門の化け物(4)と裏路地の化け物(2)

 ダリルが目を覚ましたのは倒れてから3日後の事だった。

 ダリルは夢と現実の境がはっきりしないときような朦朧とした意識の中で治療を受けていたが、その際中にも軍医から怒られていた事ははっきりと現実として覚えていた。

 意識がはっきりしたのはそれから更に3日後の事だった。

 レオナルドがダリル病室に訪れていた。


「さて、ダリル。とっておきの腹ジョークで笑わせてやりたいところだが、軍医に殺されそうだから手短に済ますぞ。」

 レオナルドは少し笑いながら続けた。

「お前を助けたのはジョルノさんてことは知ってるな?そのジョルノさんが、軍警に捕まった。」

「俺を助けるために捕まったんだな…」

 ダリルが力なく言った。


「後悔は後にしろ…それでだ、ジョルノさんの話しだと、服は奪われたそうだ、どんな人物かは一瞬の出来事で覚えていないそうだ。」

「…装備を買ったお金はどこから手に入れたんだ?」

「兵士時代の貯金だと。」

「そうか…全額孤児院へ募金したと聞いていたけど…ジョルノさんは今どうしてるんだ?」

「釈放だ」

 ダリルは驚きとともに安堵した。


「よかった…でも、ずいぶん早いな」

「軍警は執事殺しと門兵殺しの犯人が化け物だと結論づけた。そして草原の騎士の死体が見つかって、化け物が東に向かったこともわかったからな。それに貴族や裁判の関係者にジョルノさんのファンがいた。ジョルノさんに色々な弱みを握られたお偉いさんもいただろう。お前の話しで聞くジョルノさんがそれをネタに脅すとは思え無いが、手元に残すのが怖かったんだろうな。」

「なるほど…ジョルノさんは装備を買って何してたんだ?」


 レオナルドは、ニヤリと笑って言った。

「今回の報告の目玉だ!驚くなよダリル!なんと冒険者として依頼をこなして、金を稼いでいるんだとよ!」

「本当か!やった、立ち上がってくれた!」

 ダリルは腹がズキズキ痛むのを我慢しながら喜んだ。


 そこで軍医から声をかけられた。

「おい、大馬鹿、お前を助けたジョルノって奴が会いたいと言ってる。少しだけ会わせてやる。いいか、少ししたらまた来る、それまでに話しを終えろ。お前さん、入っていいぞ。」

 そう言って軍医は眼帯を付け、簡素な鎧が大きく見えるほど痩せた男を病室に入れた。


「ジョルノさん!」

 ダリルには一目でわかった、あの鋭い眼光は昔のままだ!腹が痛みも忘れ、7年ぶりの再会を喜んだ。

「久しぶりだな、ダリル、お前が倒れていたときは驚いたぞ」

「覚えててくれたんですね!ありがとうございます!」

「息子の親友を忘れるはず無いだろう。それに君のとことは家族ぐるみの付き合いをしてたんだ。」

 驚き言葉を失っていたレオナルドが声をかけた。

「はじめまして、レオナルドです。ダリルとは同期で兵士をやっています。」

「はじめまして、兵士か…ダリルをよろしく頼むよ…そしてすまないが、少し席を外してくれないか?久しぶりに話しがしたいんだ」

「わかりました!じゃあまた今度来るよダリル!腹に気をつけろよ!」

「すまないね、レオナルド君」


 ジョルノが謝り、レオナルドが病室を去った後にダリルが言った。

「ずいぶんと痩せましたね」

「兵士の君なら知っているかも知れないが、息子を失くして浮浪者をしてたからね、筋肉も落ちたよ…いきなりですまないが聞きたい事があるんだ…」

「どんな事ですか!なんでも聞いてください!」

「ゲラムの執事殺し、門兵殺し、化け物の事、それを教えてくれないか?」

「軍警からは聞いて無いのですか?」

「彼らは教えてくれなかった、兵士時代の部下が軍警にいたがあまり長く話せなかった。」

「分かりました、私の知ってる事なら全て話します、でも、他言無用でお願いします…」

「もちろんだ、助かるよ…」


 ダリルはゲラムのこと、執事のこと、門兵のこと、グリッチャーの服を着た男のこと、草原騎士の死と男の行く先、化け物との関連性、全てを話した。


 短い沈黙の後にジョルノが口を開いた。

「そうか、化け物は森に行ったかも知れないのか…」

「森に行くのですか?」

 ダリルが心配そうに聞いた。


「…あぁ、服は取り返さなきゃならないからね、あれは息子の形見だから…」

「すいません、私が不甲斐ないばっかりに…」

「不甲斐ないのはこちらだよ、相手の顔も見てないだ」

「ジョルノさんはどうして、奪われたんですか?ジョルノさんが遅れをとるなんて信じられません…」

「ダリル、兵士を辞めてもう7年になるんだぞ、感も鈍るさ、それにもう歳も取った、やがて50歳も見えて来る、そりゃ昔の通りじゃないさ」

 そのとき軍医がやって来て言った。


「もう面会は終わりだよ、その大馬鹿はこれから診察だ、また今度にしな」

「そうさせてもらう。ダリル、じゃあまた会おう」

「ジョルノさん…1人で森に?」

「そうだな、金が溜まった、皮製のマントと食料を買って、明日の朝出る」

「…気をつけて下さい、あいつは化け物です、姿を変えることではなく、この耳を噛みちぎるあの男の精神がです…」

「分かってるさ…」

 ジョルノが病室を立ち去り、軍医が診察を始め、ダリルは問診に答えながら考えていた。


 診察が終わるころダリルが決心したように軍医に聞いた。

「明日外出できませんか?」

 軍医は眉間をつり上がらせて答えた。

「お前はバカか!死ぬつもりなら兵士をやめてから死ね!」

「俺はあの日言ったよな!?腹が痛いときはすぐに戻れと!それを我慢して聞き込みしたあげく倒れた!6日後には外出させてくれだと!?いい加減にしろ!お前の治療費は国が出している!元を辿れば国民からだ!お前の治療費のせいでどれだけの人が飯を我慢しているかわかるか!?このクソが!お前は完治までの数ヶ月一歩も出さん!面会も週に一回だけだ!分かったな!?」

 軍医の鬼のような顔を見て、グリッチャーの服の刺繍を思い出し、懐かしい気持ちがした。

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アイトワラス @kanasait

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