夕暮れの街 ◆

 病院からほど近い公園のベンチに、一人の老人が座っていた。

 瞼を閉じた老人は、消え残った表情を、うつむくその顔の影に溶かしている。

 彼が誰なのかを知る者は、この世界のどこにもいない。



 喧騒。

 さざめき。

 溢れ返る音の中。



 呼吸を止めて、

 鼓動を止めて、

 一つの静寂となったその老人の胸元で、

 オレンジ色の陽に照らされた懐中時計が、再び時を刻み始めていた。






 -終-



(※ 作中に登場する歌は、ACIDMANの『バックグラウンド』より)

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片時の住人 ジュウジロウ @10-jiro

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