男は脱出できるのか29

かごめごめ

 ひとまず宿屋の外に出ると、コウシロウCがその場で足踏みをしていた。ずっとそこで俺のことを待っていたのだろうか。


 そしてコウシロウの背後には、なぜかエマも立っていた。


「コウシロウと離れたくなくてついてきたのか?」


 仲良いな。

 しかし、現実世界のエマがコウシロウにべったりしているところなんて想像がつかない。……ということは、まさか俺の過去改変(仮)が、このゲームの世界にも影響を与えてるってことか?


 でも、エマの好感度はゼロのままだよな。

 う〜ん、よくわからん。


「お?」


 エマがコウシロウを押し退けるようにして、俺の前に来た。

 エマは手になにか持っていた。……花?

 種類はよくわからないが、とても可愛らしいピンク色の花だった。その一輪の花を、エマは俺に向かって差し出してくる。


「俺にくれるのか?」


 エマはコクンとうなずいて、道ばたを指さした。


「落ちてたのか?」


 コクン。

 ……ゲームキャラとのやりとりって、小さな子どもの相手をしてるみたいだな。


「せっかくならコウシロウにあげればよかったのに……って、ゲームキャラ同士でそんなことしても仕方ないか」


 自分で言って、自分でツッコむ。


「……?」


 エマは不思議そうに首を傾げている。


「ありがとう、もらうよ」


 本音を言えば別にいらないのだが、いくら自我を持たないキャラが相手とはいえ、無下にするのは気が引ける。

 それに、ただの花ではなく特殊なアイテムの可能性もある。道ばたにアイテムが落ちてるのはゲームのお約束だからな。


 俺は手を伸ばし、花を受け取った。

 ……特に「アイテムを手に入れた!」みたいなメッセージは表示されない。やっぱりただの花か?


 ただの花だとしても、もらってみると案外うれしいもんだな。

 プレゼントをくれたエマのことが急に愛おしく思えてくる。俺って自分で思っているより単純なのかも。


 などと考えていたとき、急に呻き声が聞こえた。

 見ると、エマが額を押さえている。解像度が低くてわかりづらいが、苦悶の表情を浮かべているように見える。


「エマ? どうした?」


 心配になって声をかけるが、すぐに何事もなかったかのようにケロリとした表情に戻った。


「……平気なのか?」


 コクン。


「そうか、ならよかった」


 状態異常にでもなっているのかと思った。


 エマはなにか言いたげに、じっと俺のことを見つめている。


『エマは仲間になりたそうにこちらを見つめている』


 ……お?

 コウシロウを仲間にしたときと同じメッセージが表示された。


『仲間にしますか?』


 しない理由も特にない。俺は『はい』を選んだ。


『エマが仲間になった!』

『エマがパーティーに加わった!』


 エマはトコトコと俺の背後に回った。

 さらにその後ろに、コウシロウが並ぶ。

 試しに数歩歩いてみると、二人があとをついてきた。


「うん、意外に楽しいな、これ」


 このシステムを再現したことだけは評価しよう、烏丸よ。


 それにしても、これからはエマとも一緒か。

 ……なんか、昔のことを思い出すな。


 小学校の卒業式の日、エマは俺のことを好きだと言ってくれた。

 実のところ俺も同じ気持ちだったから、その日から俺とエマは付き合うことになったんだ。


 エマは親の都合で引っ越してしまったけど、離ればなれになってからも気持ちは変わらなかった。

 中学にあがってからも、俺たちは月に一度は二人きりで会って、時間が許す限りデートを楽しんだ。会えない時間が増えたぶん、むしろ気持ちは燃えあがった。


 ほんと、懐かしいよな〜。


 でも今のエマは、コウシロウと仲が良いんだっけ?

 そう思ってエマを見る。コウシロウに肩をつつかれ、うっとうしそうに振り払っていた。

 まるで、もう用済みと言わんばかりだ。……いやいや、それは俺の考えすぎだろう。


 ――さて。

 じっとしてても仕方ないし、どこか行くか。


「エマはどこか行きたい場所とかあるか?」

「…………」


 エマはただ不思議そうな顔をするだけで、なにも答えなかった。


「また酒場にでも行ってみるか。新しいイベントが発生してるかもしれないし」


 俺は酒場に向かって歩き出した。


「…………」

「…………」


 エマとコウシロウがついてくるのが、気配と足音でわかる。


「……………………ふふ」


「……ん?」


 なんか今、笑い声が聞こえたような……。

 振り向くと、エマがきょとんとした顔で見つめてきた。


「気のせいか?」


 まあいいか。早く酒場に行こう。


 酒場に到着すると、俺は扉を押し開けた――。

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