第2話 「なんでも実現するって、おかしくね?」

「あなたは過去に異世界から来た人たちとは、どうやら違うようですね。面白い人だ」

 そういって男は、ここ最近ゴブリンがよく来ること、この近くに魔界の門があること、これから王国と悪魔の戦いが起きることを聞いた。

「今この世界で起こってる現状は、こんなところですかね。さしずめ、ゴブリンは偵察でしょう」

 今起こってる現状がどうなってるか、今の自分にはそのことしか理解できず、この出来事が自分の思っていた出来事になるとは、思ってもいなかった。

「なるほど、とりあえず、助けたことには礼を言いうよ。俺はこれから南町の鍛冶屋まで行かないといけなくて、先を急いでるだ、すまない」

 そう言って、俺は男の元を去った。鍛冶屋についたのは、日が落ちかけているころだった。

「待たせてごめん! っていうか、お前地図間違えただろ」

 ノーキンは大声で笑いながら、作業を続けていた。俺は、道中あったことを話した。すでにそのことは知っていたようだ。

「ガハハ! そいつはこの村の傭兵さ! その中でもトップの腕の持ち主だ。まぁ、なんていっても、武器防具は俺が拵えたものなんだがな」

 ノーキンは満足そうに言うと、一本の剣を俺に渡してきた。

「この剣は、俺が鍛えぬいたものだ、並みの剣とはわけが違うんだ。お前は気が付いたか?ここは鍛冶屋なのに、砥石しか置いていないことを」

 そういってあたりを見渡した。確かに炉も何もない。

「どうせ、実は裏にあるから、店の中にはおいてないとかいうんじゃないか?それくらいこの俺にだってわかるさ」

 ノーキンは首を横に振った。どうやら本当に無いようだ。少したってからノーキンが口を開いた。

「実はな、この世界の鍛冶屋はちょっと変わっててな。炉とかは必要ないんだ。まぁ、今回呼んだのもその変わったことがあるからこそなんだけどな。」

 鍛冶屋なのに、炉とか必要ないのは確かに変わっている。これはひょっとしたら面白い事になるんじゃないか?俺は確かにそう感じていた。

「まず、この世界に鍛冶屋は俺しか存在しない。武器を作れる人間はたくさん存在するけどな、俺はその中でも、特殊でな、ずっと使ってきた刃こぼれした武器を、こうやって砥石で研ぎ直して使いまわしてるのさ。」

 つまり?武器を作れる人がいるから鍛冶屋が存在しない?武器を作れる人が鍛冶屋?なんだか頭が混乱してくるな。

「いいか、この世界には武器作成の書という書物が存在している。これは異世界から持ち込まれた魔導書の一種だ。しかし、これは1つだけではなく、この世界のいたるところに存在する。誰が何の目的で持ち込んだ、あるいは作り出したのかは謎だが、とにかく、この書物は、俺ら人間が存在する前からこの世界にあったのさ。」

 武器作成の書?つまり、その本があれば簡単に武器が作れるってことか。

「なぁ、その本でどうやって武器を作り出すんだ?いくら何でもその本だけで作れるってわけでもないだろ?素材だって必要だし、その本はもしかして、作り方が書いてある本なのか?」

 俺がそう尋ねると、ノーキンはおもむろに本を取り出した。

「この本での武器の生成方法はな、その人の想像。つまり脳内で考えた武器が実体化するっていう仕組みなんだ、1冊の本につき作れる数は10個という制限があるが、大きさや重さ、形に制限がない。さらに素材も必要ないみたいなんだ。」

 なんだこのご都合主義な本は……さすが異世界ということか。

「だがしかしな、この本は、この国の王国が血眼になって探し集め、限られた人間に、割と高値で売られているんだ。この本の転売、譲渡、違法使用は国が認めていないのさ。」

 たしかに、こんなことができる本だ。王国がほおっておくわけがない。兵隊の装備をいいものにできるし、それを使って悪事や反逆が起こらないとも限らない。

「そこでだ、この本を使って、お前のいた世界の武器を作って王国に売れば……絶対国王はお前の事をほおっておかないはず、そして国の中に数人しかいないこの本の使用許可者、つまりこの俺がいないとお前は本が使えない事にすれば、俺も晴れて王国の鍛冶職人になれて、お金ガッポガッポってわけよ。」

 なるほど、金儲けのための使用か、まぁ、普通考えるよな、金儲けぐらい。

「でもよ、その方法で、俺とお前が王国の鍛冶屋になれても、いい待遇が受けれる保証なんてないんじゃないか?まず、王国は魔族と戦いの脅威にさらされているわけだから、そのために大量の武器が必要になる。それで俺がいた世界の武器を持って行ったとしても、その武器を大量生産させられて、こき使われるだけなんじゃないのか?」

 俺がそう答えるとノーキンはにやりと笑った。

「お前は頭が固いなぁ。何も直接王国に売り込む必要はないんだぜ。最初は町の兵士、次にギルド、そして王国の兵士、戦士、親衛隊などに売っていく。そうすれば、その噂はたちまち広がり、王のほうからアプローチをかけてくるはずだ。それをうまく使って『俺たちは、俺たちのやり方じゃないと作らない、王がそれを認めてくれるのであれば、いくらでも作成します』なんてことにすれば、万事うまくいくって寸法よ」

 このノーキンという男は、金儲けのためなら頭をフル回転させるとんでもない馬鹿だった。ただ、その技術は確かなもので、刃こぼれした剣などを研ぎあげ、元の切れ味以上の切れ味にしてしまうほどだ。

「なるほどな、まぁ最近普通に生活するのも飽きたし、その話乗ってやってもいいぜ、その代わり、報酬は俺が6でノーキンが4でどうだ?お前は作り出すだけでいいわけだし、その点、俺は作った後に使い方、メンテナンス方法とか、いろいろ教えなきゃならないだろ?」

 ノーキンは渋々条件を飲み、俺たち二人のかつてない商売が幕を開けた。


――――だが俺は、ある大事なことにまだ気が付いていなかった――――― 

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異世界で強いとか、どう考えてもおかしい 孤神(こがみ) @erin8901

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