outro

 双子の店を出た時には、すっかり日が暮れていて街灯が通りを照らしていた。

 明日にも仕事に行くので、挨拶のつもりが話し込んでこんな時間になってしまった。

 珍しくマシェルルトは不安を隠さずに、何度も何度も仕事の内容を聞きたがり、いつも通りの探索といっても信じようとしない。

 最後にはドゥルボルトの一言で、マシェルルトは顔をうつむかせて黙ってしまったのだった。

「心配ないよ、マシェ。終わったらすぐここに来るから」

「絶対だよ?」

「あまり心配されると、こちらも不安になるなぁ」

 バシッと腕を叩いて、マシェルルトは気持ちに区切りをつけたようだ。

 最後は気持ちよく見送ってくれようとして、それはかろうじて成立した。

 小屋に帰ると、マワリが待ち構えていて、私は急いで料理をした。

 マワリにはマシェルルトの感じる不安のようなものは、少しもないらしい。

 バタバタと食事にして、短めに剣の稽古をしたら、すぐに眠った。

 翌朝、朝食が終わればすぐ出立だった。

 一人で少し離れた多頭龍を探索するのが今回の仕事になる。

「無事に帰ってくるんだよ」

「了解」

 軽く手を挙げて、私はキウを歩かせる。

 いつも通りのリーンの街は、早朝ながら、賑やかだ。

 すぐに街を離れて、今度はガラリと変わって、周囲は一面の荒野になった。

 その日は夜までずっと、無理のない範囲で先を急いだ。

 日が暮れて、野営になった。

 晴れていたのが、雲がわいてきて、パラパラと雨が降ってきた。

 まさか、雨に打たれて夜を過ごすわけにはいかない。

 用意していた簡易テントを組み立て、雨を凌ぐしかないな。

 テントの中で市販の干し肉を噛んで、自作の携行糧食を食べ、水を飲む。

 雨は止む気配がない。テントの中は窮屈だけど、仕方ない。

 雨粒がテントを打つ音を聞きながら、眠ってしまった。

 気がつくと、テント越しに明かりが差していて、私は起き上がると、外へ出た。

 地面は濡れていて、所々に水溜りもある。

 しかし空気は澄んでいて、空は真っ青。

 私は遠くを見据えて、深く息を吸った。

 この世界も案外、美しい。

 悪くないじゃないか。

 キウが鳴いたので、私は振り返った。

 まるで新しい世界にいるみたい。

 私の心の中に綺麗な風が吹き込んだ。



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後に残された世界において 〜あるいは残されたものたちの讃歌〜 和泉茉樹 @idumimaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ