一言で解説してしまえば「オタク検定を受ける話」だ。で……。
「この私が最後まで面白おかしく読んだ」
ここだけ見たら「いや、お前誰だよ?」と思うだろう。
なので先に私の属性を書いておこう。
ここ20年全くテレビを見ていない。
漫画も読まない。
ゲームもしない。
アキバは電気街の頃しか行ってない。
オタクと名のつくものと最も遠いところにいる。
オタク文化のうち99%を知らないと言ってもいいだろう。
その私が、最後まで面白おかしく読んだのだ。
オタク文化に対する深い造詣が主人公の口から言葉として紡ぎ出される、その様子はまさに『愛』。オタク文化への深い愛情無しにはとても書ける物語ではないのである!
オタク文化の知識が皆無である私ですら、読み終わるころにはちょっとコスプレしたいかもとか思い始める始末。
(PLUTOのエプシロンで!)
(全然コスプレになってない件)
(やっぱりオスカルにしとく)
本文中に出てくる一問一答クイズが面白い。読者参加型になっているので、楽しみの一つでもある。(因みに私の正答率は10%に満たない、それでも面白い)
ラブコメパートも違和感なくスルスルと引き込まれ、最初は応援していたのに最後の方ではヤキモチ妬くほど感情移入している。
書いてる内容がさっぱりわからないのに、だ!
なんなの、これ、一体何の魔法?
惣流・アスカ・ラングレーって誰、「そうりゅう」でいいのか、読み方!
SEEDって何、ガンダム? 見てないし!
キテレツのブタゴリラしか知らなかったよ!
……って人でも大丈夫、面白いから、マジで!
主人公はブラック企業に勤めるオタクのサラリーマンです。
そんな主人公が、いきなり未来に拉致されるところから物語は始まります。
拉致された先――三百年後の未来の日本では、貿易の中核をなす固有の国家資産がオタク文化しかなくなっているという状況になっています(オタクといっても色々とあるでしょうが、いわゆる漫画・アニメオタクの文化です)。しかしそのオタク文化は世界的な人気となっているらしく、もはやオタク文化の知識がなければ社会的に生活することも就労することもできないという設定です。
そんな世界へ主人公が連れてこられてきた理由は、本作のヒロインであるお嬢様にオタク知識を教える家庭教師として適切な人物であると判断されたためでした。
そうして、お嬢様と主人公によるオタク文化のレッスンが始まります。
こうしてあらすじを書くと、不安に思われる方がおられるかもしれません――ひょっとしてこれは、オタクによる自己満足の作品ではないか、と。
しかし――ここが最もよくできているところなのですが――オタク的な趣味を何一つとして持たない人・知識を持たない人でも愉しめるように、本作では最大限の工夫が凝らされているのです。
まず、この作品はラブコメです。
そして、作中で随所に挿入されるギャグはきちんと笑えるようになっています。登場人物にいたずらに面白いことを言わせるのではなく、万人が笑えるギャグを厳選して挿入し、読者を飽きさせないよう物語に締りを作っている印象です。
作中で行われるオタク知識のレッスンも、知識のひけらかしではありません。どちらかといえば、日本文化史の一区画を愉しく分かりやすく解説しています。
主人公もまた一部分の人々の代表者ではありません。アニメの在り方は変わらない、アニメは元々家族で観るものである――などといったオタク的信念は言わずもがな、漫画・アニメなどに対するメディアックス展開への意見・見解もしっかりしています。これらの意見・見解は広く一般的な読者と同じものであり、主人公は大衆の代表者と言うべき存在でしょう。
このように、本作はオタク文化に特化したニッチな作風を取りつつも、おおよそ万人が愉しむことができるラブコメディーとなっているのです。