第39話 意味

 21時15分、志木しき宇多うたに連れられ伏見ふしみ遊馬あすまの部屋に来ていた。


 ドアを開け志木しきの眼に最初に飛び込んできたのは割れた窓、部屋中に飛び散る血痕、そこには遊馬あすま、イリヤ、黒子くろこが横たわっている悲惨な情景であった。


「何……これ……ねぇ宇多うたちゃん……」

 志木しきはその場で腰を落とす。


 すると宇多うたは腰をつく志木しきの腕を持ち上げ。

「心配しないで下さい、今皆んなは気絶しているだけで外傷はありません、死ぬ事は無いですよ」


「心配しないでって言われても……」

 周りを見渡す志木しき、すると1つの事に気付く。

「……ねぇ宇多うたちゃん、あきら君の姿が見えないけど何処に行ったの……?」


「お願いしたい事というのがその事です。

 茉由まゆ貴方の式神兵ならあきらを拐った相手の魔力残留物で、ある程度の探知はできるんじゃないですか? そしてその事を隊員の皆さんに伝えてくれませんか」


 それを聞くと志木しきは顔を伏せる

「……ごめん、今ねどんなに魔力を使っても放たれた全ての式神兵と繋がる事出来ないの……それに探索なら探索呪術フィールドワークでも探せると思わない……?」


「それはもう何度も試しましたが、どの条件でも見つける事出来なかったんです。

 なので茉由まゆの力が必要だったのですが……分かりました、そういう事なら他の方法を探してみます」


 そう言うと宇多うたは向きを変え、この部屋のドアへと向かう。


 この時、志木しきの積もり積もった強さの塊は完全に砕け散っていた。


宇多うたちゃん、もう諦めようよ……私達がどうこうした所で無駄なんだよ、何でそこまで強い心を持ち続けられるの……」

 志木しきの瞳からは涙が溢れる。


茉由まゆ貴方が弱音を言う所初めてみましたね……それに何でそこまでと言われても、答えは1つ単純明快な事です」


 志木しきは顔を上げ、宇多うたの顔を見つめる。


「大切な人、仲間を助けたいって思っているからですよ、これは全ての人間の心に染み付いて離れない感情……人間の使命みたいなものですかね?」


 宇多うたの言葉で志木しきの表情が変わる。

「……使命」

 志木しきはそっと右掌を胸に当てる。

 今、志木しきの心の奥底空っぽになった強さの感情に小さく今にも砕けそうな塊が生まれる、だがそれは今までの感情の塊よりも硬く光輝いているように志木しき自身感じれたのであった。


「そうだね……人間は誰かのために命をかけて戦う馬鹿な種族だもんね!」

 強張った志木しきの顔が少し柔んだように思えた。


「……いつもの茉由まゆの顔になりましたね、それにしても馬鹿な種族って……」


 志木しきは部屋の奥、窓の方へと歩き出し何かを覚悟したのかその場にあったガラスで左掌を切りつける。

「——ッ」


茉由まゆ何をしているんですか!」


「止めないでね、宇多うたちゃん」——




 場所は変わり雨が強く降る中、滋賀第1支部から南部フェスタホテルに続く道路をフルフェイスヘルメットを被った小野目おのめが黒く輝く大型自動二輪車に跨がり水飛沫を上げながら走り続けていた。


「支部にバイクが設備されていて助かったわね」


 身体に押し寄せる風圧、荒々しく走る車体、後部座席に乗る充彦みつひこは小野目の腰に腕を回し振り落とされないよう身体を固定していた。


「おわっ! ヘルメットの中で会話出来るんですね……。

 それにしても、先生……急いでいるのは分かっていますが、右手折れてるんですから無理してスリップとかしないで下さいよ」


「心配しなくても大丈夫よ、このくらい慣れてるから。

 それから今ちょうどいいから移動中にえーと充彦みつひこ君でいいんだよね? 君の能力を詳しく教えてくれる?」


「慣れてるって……凄いしか言葉見つからないですね……。

 それと俺の力の事ですね、良いですよ何でも話します」


 流川るかわ 充彦みつひこ15歳は、伏見ふしみ同様不死の身体を持ち、鬼化時には身体能力が飛躍的に向上する。

 だが1つだけ違いがある、伏見ふしみが持つ自分以外の呪いや傷を自分に移す吸収ドレインの力は使えず、充彦みつひこ固有の能力が発現していた。


「俺の能力は【白熱線】と呼んでいます、いわば白いレーザービームみたいなものですね」


充彦みつひこ君の能力は超攻撃型ね、聞く限りどんな陰陽道の武器よりも強力なのは確かね」


「ですが、欠点がありまして……」


 白熱線レーザーは充彦のどの部分からでも放つ事が出来るのだが、レーザーを放った瞬間その部位もろとも焼け落ちていく。


「勿論痛みはありますし、場所によっては死ぬ事だってあります。

 まぁ生き返りはしますがそれは何日後かよくまだ分かって無いんですよ」


「本当に君達は呪われた身体って訳ね……っと氷のドームの入り口が見えてきたわね、ホテルまで後少しよ」


「あの氷も魔力で造られているんですね……」


 するとホテルを囲む氷のドームの入り口から血で塗ったかのような真っ赤な符が飛び出し、小野目おのめ達の目の前で符が糸状になり式神兵を成形していくのだが今までの式神兵とは色だけではなく、人狼のような風貌……どこか獲物を前にした獣のような殺気がビシビシと伝わっているようであった。


「何!」


 小野目おのめはバイクのスピードを落としブレーキを掛け、赤い式神兵の10メートル前で停車する。



『はぁ……はぁ……小野目おのめ先生、急ですみません! 報告したい事があります』





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異端なる白銀の後継者 れとると @retort

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