第3話 無力化

「よう! 悪党ヴィラン!」

初心者ノービス、朝っぱらから何の用? 仕事でも持ってきたの?」

 朝から自宅で見たくもないツラを見せられてヴィランは世界の終末でも見たかのような顔をする。

 同業者のノービスがヴィランの家を訪れる理由は大体が仕事の紹介だ。


「ああ。お前とは相性がよさそうな案件なんで協力してくれねえか? 小国の玉座を力づくで奪い取った勇者の討伐だ。重税を課して市民を苦しめているらしい。報酬は半々、いやお前が6割でいい」

「ふーむ……分かった、受けよう。シラフなお前なら信用してやる」

「おお! お前なら言うと思ったぜ! 俺とお前のコンビは無敵だからな!」


 ヴィランの快諾にケラケラと笑いながらノービスは喜ぶ。2人が組んで仕事をするのは別に珍しい事ではなく月に1~2回はこうやってコンビを組んで仕事をしている。最寄りの場所まで飛び、そこから乗合馬車に乗り継ぐこと半日。目的の国までたどり着く。




「で、敵のチート能力は何?」

「ああ、何でも『透明な壁を作る』能力らしい。物理的に突破するのは……まぁ不可能らしい」

「なるほど。だからアタシの出番ってわけか」

「そういう事だ。手取りはお前6割なんだからガッツリ働いてくれよ」


 しゃべっている間に国への第1の障害である関所へとたどり着いた。


「法律上、武器を携帯している者を入れるわけにはいかない。お引き取り願おうか?」


 武器を持っているという理由で関所で弾かれる。


「そう、ところで城までは徒歩でどのくらいはかかる?」

「そうだなぁ。およそ2時間くらいか?」

「だってさ。どうする? ノービス?」

「そりゃあやることは1つだろうよ」


 ノービスは愛用の両手斧を振るい、衛兵を斬りつける。


「ぐあっ!」

「なっ、き、貴様……ぐはっ!」


 ヴィランも協力して周りにいた奴らを始末する。


「このまま城まで突っ切るぞ! ヴィラン、続け!」


 2人は正面から堂々と関所破りをやってのける。と同時に関所にいた伝令用の馬を奪って走らせ城まで一気に突き進む!




 ほどなくして2人は城へとたどり着く。馬を乗り捨て侵入し、玉座までたどり着く。そこに堂々と座っている者こそ、国を力で奪い取った者、いわゆる僭主せんしゅだ。


「よくここまで来れたな、それだけは褒めてやってもいい」


 玉座に座っていた王が合図をする。

 おそらく国王が雇ったのであろう私兵4名が現れる。それぞれエーテルストーンをはめた武器を持っていた。

 勇者の心臓付近にある紅い水晶の様な石、エーテルストーンは武器にはめ込むことで戦闘能力の上昇、さらにはチートスキルの開花といった加護を与えてくれるのだ。


「気をつけろ、石持ちだぜ」

「大丈夫、遅れはとらないよ」


 分厚い曲刀に両手斧……ただでさえ一撃の威力を重視した武器にエーテルストーンの力が加わるとその威力は壊滅的な威力となる。ヴィランとノービスの最初の1振りで私兵2名が呆気なく絶命する。

 幸い、「石をはめただけの素人」らしく勇者はいなかった。


「そこっ!」


 槍を持った私兵がスキを見抜き初心者ノービスの胸を槍で突くが貫くどころか1ミリたりとも切れ込みを入れることはなかった。


「バ、バカな!?」


 ノービスの武器である両手斧が授けたチート能力は『超硬化』。肉体のしなやかさはそのままに硬度だけをとてつもなく引き上げ、ミスリル製の武器ですら弾き返す能力だ。

 驚く私兵を両手斧で頭からかち割った。




「チッ、使えん奴らだ」


 部下が次々と倒れていくのを目にして彼は立ち上がり剣を抜く。直後、ヴィランがどう猛な目つきをしながら襲い掛かる!

 が、まるで透明な壁があるかのように刀が勇者とヴィランとの間でピタリと止まり、石材で出来た硬い城壁でも斬りつけているかのような感触と音が返ってくる。


「やっぱりね。お前の能力は『壁を作る』能力だね?」

「へー察しがいいね。そうだよ、オレの能力は『壁』。常人では破れない頑丈な壁を作れる能力だ」


 ノービスが集めた事前情報通り、この王の能力は「壁を作る」というものだった。


「この能力がある限りお前はオレに指1本触れることは出来ないぜ?」

「フン、下らないね。タネのバレた手品ほどツマンナイものは無いね」


 ヴィランが心底嫌そうな顔をしながら再び刀を振るうと、今度は壁に切れ込みが入る。続けてさらにもう1度振るうと壁に人が通れるほどの穴が開いた。


「あ、あれ……何で……何で!?」

「地球に帰るんだね。勇者様とやら」


 お決まりのセリフを死にゆく獲物に向かって吐いた直後、曲刀で王の首を切断する。首は胴体から離れ、ぼとりと落ちた。


「さすがだな。お前の『無力化』能力、無敵だな」


 数少ないヴィランの能力を知る者であるノービスが彼を誉める。

 無力化……それは勇者のチートスキルを無力化する能力。勇者であるヴィラン自身の能力だ。




「石はどうする?」


 勇者の死体をさばきながらヴィランは相棒に言う。


「石を売ったカネを分け合おう。もちろんお前が6割だ」

「分かった。いいだろう。アンタが持って」


 死体から取り出した石を投げ渡す。


「ヴィラン、帰ったらフェンリルでパーティ開こうぜ! お前も参加するだろ!?」

「いや、辞めとく。他の連中と飲んでなさい」

「つれねえ奴だなお前は。まぁそれがお前らしいって言えばお前らしいんだがな」

「ごちゃごちゃ言わないで行くよ……トベ・ウリャ」


 ヴィラン達は酒場「フェンリル」へと飛んで行った。ちなみにノービスはこの日、朝まで飲んだくれていたらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る