第59話 君の役に立ちたくて

 ボーイッシュな彼女は、ボクを初めて見たときから「カッコいい!」と言って、朗らかに笑んでくれた。


 帰宅すると真っ先にボクに挨拶をし、眠れないときはいつもボクの横に来た。

 うっかりボクが倒れたときには、心配して背中を撫でてくれた。

 そうやって九年程彼女と過ごしたけど、別れは突然やって来た。

 彼女はある時を境に、ボクに一切触れなくなった。

 スマホ、というものをいつも触るようになり、ボクを押し入れの隅に追いやった。

 ボクはそこで暫く眠っていたようだ──。


 ある日家が軋むのを感じた直後、とても久しぶりに、大人になった彼女と対面した。


 背中の電池が入れ換えられた。

「良かった、まだ生きてる!」

 そう言って、彼女は彼女の家族と喜んだ。


『ピー……ザザ……非常に大型で強い台風◯号の上陸と共に広い地域で停電に……』


 ボクはラヂオ。思い出してくれてありがとう。

 キミのこと、やっぱり愛してるよ──。

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