異世界で強いとか、どう考えてもおかしい
孤神(こがみ)
第1話「異世界で強いとか、おかしくね?」
ネット広告にでかでかと書かれていた。
抽選で1名の方! 異世界へ行きませんか?!
こんなのは、どう考えてもあり得るはずがない、存在したとして、その世界が世紀の大発見のように、メディア等に公開されないのは、おかしいだろう。
広告自体、胡散臭いし、大体こういう広告はクリック詐欺だったりが鉄板であって、そんなものに引っかかるやつはこのご時世にいるはずがない。
大体どうやって異世界に行く? そもそも異世界なんて存在するのか……?
俺の中の異世界物といえば、異世界に行って、トラブルに巻き込まれ、かわいい子が仲間になったり、主人公が異常なほど強かったりなど、都合のいい話だ。
仮にハーレムとかは認めよう。うん、俺も女の子に囲まれて過ごしてみたい。しかし、強いってのは納得がいかない。そもそも、異世界に行っただけで強くなるとか、ありえなくないか?おかしくないか?それだけは絶対に認めない。
だが、本当に異世界があったとしたら、誰しもが行ってみたいと思うだろう。
多額の金を積んででも、行きたい奴はいくらでもいるだろう。
ならこの広告は、何のために出しているのか、そもそも当選者なんて、事前に決まっていて、広告は収入の一部なんじゃないのか?
俺は、広告を見ながらいろいろなことを考えていた。
今考えれば、それはただ単に自分の中に異世界なんてない。そもそも間違っている、という自己暗示だったのかもしれない。
「またこの夢か……」
最近自分の世界にいたときの夢を見る。
「さて、朝の日課でもするか……」
俺は、重い腰を上げ、顔を洗い、お湯を沸かす。お湯が沸くまでの間に、外で飼育している鶏の卵を採りに行く。
お湯が沸き、カップにコーヒーを淹れ、飲みながら朝採れの卵を焼く。これがいつもの日課だ。正直いつから続けているなんて忘れてしまった。それくらい長い間この世界にいることになる。
「さて、今日も一仕事するか」
朝食を食べ終え、身支度を始めた。いつもの日課とは、街を歩き、困ってる人がいれば、手助けをする。わかりやすく言えば、何でも屋だ。
昨日の仕事は、おばあちゃんの荷物を持ったり、溝にはまった荷台を押したり、畑を荒らすモンスターを追い払ったり、異世界じゃなくてもできるそんな仕事だった。
「たまには大型の仕事とか入ってこないかな……」
ブツブツとつぶやきながら歩いている俺の前に、一人の大男が現れた。
「お前さんが噂の異世界からやってきたというソーマか?」
この世界では、俺が異世界から来たことは、誰もが知っている。魔術師が召喚の儀式でたまたま俺を召喚したらしい。
「そうだけど、あんた誰?」
そう聞き返すと、大男は腕に力こぶを作り、名乗り始めた。
「俺の名前はノーキン、隣町で鍛冶屋をやっている。たまたまこの街に買い出しに来てな、あんたがこの街にいることを知って、探していたところだ。あんたがいた世界の武器についていろいろ聞かせていただきたい!」
ノーキンは大口を開け、大声で笑いながら両肩を掴んできた。
「あんたの聞かせてくれた話をもとに、武器を作りたい。お礼はしっかりする。悪い話ではないだろ?」
俺のいた世界の武器といっても、刀とか、槍とか、銃とか、そんなものがこの世界で作れるかどうか怪しいものばかりだ。
「それくらいはいいけど、たぶんこの世界では作れないと思うんだ」
そういうとノーキンは、自信たっぷりな表情をし、大声で叫んだ
「ガハハ! 俺は隣町の鍛冶屋、作れないものは存在しないと噂のノーキンだぞ!やる前からできないと決めつけてもらっては困る!」
なんだこの大男……やけに自信があるみたいだな、まぁ、教えるくらいなら全然問題ないか。作れるかどうかは、俺には関係ないしな。
「そこまで言うなら聞かせてやってもいいよ~。その代わり、それなりの報酬をもらうけど、問題ない?」
そういうと、ノーキンは眉間にしわを寄せ不思議そうに聞いてきた。
「ふむ、それなりの報酬か。一体報酬は何を求める?」
とくには報酬なんて考えてもいない。だから今はこう言っておくか……
「考えておくよ」
その言葉を耳にして、頷きながら店の場所を紙に書き手渡してきた。
「では、明日の昼時、俺の店で待っている。頼んだぞ!ガハハ!」
大満足といわんばかりに、ノーキンは足取り軽く去っていった。そのあとは特にこれと言って、面白いことがあったわけではない。
俺が思い描いてた異世界は、女の子を助けたり、冒険に出たり、強敵を一瞬で倒したりそういうご都合主義なのに……なんでそれがないんだ!毎日が暇だ!
「あ~あ、どっかに困ってるかわいいエルフとか、一大事に助けを求める王女とか、朝起きたら、敵を一瞬で倒せる能力が手に入るとかないかなぁ~」
こうして、俺の異世界での生活が幕を開けた!
って言っておけば、少しは期待されると思って言ってみた。
「ま、考えたって仕方がねぇ!都合がいいことが起きないのは、この世界も、俺のいた世界も同じってことだ!頑張るぞ~」
次の日、朝起きていつもの日課を終え、俺は隣町へ向かった。
「確か、あいつの店はこの辺だったはずだな」
おかしい……いくら探しても鍛冶屋なんて見つからない。言われた場所にはついてるはずなんだがな。
「どうしました?何かお探しですか?私で良ければ、ご案内しますよ!」
そういって現れたのは、すらっとした長身で、腰くらいまであるであろう黒髪の女であった。
やっとこういう展開キター!
「すいません。鍛冶屋を探してまして、この辺にあるはずなんですが……」
そういってノーキンの書いたメモを渡した。
「んー、この街に鍛冶屋はないので、もしかしたら、南町ではないでしょうか。残念ながら私はまだやらなくてはならないことがあるので、この街から出ることはできません。お役に立てず申し訳ないですが、南町で間違いないと思いますので!」
そう言って女は去っていった。
「ん?南町?確かこっちが南……あー!こっちは北じゃねぇか!ってあれ?さっきの人どこいった?もしかして……しまった、名前聞いてねー!何やってんだよ俺!」
周りにいた人々の視線が刺さり、恥ずかしくなり、俺は逃げるように南町へ向かった。
「まったく最悪だぜ、あの野郎、北と南を間違えて書きやがったな!あいつの店についたら文句言わないときがすまんな!」
ブツブツ言いながら南町を目指す。時間はもう昼時だろうか。こういう時転移魔法とか、空を飛ぶ魔法とか。もうスピードが出せるとか、あれば便利なんだがな。
「はぁ、南町って、結構遠いじゃん……これ着くの夕方とか、夜中になるんじゃないか?」
文句を言いながら歩いていると、何かが顔を掠めた。驚いて後ろを振り返ると、そこにはパチンコを持ったゴブリンがいた。
俺は慌てて身を潜めたが、ゴブリンにはその姿が見えていたようで、すぐに見つかってしまった。俺は全力で走った。
「ふざけんな!まだ昼間だぞ!なんでゴブリンがこんなとこにいるんだよ!」
ゴブリンは夜行性というのは、どの異世界物でも鉄板だと思っていた。
「伏せろ!」
いきなりどこからか声が聞こえ、俺は頭から地面へダイブした。その直後、ゴブリンの叫び声が聞こえた。
「もう大丈夫だ、立てるか?」
そういって俺に手を差し出してきたのは、俺より年が少し上ぐらいの若い男だった。
「ここ最近、ゴブリンがこの辺りをうろついているんだ。しかし驚いたな。過去に異世界から来た物は皆強いと聞いたことがあるんだが……」
男はクスクス笑いながら俺の手を引いた。
「異世界に来たからって、強くなるわけでもないし、能力が授かるわけでもない。過去に異世界から来た人が強かったかどうかはわからない、だけど!これだけははっきり言える!」
――――異世界で強いなんて、どう考えても間違っている――――
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