさんが元の世界へ戻る事、それがミウちゃんを元に戻す方法だったんです」
これに気付けたのは、リナさんが何度も僕に迫ってきてくれたからだ。
だから僕は、この方法が絶対に正解だと確信している。……検証は出来ないけど。
「優ちゃんが自信を持って言ってくれているけど……大丈夫やんな?」
「はい。僕を信じてください」
きっとリナさんは、僕の提案した方法で本当にミウちゃんが元に戻るのかが心配なのだろう。
僕も、どうして元の世界へ帰るだけで良いのか、本当は教えてスッキリさせてあげたい。
だけど、言えない。これは、リナさんに話す事が出来ない。
「じゃあ、優ちゃん。ウチとミウは、元の世界へ帰るね」
「えぇ。僕たちの子供、川村優太によろしく言っておいてください」
「……じゃあ、また三十年後に」
「そうですね。また会えるのを楽しみにしています」
リナさんが軽く手を振り、目の前の池に向かってミウちゃんを抱っこしたままジャンプする。
すると、僕には見えない何かがそこにあったのか、音も無く二人の姿が消えてしまった。
「はは……随分と簡単に異世界へ行けるんだね」
一瞬、僕もやってみようかと思ったけれど、本当に異世界へ行ってしまっても困るので自重する。
「さて、リナさんの件はこれで一件落着したし、今から明日香と水族館デートだ。今日こそは、あの言葉の続きを伝えないとねっ!」
昨日の夜、皆を集めたリナさんが僕の事が誤解だったと謝り、家に帰ると挨拶をしていた。
優子は驚き、琴姉ちゃんはミウちゃんに会えなくなる事を悲しんで、明日香は何とも言えない複雑な表情をしていた。
そんな明日香にビシッと僕の気持を伝えるためにも、頑張らなくては。
しかし、前回の告白の続き……という事で、この池を待ち合わせ場所に指定したものの、待ち合わせの九時まで何をしていようか。
リナさんの帰還があっさりと終わってしまったので、何をして時間を潰そうかと考えていると、
「あ、パパー!」
突然可愛らしい声が耳に届いた。
どこかで聞いた事があるような黄色い声だと思った所で、
「優ちゃーんっ! えへへ、来ちゃったー!」
綺麗な金髪の女の子が僕の胸に飛びついてくる。
「え!? えぇっ!? どうしてっ!? 元の世界へ帰りましたよねっ!? リナさんっ!」
どういう訳か、消えたはずのリナさんが再び現れた。
「残念! ママじゃありませーん。ミウだよー。お爺ちゃん、見事に騙されたねっ!」
「お爺ちゃん……って、ミウちゃんなの!? え!? でも、大きくなってる!?」
「うん。今、十七歳だよー。あの時――ママとミウを元の世界へ帰した時、お爺ちゃんの考えが正しくて、ちゃんと本来のミウに戻れたんだってー。でも、お爺ちゃんはその結果が分からなくてモヤモヤしていそうだから、ママが教えてあげてきてーって、ミウをこの時間軸へ送ったの」
「送ったの……って、過去に戻るには、十年の歳月が必要なんだよね?」
「そうだよー。でも、あれからもう十五年は経ってるもん。と言う訳で、ついでに観光していこうと思うんだー。お爺ちゃん、ミウをお家に泊めてね」
リナさんそっくりの美少女に育ったミウちゃんが、僕の家に泊めて欲しいと言ってくる。
いや、だけどさ。リナさんが帰った直後だというのに、皆にどう説明すれば良いんだよっ!
嬉しい半面、どうしたものかと考えていると、
「そうそう、お爺ちゃん。ママから伝言があるんだー」
ミウちゃんがニヤニヤしながら言葉を続ける。
「こほん。『ウチが帰る事で、ミウが戻ったのは……優ちゃんがウチの事を好きになりかけてたからやろー。絶対そうやわー』だって」
「……」
「あ、お爺ちゃんが言葉を失ってるー! じゃあ、図星なんだ。お爺ちゃんはお婆ちゃんとママとの間で、心が揺れていたんだねー」
「ちょ、ちょっと待って! いや、だってさ、狐耳はズルいよね。萌えるよね」
「へー、なるほど。じゃあ、ミウも魔法で狐耳を生やしたら、お爺ちゃんとイチャイチャ出来るのかなー?」
ミウちゃんが冗談っぽく、リナさん譲りの大きな胸を僕に押し付けてきて……
「……優斗。随分と楽しそうやけど、どういう事か説明してくれる? リナさんは帰ったんじゃなかったっけ?」
「あ、あれ? 明日香!? まだ待ち合わせの三十分前だよ!?」
いつの間にか、いつも以上に気合の入った服装の明日香が目の前に居て、僕をジト目で見ていた。
「私、帰る」
「あららー。お爺ちゃん、じゃあミウとデートする?」
「ちょ、ちょっと待って! 明日香、明日香ってばーっ! この子は……誤解なんだーっ!」
僕はどういう星の下に生まれたのだろうか。
幼馴染に告白したいのに、金髪美少女が全力で迫ってくるっ!
完
幼馴染に告白したいのに、金髪美少女(子持ち)が全力で迫ってくる 向原 行人 @parato
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