A night on winter solstice ー 冬至の夜
綾川知也
In December it comes up from ……
俺は北京へと到着した。リニアだと上海から二時間半で済んだ。
日本で言うと東京から博多までの距離だ。
真新しい北京のリニア駅は近代デザイナーに寄るもの。色素は少なく簡素だ。ピクトグラムだけが色づいていた。
最新技術を惜しみなく使っている。空中ディスプレイには行き先案内が表示されていた。
肉感すら感じさせる二世代目ホログラムは、中国語と英語で北京到着を歓迎している。
改札口にある複合式認証を潜って、構内へ出るとガラス張りの向こう側にはビル群が屹立していた。
乗客達が交わす言葉は中国語だけじゃない。国際都市らしく複数言語が不協和音となって耳へと届く。
俺の表面情報を読み取り、空中ディスプレイのガイドが浮かんだ。それに従って歩くと、人の少ない道へとガイドが誘導する。
俺の訪問は特別ビジネストラベル。その為、人通りの少ない優先路へと案内される。
空中ディスプレイによって示された優先路内は淡い翡翠色をしており、世界遺産認定された文様をモチーフとした、レリーフが刻まれていた。
明かりは寒色系だが、薄い乳白色の微かな光は、この大地に堆積した歴史の芳醇さを感じさせる。
路内に漂う伽羅の香りは、僅かな甘さの中に苦さがアクセントとなって、鼻腔の後ろに足跡を残す。
タクシー乗り場へ着くと第三世代
リニアから降りてからスーツケースを手にしていない。
特別ビジネストラベルと領事館から認可され、入国からストレスフリーでいられる。機械化された
車内へと滑り込む。重厚な革の擦れた音がすると、上品な弾力が背を包む。窓を見れば栄華を誇る北京に相応しく、統制されたビルの間に3DCGが京劇を演じていた。
後部座席に腰を据えると、適度な明るさが車内を満たす。そして、無人タクシーの音声が俺の行き先を尋ねてくる。
「お客様、どちらに向かいますか?」
『北京王府井大街、雅京万丽酒店』
俺の中国語を理解したらしく、車内アナウンスは
『わかりました。四十五分ほどかかります』
走り出したタクシー。再舗装されたのか地面から凹凸は拾わない。
市街に入ると大規模なプロジェクション・マッピングが投影され来訪者を歓迎していた。
北京の町並みは進化が著しい。廃れつつある東京と比べると急激に洗練されている。かつてのモラルの低さは完全に取り除かれていた。
既に日本は中国に屈服した。
下層老人の後始末が社会問題化しており、繁栄は飛び去った。
食い散らかされた残骸に囲まれ、日の沈む国は愛国精神を鼓舞している。
俺は日本国籍を持っているが、日本の没落など知ったことではない。無駄なものは必要ない。俺の中では日本はリストラされた。
今日、俺が北京へと訪れたのはビジネスの為。その後、ムンバイへ飛ぶ。秒単位のスケジュール。時間は無形財産だ。秒針の動きの中に価値を見いだせない奴は日本になる。
北京の天蓋は広い。
立ち並ぶビルの背は高いが、山のない景色は視覚に開放感を与えてくれる。
だが、空は暗い。タクシー車内に灯されたフットライトのせいもあるのだろう。
空に拡散した化学物質が星々の瞬きを遮っていた。
*
北京王府井大街の発展は空へと登る龍を見てる気分にさせられる。
一昔前には露天が軒を連ねている所もあったが、区画は整理され威厳あるビルが並んでいた。統制されたデザインで、数十日後に迫っているクリスマスを祝っていた。ネオンが残る雑然とした東京とは比べものにならない新世代都市。
通りの向こう側は、十二月初頭というのに
複数言語多重フォント効果は精華大学で生み出された技術。元祖の面目を見せようと、重々しい繁体字が路上の空に踊っていた。
道行く人々の表情は明るく、豊かな家族連れや恋人達が幸せそうに道を歩いていた。
人混みを避けてタクシーは
特別ビジネスビジターだと、中国最高級のサービスが提供される。何もしなくとも面倒事は手放しで済む。
会員制の酒店では、以前のビジネスパートナーが待っている。
そいつは女で名前をリウと言う。
怜悧な美貌を持つ彼女は毒の華。ソリッドな美しさは冷徹で、鮮やかなリップが蠱惑的だ。その口から紡がれる言葉は蜘蛛の糸。
前回、彼女との取引では煮え湯を飲まされたものだ。
酒店のエントランスに立つと、真っ赤なチャイナドレスを着た店員が迎える。
モデルを思わせる容姿で、顔は整っており身長も高い。
店員が俺の姿を認めると、眼前に投影された空中ディスプレイの内容を確認し、「こちらへどうぞ」と流麗な日本語で俺を案内した。
指先まで意識された動きで、顧客層の高さがわかる。
店内を横切っていると、淡いテーブルランプが白いテーブルクロスを照らしていた。
居並ぶ客は富裕層。着ている衣服は生地が艶やかに輝いている。所作は慎ましく、テーブルで交わされる笑い声は自信に満ちている。
店員に連れられ、テーブルを横切っていると、一人が俺を呼び止めた。
テーブルの上で小さく片手を上げて、俺に笑いかけている。
「シナノ。この店に来ていたのか?」
この男は共産党員で、日本の富裕層を遙かに上回る所得を持ち、投資目的で神戸牛の牧場を買い取った。
食後のテーブルに広げられた契約書と付随事項の覚書は英語で書かれている。売却主がその行間から、本当の思惑を見抜けるのかどうかは疑わしい。
「今日はお前とは違うビジネス要件で来た。契約は上手くいっているようだな」
共産党員の対面に座った男は押し黙っている。恐らく共産党員の弁護士で、書類の手続をしていたのだろう。
「シナノのお陰だ。これで神戸牛ブランドは私のものだ」
「あの牧場主は債務を証券化してたからな。そこを逆手に取っての乗っ取りだ」
「日本の法律は何でもありだな」
共産党員は顔から笑みを絶やさない。
「日本の法律は金で買える。財界の要請で無理に通した法律だ。抜け道ができるとは考えもしなかったのだろう。日本で流通させるなら、JAS法に基づく品質表示基準規定がある」
「日本市場など期待していない。購買力は低下して後進国並みだ。現在、神戸牛の八割は中国に輸出されてるだろう。今は本土での品質表示を弁護士と相談しているんだ。我が共産党の力をもってすれば和牛の定義は簡単に変えられる」
共産党員は対面にいる男を顎で指し示した。
その男は片手で拳を包んで
俺は片手で応じた後、共産党員に向き直る。
「今は待ち人がいる。俺は行くぞ」
「シナノ。今度は水源を買い取りたい」
共産党員は片手をテーブルに置き、寛いだ姿勢で俺へと向き直る。血色のいい顔は穏やか。
片足は組まれ、胸襟を開いている姿勢を見せている。
「地方自治体の財政が枯渇している。そこから水源を買い取るもよし。貧困層から人選をして会社を興させ、そこから買い取るもよし。とにかく後だ。俺は忙しい」
「
共産党員は柔和に見せているが内面は違う。蔑みの視線が垣間見えた。
近頃の中国は国家主席も変わり、人民解放軍は再編成された。土台が固まった事もあり、共産党員は時に傲慢さを覗かせる。
穏便そうに見せているが、こちらが本体。
だが、俺には俺のルールがある。
俺のマスターは俺だ。他人にハンドルを譲るつもりはない。
「
テーブルに降りているライトを後ろにして、俺は席へと向かった。
共産党員の話を逐一聞いていたら、そいつの奴隷に成り下がる。
中国人とのビジネスとはそういうものだ。
*
個室にはリウとは別に老齢の男が居た。
個室は中国の伝統的な迎賓室で中央には円卓があった。
壁の一面は大きな水墨画。銘紙はベージュ色。墨痕淋漓の画風で、山水の中に置かれた宋代の酒店が遠近感を深めていた。
片側の壁に花が活けられている。昙花と呼ばれる白い花弁の多い花は密に咲き、緑色の葉も力強い。
リウの流れる髪は漆のようで艶があり、目元は涼しい。居住まいは正しく、中国風に言うのなら牡丹の風格を感じさせる。肌は月のように白く、透明感がある。
ただ、栄華富貴を感じさせても、秀でた眉目には峻烈さが隠れている。
『リウ、来たぞ。しばらくだったな』
『あら、私の名前を覚えてくれたのね。嬉しいわね。さて、私はあなたを呼ぶ時の名前はどうしたらいいのかしら? 相変わらず偽名なのでしょう?』
『シナノ。今はその名にしている』
椅子を引いて席へと座る。木組みの椅子だが、良い素材を使っているらしい。詰まった椅子は重かった。白いテーブルクロスには皿が並べられていた。
『丁度今、あなたの話をしていた所。
「英語にしてくれ」
「丁度今、あなたの話をしていた所。
「ああ」
俺はナプキンを広げた。
会談中で二人がスラングで話すと、意思決定過程が見えなくなる。
リウの隣に座っている男は軍人だろう。
老齢だが精悍な顔つきをしており、髪には白髪が混じっている。髭はなく、引き締められた口元からは言葉は出てきそうにもない。武威を纏った彼から圧を感じるが応じる必要も無い。
取引交渉は食後だろう。
並べられた皿は下げられ、手元のワイングラスにはロマネ・コンティ。
味わいは淡く、酸味も滋味も感じにくい。大胆な味わいとはほど遠く、喉ごしでの味を楽しむワインだ。この味わいを理解するのは難しい。
リウは俺の反応を待っている。長い睫毛の下に戟を思わせる強い視線。背もたれに体重を預け、両手は肘掛けに置かれていた。黒い長髪は肘へとかかっている。
「リウ、そこの男を紹介してもらえないか? 本題に入りたい」
「あら、シナノ。相変わらず性急なのね。そういう所は変わってないわね」
「何とでも言え。要件をストレートに言え」
視線を老齢の男の方に動かすと、彼は両手をテーブルの上に乗せて組んだ。
手は骨太で、握られた両手で握られた拳は大きい。真っ直ぐに伸びた眉は意思の強さを感じさせた。
「儂の名はヅァオ。故あって詳細は言えない」
仕草や言葉使いから軍関係者であることが読み取れる。
リウは
以前は決着を付けるのに、世界を半周して何とか仕留めた。俺が仕組んだ罠にかかり、諮問会議にかけられ軍から追放されている。
そういう過去を鑑みると、リウの思惑が見えない。
「ヅァオ、お前が解放軍だろうが興味はない。ビジネスの話がないなら帰るぞ」
「待て。儂は資金洗浄をしてもらいたい」
老齢の軍人は重みのある声を出す。
身体から放射される武威は強烈で、生半可な奴であれば威圧感で動けなくなるだろう。
だが、俺にそんなものが通用する訳がない。
「具体性がなさ過ぎて話が宙を飛んでいる。どういう金で、どういう洗浄をさせたい?」
白髪のヅァオは横目でリウの方を向き、リウは細い首を頷かせた。
「
「理解に苦しむ。ETIMと解放軍の利害は相反するはずだ。どういう事だ、リウ」
ETIMはウイグル民族に近しく、中国から新疆ウイグル自治区の独立の後ろ盾となっている。
対応させられるのは人民解放軍。ETIMと彼らは不倶戴天の関係になる。
手元にあるパズルのピースがどうにも合わない。
そんな事を思っているとリウの形のよい唇が動いた。彼女の背後で花々が咲き誇っていた。
「人民解放軍が再編成されたって知っているかしら?」
滑らかな発音は耳障りはいい。だが、整えられた鼻筋は彼女の感情を包み隠していた。
「要点を言え」
「国家主席が替わって、軍が再編成されたのよ。かつての瀋陽軍区も反発していたみたいだけど押し切られてしまってね。予算額は縮小されたけれど、ヅァオの所属する西部戦区は予算を確保したい。その為に新疆ウイグル自治区で小規模のテロを起こしてもらうの」
共産党と中国人民解放軍とは上手くいっていない。
つまりはそういうこと。
人民解放軍の再編成が行われたものの、不満分子が居るという事だ。
「リウ、それだけなのか?」
腕組みをして、
リウは共産党の進める政策に反発し、罠に嵌まったとはいえ、軍から追放された過去がある。
彼女は微笑んで見せた。禍々しい美しさは健在らしい。
*
既に俺はムンバイに居る。十二月半ばというのに日中は三十度を超えた。
スマートシティーと設定され、建設は急ピッチで行われている。外貨と人が惜しみなくつぎ込まれる。
今、俺はモスクに居る。
通話音声はスピーカーに接続して再生させている。幾何学模様の壁に音は反響していた。
『シナノ、水源を買い上げる為の資金は仮想通貨で送った』
「土地登記は既にペーパーカンパニーに書き換えている。電子文書を送るからそれで確認しろ」
共産党員のくぐもった笑い声。
『シナノも余裕がないな。後で聞いてやると啖呵を切ったのにも関わらず、取り繕うにようして取引を持ちかけてくるとは』
声音に嘲りが混じっている。驕慢が彼の舌先で踊っていた。
「急に金が要りようになってな」
『やはり、お前は日本人だ。無様で愚かだ。いつも目先しか見えていない』
他人にどう思われようが知った事ではない。
俺には俺のルールがある。
「何とでも言え。これで日本の水源はお前のものだ」
『ああ、私はとても愉快だよ』
「話は変わるが
『買い手がいるのか?』
スピーカーから立ち上がった音。余裕のなさが現れている。
経済事情もあって米国は経済制裁を再発令し、欧州も同調した。主立った貿易路は閉じられている。
出口を失った売れる資産は、早急に売りたいに違いない。鉱石を眠らせてもいいが、代替素材を発見されれば途端に価値を失ってしまう。
「ウイグル自治区の情勢がわからなければ安定供給ができない」
『待て。どういう経路で売り捌くつもりだ?』
「中国人相手に手札を見せるのは愚か者だ。自治区の動向を教えろ」
しばしの沈黙。モスクの天井は高く、沈黙がこの場を支配している。
白いマーブルに熱は溶け込まない。
『西部戦区の指揮官を置き換えた。これから敵対勢力は圧倒的武力で制圧する予定だ』
言葉尻を捉えると、未定という事。安定供給は無理そうだ。
「今、俺はインドに居る。安定供給が必要だ。正確な情報を教えろ」
カードを開くと、話に具体性を増す。
さて、共産党員はどう出るか?
『本当なのか?』
「ムンバイのスマートシティー建設は知っているだろう? ウイグル自治区の正確な状況を教えろ」
話を急かし、足下を揺るがせる。目の前に金がぶら下げれば、必然とガードは下がる。
『正直に言うと西部戦区の予算を削っている。これから補正予算を組んで一気に制圧し、安定供給させる体勢にする。漢民族こそが支配民族だ。ムスリムなど我が共産党の前では赤子同然。アウシュヴィッツ並みに民族浄化してやるよ』
「それは共産党の共通見解と考えていいのか?」
『中央党員である私の命令は絶対なんだよ、シナノ。遅かれ早かれ根絶させる予定だったよ。時計の針を進めるだけの話さ』
「次のビジネスは水源よりも金になる。通話を切るぞ」
電装の通話を切る。電話は既に過去の存在だ。体内に埋め込まれたチップが会話を繋ぐ。
スピーカーは通話状態が終わった後のトーンを鳴らしている。
共産党員は俺の言葉に従い、西部戦区の予算を増枠させる。
ヅァオの言う通りにしなくとも、西部戦区の予算は増額される。
手渡された金を懐にしても咎める者も居ない。
だが、俺には俺のルールがある。
白亜で築かれたモスクに車座になって居座る者達は、先程の一部始終を聴いている。
IS、アルカイダの準頭目が鋭い目付きで俺を睨んでいた。彫りの深い顔に据えられた鷹の目は鋭く、顎髭は屈辱に震えていた。俺のビジネスパートナー達。資金洗浄を手伝っている。
かつてのシリア内線でETIMと彼らは戦線と共にしている。宗派の違いもあり、その背を押すモノが居なかっただけだ。
俺は武闘派ムスリムの巨頭に向き直った。
「”ムスリムなど我が共産党の前では赤子同然”なのだそうだ。同胞がレアメタルの為に蹂躙されるが、お前達はそれでいいのか?」
黒いターバンを巻いた男が重々しく口を開く。野獣のような顎髭は攻撃的だ。
爆弾の信管を叩くスリルは心地よく、俺は口角を上げる。
「お前は俺達に何を望んでいる」
「簡単な話だ。ヅァオの金をそのままお前達に渡す。タリバンを巻き込み国境線を危うくしてやれ」
黒ターバンの隣に居た白ターバンの男は髭に白髪が混じっている。眉は下がっているが目付きが胡乱。
白亜のモスクは目に眩しい。こういった話は暗い所が似合う。
「シナノは俺達に武器を供給すると言ったが、どういう仕組みになっている?」
「例の共産党員の仮想通貨で武器購入してETIMに譲渡。ヅァオの金は水源の買い付けで洗浄される。一連の騒ぎが起こったら、共産党員がETIMに武器購入をしている証拠をSNSを通じて拡散させる」
「それでお前に何の得がある?」
一笑に付す。砂漠に起源を持つ者達との交渉は納得できる理由が必要になる。
「俺のルールだ。礼儀を欠いた奴は相応の対応が必要だ」
*
ムンバイのクリスマスはヒンドゥー教徒が多いのもあって、盛り上がりは欠ける。
店先に煌びやかなモールがかけられ、キリスト教教会へと足を運んでパーティーをするぐらいだ。
照らされた夜道を行くインド人達には若者が多く、外国人である俺が珍しいのか、一瞥して去って行く。
冬至の夜は寒気を帯び、シャツ一枚だと寒さを感じる。この季節だとモンスーンが湿った空気を持ってくることもない。
建築途中の土っぽい港に俺は立ち、月を眺めて電装をかける。
中国との時差はインドからだと三時間。新疆時間だと二時間だ。
まだリウが起きている時間だろう。
呼び出し音が三回した後、応答があった。
『シナノね。目的は達成できたのかしら』
「ああ、新疆ウイグル自治区で騒ぎが起こる」
『それだけかしら?』
アラビア海は静かで、港に打ち寄せる波音も静寂に満ちていた。
「それから武器供給している共産党員を暴露。共産党は統制が一時的に停滞するから、かつての瀋陽軍区の連中を巻き込み、西部戦区からクーデターを起こせ」
『いい仕事ね』
「お前の依頼を片付けただけだ」
通話の向こうで軽やかな笑い声。音声から物音は聞こえてこない。
『お礼は何がいいのかしら?』
「次に会った時に食事に同伴だな。それだけでいい」
クッションにでも凭れかかったのか、紗の髪がマイクにかかる音がした。
『忙しくなるから、何時とは約束できないわね』
クーデターを起こすのだとすると、西部戦区と旧瀋陽軍区を軸として東部戦区との調整が必要となる。
権謀術数が入り混じり、クーデターが起こせたとしても、国をひっくり返すまではできまい。
できても、都合のいい共産党員を据える所まで。
だが、権力闘争は苛烈だ。彼らの歴史を振り返れば、数千年に渡って血の大河が流れている。
「契約は履行しろ」
『死にはしないから安心して。そうだわ、シナノ。私の
今頃、リウは笑っているだろう。
忌々しいが良い女であることには変わりはない。
だが、俺のマスターは俺だ。
「俺は
鼻息で笑んだ後、リウは甘い声で告げる。
『なら、次に会った時にKissでもしてあげるわね』
アラビア海のさざ波に月が泳いでいた。
A night on winter solstice ー 冬至の夜 綾川知也 @eed
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