第9話 最終弁論:弁護側

 黒江は紫蝶祈祷師である。

 紫蝶祈祷師は配備されたら最後、ほぼ代わりを見つけることもできず、自分のやりたいこともできず、時には親の死に目にも会えない事も珍しくない。

 普通の人に許される旅行、遠出、ふるさとの景色を見る、そんなことを一切許されないのが現状である。

 そんな黒江氏がやっとの事で、時間を作り、人生でひょっとしたら最後になるかもしれない「レジャー」の場所として八田神村を選んだ。幼い頃からずっと憧れていた秘湯「龍神温泉」にやっとのことで浸かる事ができたのだ。

 彼にとって「レジャー」というのは冥土の土産に値するほど、貴重なものだったに違いない。

 彼が一体何をしたというのだろうか? なぜ彼はまるで罪人のように縛られた人生を送らねばならぬのだろうか? 彼はむしろ彼しか救えない何人もの紫蝶病患者を救ってきた。彼がいなければ、もともと紫蝶病患者は2時間で死ぬはずだったのに。なのになぜ彼の大事な人生をもぎ取ることが正当化されるのだろうか?


 そもそも八田神村の駐在は九十九氏のはずである。にもかかわらず、九十九氏は自分の都合を優先するために、村を守るという義務を放棄して村を発ってしまった。これこそ重罪にあたる。

 罰すべきは黒江ではない、九十九氏である。

 よって黒江氏は無罪である。


 *


 判決は裁判員に委ねられた。

 あなたが裁判員なら、黒江は有罪? それとも無罪?


 はて、似たような話を聞いたことがあるような、無いような……。

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紫蝶病裁判、真実は何処へ…… 木沢 真流 @k1sh

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