読書は、受動的な映像や音楽と違って、自分から読み進んで行かなくてはいけない能動的なものだけど、とりわけ読書の中でもハードボイルド文体のものは、読み手により一層の知力と体力をリクエストする。
かといって本作、敷居が高いかと問われればさにあらず。
筆者の企むすべてが理解できなかったとしても、その街の様子、微笑む悪女の口紅の色、すべての断片が読み手を物語世界の奥へ奥へと誘う。それでいいと思う。その空気を味わうことで十分、本作の面白みは感じられる。
ひどく知的興奮を誘う、それは手練れの書き手の『読む煉獄』なのだと知って一層、物語を楽しめるからだ。