魔王様オーバーブッキングするとはなにごとか!

ちびまるフォイ

この世界には1人で十分です

世界に暗雲が立ち込めると、激しい稲光が轟いだ。


「フハハハハ!! 我は魔王バスラザール!

 この世界すべてを恐怖で支配してくれよう!!」


「ククククク……私は魔王カオスラーダ。

 おろかな人間どもの世界など破壊してくれよう」



「えっ」

「えっ」


2人の魔王は顔を見合わせた。


「あ、どうも」

「こちらこそ、はじめまして……」


2人は付き合いたてのカップル以上にぎこちない挨拶を交わす。


「おたくは……魔王?」

「あ、はい、まぁ。魔王やらせてもらってます。はい、認可証」


「え、こういうのって普通魔王はひとりじゃない?」


「いやーー……私もそういうものだと思ったんですけどねぇ……」


「だってさ、俺が支配するって言ってるのに

 その横で世界壊すとか言われたら、どうしようもないじゃん」


「たしかに」


「ゲート航空券はちゃんと買ったんだよね」

「そりゃまあ」


魔王は、魔王のチケットを確認した。

ちゃんと行き先はこの世界ソレフガルドが指定されていた。間違いはない。


「……うーーん、俺と同じソレフガルド行きチケットだわ」


「ダブルブッキングってやつですか」

「どうしよう……」


魔王はふたりで腕を組んで考えた。


「それじゃ、世界の半分ずつ、それぞれが支配するというのは?」


「それ勇者に提案するやつでしょ。ダメダメ。

 世界を半分にしても、そっちのほうが資源潤沢だったら不公平じゃん」


「そりゃそうだ」


「二人で世界を支配するというのは?」


「あーーそれ、もめるやつ! 世界征服した後のスタッフロールで

 どっちが魔王として扱われるかとか、

 どっちが上に書かれてるとかでもめるやつじゃーーん」


「スペシャルサンクスとして書いたら怒られる、みたいな」

「そうそう」


2人の魔王はどちらの実力もほぼ同じ。

どちらがこの世界に向いているかを、2人で決めることはできなかった。


「どうしよっか……」

「ほんとね……」


悩んだので魔王人生ゲームに興じていると、空に異空ゲートが開いた。

それは魔王たちがチケットで通ってきた道そのものだった。


『あのーーすみません、神です。

 どうやらこちらの手違いで、同じ世界に魔王を2人送り込んだみたいで……』


「手違い多すぎるやろ!」


『魔王1人を別の世界にご案内しますから、それで許してください』


「ああ、よかった」

「これで問題解決だ」


『で、どちらの魔王が別の世界に行きますか?』


魔王2人は顔を見合わせた。


「えーーっと……」


「いや、私はこの世界でいいよ。もうなんかこの世界を支配する気分だし」


「そんな焼き肉の気分だからみたいな理由で……」


「いまさら別の世界に連れて行かれても気分乗らないんだよ」

「それは俺だって同じだ」


「じゃんけんで決める?」

「お前! 絶対魔法で運操作するだろ!」


2人の魔王がやいのやいのと口論を続けていると、

異界へとつながるゲートは閉じてしまった。


「あ! ゲートが!!」


「しまった。搭乗時刻過ぎちゃったんだ」


「で、どうするよ。このまま魔王2人じゃしまりが悪いよ」

「どっちか裏ボスにする?」


「じゃあ俺が」

「いやいや私が」


裏ボスにはどちらの魔王もなりたいので再び平行線。

もめているとまた別のゲートが開かれて、今度は勇者がやってきた。


「おい、誰か世界にやってきたぞ」

「なんだろう」


勇者は持ち前のご都合主義と、サイコパス性をいかんなく発揮し

道中の魔物を蹴散らし金を巻き上げるのはおろか、

住居に不法侵入しものを破壊し空き巣を行う振る舞いを見せた。


その容赦ない姿を見た魔王たちはやっと自分たちの立場に気付かされた。


「お、おい! あの勇者絶対こっち来るって!」

「しかもめっちゃ強そうなんだけど!!」


2人の魔王は争っている場合じゃないと休戦し、

勇者迎撃に備えてひたすらベイブレードの腕前だけを磨いた。


そして、勇者決戦の日。


作者の絶望的な戦闘描写力のなさにより激しい戦闘の様はカットされ、

2人の魔王はついに異世界勇者をやっつけることに成功した。


「や、やったぞ……なんとか勝った……」


「しかし、道中の魔物もすべて倒されてしまったし

 我々もあと一歩で負けるところだった、恐ろしい……」


魔王'ズは息も絶え絶えに回復しようかと思った矢先、

ふたたび異世界からのゲートが開かれようとしていた。


「うそだろ……倒したら補充されるのかよ……!!」


「まだこれから先も勇者が来るっていうのか……!?

 もうこれ以上、勇者を倒すだけの力なんてないのに!」


すでに疲弊しきった魔王は、本来勇者を叩き込むべき絶望の底に沈んだ。


「おい、俺に考えがある」


魔王は魔王に耳打ちをした。




異世界ゲートが開くと、神は新しい勇者を送り込もうとしたとき。


「あの、神様」


『おや、君は?』


「私はこの世界の勇者です。この世界には魔王も勇者も1人ずついますから

 これ以上勇者を送り込むとブッキングしてしまいますよ」


『おお、そうだったか、すまない。

 まーーた手違いでブッキングするところだったよ』


神は慌ててゲートを閉じて消えてしまった。

その日から、魔王2人の世界に勇者が送り込まれることはなかった。


その日の様子を魔物は語る。


「魔王様、どうして勇者のコスプレなんてしたんだろうな?」

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