第4話 悪党なんて1人で十分
「相変わらず貴女の仕事を美談として語るのを止めさせているそうですね?
酒場「フェンリル」で珍しく飲んでいる(と言ってもノンアルコールカクテルだが)ヴィランにマスターは張り付いた笑顔のまま言う。
「アタシは人殺しでメシを食ってる悪党だよ? 子供が真似したどうするつもりだって話だよ」
「こんな酷い世の中じゃあ貴女みたいな人は必要だとは思うのですが」
「悪党なんて1人いりゃ充分よ」
「……私は応援していますよ。貴方は悪徳勇者を倒し、孤児院に寄付したりしている本当の意味での勇者なんですから。
それにしても皮肉な話ですよねぇ。世界を救うために召喚された勇者が悪事を働き、自称悪党が世界の平和に貢献しているなんて。
チキュウのニホンとか言いましたっけ? あそこはさぞかし極悪人の巣窟でしょうねぇ」
「オイマスター。アタシの故郷をけなすな。応援したいのかけなしたいのかどっちなんだい?」
「おおっと。すいませんつい本音が出てしまいまして。1杯おごりますから聞かなかったことにしてくれませんかねぇ?」
◇◇◇
10年前のあの日、ホームルーム開始直前にアタシのクラスである1年3組の生徒31人全員、異世界に召喚された。いわゆる「クラス転移」とか「クラス転生」とか言う奴だ。
しかし、召喚された「英雄」たちは早々に狂った。
超人的な力にものを言わせて小国を乗っ取る奴もいれば、破格の待遇でヤクザやマフィアのセンセイとなった奴もいる。
またある奴らは権力争いの末に殺しあいをするか、権力に溺れて自滅するかだった。
自分からキメたのか盛られたのかは分からないが麻薬に手を出して廃人になる奴もいたしパーティを開いて麻薬入りのジュースやクッキーを食わせようとする奴もいた。
その多くは、アタシに殺された。元々クラスにおいてはアウトカーストのいわゆる不良と呼ばれる奴だったし、クラスメートといえど仲良しこよしで協力しましょうという気にもなれなかった。
ただ、地球という世界の日本という国から来た連中はどうしようもないクズ揃いだ。というこの世界の常識を受け入れざるを得なかったのがとてつもなく悔しかったのは今でもはっきり覚えてる。
それを否定したくて10代の残り数年はただひたすらガムシャラに剣を振るったためか、気が付いたら数多くの勇者を討ったという偉業でこの世界の住人から褒め称えられる存在になっていた。
でもアタシのやってる事は人殺しじゃないか。いくら悪を討つという大義名分があろうとも、ひたすらに斬り殺してきた死体の山の上にかろうじて立っているのは変わりない。だから英雄と呼ばれたくなくて
皮肉にもまともな奴ほど特権階級である勇者という名の「麻薬」に耐えきれずに自滅するか殺され、アタシみたいな悪党やひねくれ者が結果的に生き残っている。
同じクラスの生き残りはいるが両手で数えられるほどしかいない。それについてさびしいとか悲しいと思う気持ちはない。
狂ったクラスメートをこの手で殺した時も「こんな狂った奴らと一緒にされなくてよかった」という安堵と「これ以上アタシと同じ日本人が悪事を働かずに済んでよかった」という安心感しかなかった。
◇◇◇
「ただいま」
仕事を終え、帰路についたヴィランは返事が返って来ることはないのを知ったうえでつぶやく。一人暮らしを始めて10年になるが、少しさびしい思いは消えない。
(結婚……した方がいいのかな)
彼女は悩む。とはいえ付き合いの長い男どもはろくでもない連中ばかり、到底ヴァージンロードを手を取り合って歩きたい相手ではない。
それ以前に、人殺しで生計を立てていることを子供に知られたらどうすればいいのか、答えが見つからない。
(いいや、今日はもう寝よう)
寝間着に着替えて、彼女は眠りについた。
ヴィラン あがつま ゆい @agatuma-yui
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