étude 5 誕生日が終わっても

 リーンの郵便局には二つのサービスがある。

 一つは他の町とやりとりする、遠方郵便。これはかなり高額な料金を取る。

 もう一つはリーンの中だけでのやりとりで、普通郵便という。これはどういうわけか、定額制だ。昔からのならわしなのか、あるいは、経済的にその方がいいのか、わからない。

 そんな普通郵便が、私とマワリの生活する小屋に届けられた。綺麗な封筒で、それだけでも保管したくなる。送り主は、マシェルルトだった。

 開封すると、誕生日会の招待状である。

「……うーん」

 居間の机に肘をついて、招待状を吟味する。特に日付を。

「なんだね?」

 本を読んでいたマワリの声に、私の声は知らずに低いものになっていた。

「招待状が来た。誕生日会の」

「あの双子かね」

「誕生日、知らなかった。そして、かなりマズイ」

 深刻と言っても問題ない私の手元から、すっとマワリが招待状を取り上げて、目を通した。

「仕事に行っている日だねぇ」

 そうなのだ。

 招待されたまさにその日、私はリーンにはいない。

 その二日前から仕事でリーンを離れて、戻ってくるのは招待状の日付の次の日だ。

 自分一人の仕事なら日付を調整できたかもしれないけど、運が悪いことに、事前探索の結果を受けての道案内と護衛も兼ねた仕事だった。

 すでに事前探索は済んでいる。私の手元には目的の多頭龍の詳細な情報があって、わずかな可能性として、その情報だけを渡して、私は仕事に行かない、という展開もあるか、な……。

 想像するのは仕事の依頼主だ。リーンの中でも指折りの実業家で、つまり、関係は維持したい。向こうも私を高く買っているから、変なことをすると、こじれるかもしれないな。

 金を運んでくる依頼主か、それとも友人か。

 私はしばらく悩んで、顎を撫でたり、頬に触れたり、髪の毛をかき回したりした。

 そんなことをしても、もちろん、名案は出ない。

「落ち着いたらどうかね。双子に誕生日会を延期してもらうとか、そういう方法もある」

「私のための会じゃないんだから」

「そうかね。では、どちらかを選ぶしかないね」

 また私は考え込むしかない。

 その日はそのまま、答えを出せなかった。でも、返事をしないわけにもいかないのだった。

 翌日、私は貯めていたお金を手にして、リーンの商店街へ足を運んだ。双子の、トゥルボルトとマシェルルト、それぞれにプレゼントを買うため。

 商店街はいつも通りに賑やかで、老若男女がそれぞれにショッピングを楽しんでいる。

 そんな中で、私はちょっと、気もそぞろだ。

 いくつかの店を回って、トゥルボルトにはネクタイ、マシェルルトにはブローチを買った。

 綺麗に包装された包みを持って、いつもはロープウェイを使うところを、ゆっくりと階段で第二層へ移動する。

 とにかく、双子にはプレゼントを渡す。それで、会に参加できないことを、話す。

 二人ともがっかりするだろうけど、怒りはしないと思う。

 でも、そのがっかりが私に起因すると思うと、悲しいな。

 迷いとか、申し訳なさを引き連れて、私は階段を進む。

 あっという間に第二層に降りて、私は双子の店に向かう。何回も通っている道で、見慣れた景色だ。そこに双子の店も入ってくる。既に修理は終わって、真新しい外壁だった。

「こんにちは」

 中に入ると、カウンターにトゥルボルトがいて、すぐに微笑みを向けてくる。

 ちょっと心に刺さる。

「いらっしゃい、トキコ。手紙は届いた?」

 やっぱり、トゥルボルトも楽しみにしているんだ。

「届いたよ。でも、ごめんね」

 私はカウンターの上に袋を置いた。その中から包装されたプレゼントを取り出す。

「これは、トゥルに」

「ちょっとちょっと、急だね」

 作業の手を止めて、トゥルボルトが私の前に立った。

「ごめん、仕事で、参加できないの」

 頭を下げて、私は顔を上げられなくなった。

 でも、少しも間をおかず、トゥルボルトが言った。

「そうか、仕方ないね。気にしなくていいよ。プレゼントをもらうだけでも十分に嬉しい」

 顔を上げると、もうトゥルボルトは私が出したプレゼントを手に取っている。素早く、でも丁寧に包装紙を外すと、その中から現れたネクタイをしげしげと見る。

「良いね、僕の好きな色だし、持っている服とも合わせやすい」

 トゥルボルトはいつも正直だから、嘘じゃないだろう。

 彼は笑って「マシェを呼んでくるよ」と奥に行ってしまった。私はそわそわしつつ、マシェルルトを待った。

 彼女もすぐにやってきて、私の前まで来た。

「ごめん、マシェ、誕生日会、参加できないんだ」

「うん、トゥルから聞いた。仕事なら、仕方ないよね。気にしないで。それよりもプレゼントがあるんだって?」

 私は彼女に包装紙に包まれたブローチを渡す。彼女は兄とは対照的に、包装紙をほとんど破くようにして開封した。

「うわ、綺麗!」

 彼女はブローチを手に取ってしげしげと眺める。

 錬金士の彼女に金属製のブローチをあげるのは、ちょっと勇気が必要だった。材質を見抜かれると、値段も見抜かれそうで。

 そんな心配をよそに、じっとブローチを見つめると、彼女の顔に笑顔が広がる。

「ありがとう、トキコ。誕生日会、実は今回が初めてなの。身内だけでやろうと思ってね」

 意外な言葉だった。マシェルルトが続ける。

「特別に記念とかはないんだけど、一回くらい、やってみるか、って二人で話してね」

「そうなんだ。本当に、ごめんね」

「本当に気にしないで。もっと早く伝えればよかったね。そうだ! 今日の夕飯、ここで食べていかない? 実はそろそろ、誕生日会の料理のリハーサルをしようと思っていたの。食べていってよ」

 結局、私はその言葉に頷いた。

 トゥルボルトと雑談したり、台所でテキパキと働くマシェルルトを見ていると、いつの間にか自分が、穏やかな世界、暖かい世界にいることが、実感できた。

 そしてそういうものこそが貴重で、何よりも大事にされるべきものなんじゃないか。

 脳裏に何人かの人の顔が浮かぶ。

 すでに死んでいったものたち。

 私は彼らの犠牲の上で、生きている。

 私だけが生き残って、こんな幸せな場所にいるのは、少しおかしい気もする。

 何も間違っていないはずなのに、違和感を感じる。

 みんなが幸せになれたはずのに、実際は、大きな差がある。

 何がいけないんだろう?

 そんなことを考えているうちに、豪華な料理が完成し、食卓を埋め尽くすほどに並ぶ。

 三人で話をしながら、食事をしたけど、全部が食べきれるわけもない。マシェルルトが余ったものを包んで、持たせてくれた。

「トキコ、仕事に集中してね」

 店の入り口まで見送りに来てくれたマシェルルトが言う。

「余計なことを考えて、怪我とかしちゃ、ダメだからね。そうなったら、私、もう誕生日会をやらないから」

「大丈夫だよ」

 彼女の子供っぽい発言に、思わず笑っていた。

「でも、ありがとう。気をつける」

「仕事が終わったら、また来てね。マワリさんにもよろしく」

 ふと、思いついたことがある。

「私の代わりにグルーンを呼ぼうか?」

「え? 前にプールで会ったきりだけど、来てくれるかな。剣仙の正統後継者って言っていなかった?」

「そうだよ。マシェとしても、繋がりがあるといいんじゃないかな」

 迷ったようだったけど、マシェルルトは同意してくれた。

 翌日、私は早速、グルーンの工房へ行く。いつも通り、彼は仕事をしていた。彼が休んでいるところは、ほとんど見たことがない。休んでいると言っても、ごく稀に、水を飲んでいるくらいで、外に出たりはしていない。

 プールの件は、つまり、奇跡だった。

「誕生日会?」

 この時もいつも通り、グルーンは仕事をしながら、私の提案を聞いて、仕事をしながら答えた。

「名前はなんて言った? もう一回、言ってくれ」

「マシェルルト」

「聞いたことがない」

 ……本当に他人に興味がないな。

「プールで一緒になったじゃない。一緒というか、誘ってくれた張本人だよ」

「ああ、あの娘か。双子の。思い出してきた」

 もっと真剣に話を聞けば、すぐに思い出せたでしょうに。

「プールに誘ってくれたから、代わりに出向け、というのがトキコの理屈か?」

「違うってば。もっと自然に、友達付き合いとして、行って欲しいの」

「俺に招待状が来たわけじゃない。それに、俺は友達を選ぶ」

 めちゃくちゃだな。

 私はため息を吐く。

「良い腕の錬金士なのよ。繋がりがあっても損はしない」

「良い錬金士の名前はおおよそ、把握している」

「前に白い金属を渡したでしょ。あれを作った錬金士なんだけど」

 ピタリ、とグルーンの手が止まったので、私は驚いた。彼がこちらをゆっくりと振り向く。

「本当か?」

「あの時、そう説明したけど。忘れてたね?」

「あの金属は、面白かった。良いだろう、誕生日会とやらに行く。招待状は?」

 途端に乗り気になったグルーンに困惑しつつ、この機を逃す理由はないので、私は招待状を彼に放る。彼は器用にそれを受け取り、中を検め、頷く。

「お前の代わりに、楽しんでおくよ」

 プールの時といい、マシェルルトが関わると、この鍜治士は予想外の行動を取る。

 気のせい、偶然かな。

「任せた」

「仕事に集中しろよ」

 どうやら、私は何かが表情に浮かんでいるらしい。

 日が経って、私はリーンの街を離れた。リーンから出発したのは穴掘り屋などと呼ばれる採掘専門の作業員二十五名と、四つ足で重い荷車を引ける牛のような動物・カーア六頭、その六頭が引っ張る荷車三台だ。そこに私と、三人の採掘士が同行する。私達四人は不測の事態に備える。

 行きは作業員は荷車に乗って進む。荷車には他に拠点を作るための建築材料も積まれていた。

 私と採掘士三人は、機動力を持つために、それぞれが所有するキウに乗る。

 移動には何の障害もなかった。半日と少しの移動で、目当ての多頭龍にたどり着く。作業員たちに混ざって、私も拠点になる仮設の小屋を作る。料理も手伝って、慌ただしい。

 夕方になり、全員で食事を摂り、完成した小屋で雑魚寝をする。作業員の連中は荒っぽいものが多いけれど、私を襲うようなことはない。

 採掘士という仕事は、それだけ一般人からすると、いかついように見えるのだった。

 何せ、私は寝る時、横にならず、壁に背を預け、剣を抱えているのだ。

 眠っている時も意識の一部は覚醒しているような感じで、これは採掘士の睡眠法の主流だ。どんな事態になっても、常に対応できなくてはならない。

 でもその夜、私の意識は、マシェルルトとトゥルボルトのことで一杯だった。

 翌朝になり、作業員たちが装備で身を固め、採掘士チームも一緒に、多頭龍の中に潜る。

 暗視装置をつけて、ぞろぞろと進むうちに、目当ての鉱脈にたどり着いた。作業員たちが大声で声を掛け合い、道具でその鉱物を打ち、砕き、一輪車に積むと、外へと運び出していく。

 こういう時、採掘士は手伝わない。私たちの役目は、今の段階では護衛なのだ。

 いつ、龍の眷属が現れるかわからない。

 作業員を守るのが、仕事だ。私は周囲を警戒しつつ、作業員にも気を払う。

 どこか遠くでピィーッと笛が鳴った。作業員たちが動きを止める。

「警戒しろ!」

 私は怒鳴りつつ、音のした方へ駆け出した。

 笛の合図は、いくつかの取り決めがある。その中でも、長いひと吹きは、警戒の合図だ。

 と、近くにいた作業員が変な姿勢で転倒する。短い悲鳴の後、周囲の作業員が負傷した作業員に駆け寄って行く。

 非常に間が悪い。

 私も首から下げていた笛を加えると、長く吹く。

 多頭龍の奥の方から、作業員たちが戻ってくるけれど、全員が大慌てだ。私は外へと向かう彼らとは逆に、奥へ進む。

「取り残された人はっ?」

 最後尾の作業員に尋ねると「わからない!」という返事だった。

 いよいよ事態は深刻だ。

 私はさらに奥へと走った。反響する音は、金属同士がぶつかり合うようなもので、つまり、誰かが戦っている。

 すぐに視界にその戦いの光景が映った。

 採掘士二人が剣を抜いて、のっぺりとした人の形をしたものと切り結んでいた。

 状況は互角に見える、と思った時、一方の採掘士が倒れる。

 私はその場に飛び込み、危ういところで倒れた採掘士に振り下ろされた眷属の刃を弾き返す。

「下がろう!」

 私の声を合図に、無事な方の採掘士が、倒れた方を引っ張って、下がり始めた。私は一人でどうにか眷属の前進を止める。

「怪我は? 走れる?」

「出血がひどい! 俺が連れてく!」

 判断に迷う時間はない。

「行って! ここはどうにかする! 作業員たちも外に誘導して!」

 私は両手を広げて、眷属の注意をひく。背後だから見えないけど、二人の採掘士の気配は、どんどん遠ざかった。

 私一人の前に、眷属は八体ほどだ。

 どう考えても不利。しかも私はなりふり構わず逃げることを許されない。

 採掘士と作業員を守らなくちゃいけない。

「かかってきなさい!」

 自分を叱咤するように叫ぶ私に、眷属たちが押し寄せてきた。


     ◆


 「トキコのことが心配?」

 双子の誕生日会のその会場である双子の店の店舗で、トゥルボルトはそっとマシェルルトに尋ねた。

 周囲では招待客がめいめいに雑談していて、穏やかな雰囲気だ。マシェルルトが用意した食べ物もどんどん消費されていく。

 双子は揃って、窓から外を見ていた。

 時間は夜で、星が町の明かりに負けず、空に輝いている。 

「落ち着かないの。どうしてかな」

 マシェルルトはそっと手に持っていた盃を傾ける。トゥルボルトがその背中にそっと触れる。

「大丈夫だよ。トキコのことだから、帰ってきたらすぐに顔を出すよ」

「そうだよね。うん」

 その時、ドアが開いて、小柄な男が入ってきた。誕生日会にはふさわしいとは言えない、作業着姿だ。

 その男を、双子はよく知っている。

「グルーンさん!」

 周囲の客が変な目で見つめるその男に、マシェルルトは悲鳴のような声を上げて、駆け寄った。グルーンもマシェルルトに歩み寄る。

「トキコに誘われた。仕事が片付かず、こんな時間になった。申し訳ない。服装の事は、失念していた」

「良いんですよ、グルーンさん。私も、作業着のことが多いですし」

 苦笑いするトゥルボルトを無視して、マシェルルトはグルーンと話し込み始めた。

 そんな妹を横目に、トゥルボルトは改めて窓の外を見た。

 彼としてもトキコのことは心配だった。

 でもいつものことさ、と彼は思い込もうとした。

 採掘士の日常では、この程度の不安はつきものだし、周りにいる人は、ただ信じるしかない。

 だからトゥルボルトは、信じようとした。

 トキコは無事に帰ってくる。

 いつも通り、笑顔で。

 招待客が呼ぶので、トゥルボルトは微笑みを浮かべて、彼らに向き直り、窓辺から離れた。

 誕生会は賑やかに過ぎていく。


     ◆


 とてつもなく苦しかった。

 負傷した作業員を背負って、ひたすら走る。

 前方に見える黒い穴は、外へ通じる穴だろうか。

「頑張って!」

 背中に声をかけるけど、返事の代わりにわずかな息を吐く音が返ってくる。

 その彼から流れた血だろう、私の背中がヌルヌルしているのがわかった。

 背後の方で足音がするけど、私自身の発する音にほとんどかき消されている。

 今にも背中から攻撃されるのでは、と思うと、恐怖が押し寄せてくる。

 どうにか耐えて、走った。

 生き延びなくては。

 あそこへ、あの暖かい場所へ、帰らなくては。


     ◆


 誕生日から三日が過ぎても、双子の店にトキコはやってこなかった。

 マシェルルトは店をトゥルボルトに任せて、一人で第一層へ降りた。トキコとマワリが住んでいる小屋の場所は知っている。

 どんどん中心から離れ、人気もなくなってくる。古い家が増え、どこか荒廃をイメージさせる。

 そのうちに、目当ての建物の前にたどり着いた。ボロボロの小屋で、人はいないようだったけど、マシェルルトは躊躇わず、ドアをノックして、開く。

 いや、開こうとしたけど、何かに引っかかって開かない。でも鍵がかかっているという感じでもない。

 試行錯誤しているうちに、鈍い音ともにドアが開いた。ドアが外れたかと思ったような反動で、少しひやりとしつつ、彼女は中を覗いた。

「マシェルルトかい?」

 ドアのすぐ先、居間の椅子に老婆が腰かけて本を読んでいる。

 落ち着き払っているその姿に、マシェルルトは顔をしかめた。

「マワリさん、トキコは、どうしていますか?」

「帰ってこないね」

 その一言に、ぶるりとマシェルルトは体を震わせた。

「帰ってない? この前の仕事からですか?」

「そうさ。予定では、昨日にはここにいるはずだった。あの娘、どこで何をしているのやら」

「し、心配じゃないんですか!」

 ほとんど叫び声を上げた形のマシェルルトに、トキコはプイッとそっぽを向く。

「静かにおしよ。心配だがね、あの娘は採掘士だ。その意味を知らないわけじゃなかろう」

 立ち尽くすだけのマシェルルトは、頭の中が混乱し、何も言い返せなかった。

「待つのみだよ、お嬢ちゃん。それだけが、私たちにできることさ」

 どれだけの時間、そこに立っていたのか、マシェルルトのすぐ前にマワリがいつの間にか立ちはだかるようにして、いる。

「あの娘は、常に覚悟している。私たちも、覚悟するしかない」

「覚悟? それって……」

「あの娘も、いつかは死者の列に加わる。私たちはいつも、そういう連中に足場を支えてもらっているのだよ。でも、それが悪いわけじゃないし、連中も進んで死んで、進んで踏みつけられているわけでもない。ただ、そういう役割なんだろうね」

 役割という表現を聞いた時、マシェルルトは、両手で顔を覆っていた。

 何が悲しいのかは、わからなかった。

 トキコには死んでほしくない、それだけが、マシェルルトの願いだ。

 それは、願ってはいけないことなのか。

 願うだけでは、いけないのか。

 自分は願うだけの役割で、トキコを少しでも助けることはできないのか。

 その時、外で小さな動物の鳴き声が聞こえた。

 はっと顔を上げると、マシェルルトは背後を振り返っていた。

「あれ? マシェ?」

 そこには、埃だらけ、泥だらけのトキコが立っていた。

 マシェルルトは何も考えられなかった。

 ぶつかるように抱きつくと、涙が止まらなくなった。

「ちょっと、どうしたの?」

 泣き続けるマシェルルトをそっとトキコは撫でた。

「遅れてごめん。ちゃんと、帰ってきたよ」




(了)

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