最終話 さようなら、ありがとう。
さて、今日も酒場で仕事を探すんだ。
息ごんで起きたのに、……なんか見覚えのある光景。
「おはようございます」
あれっ、女神じゃん、ちわっす。
「こうしてあなたをお呼びしたのは他でもないです、現実世界でそろそろあなたが瀕死の状態から起き上がるころだからです」
えっ、やだよ、仲間とか絆とかもっと経験したい、もっとモテたい、ジタバタ。
「これをご覧下さい」
女神は空間に治療されている俺の身体と、心配そうなおふくろを写した。
「これでもあなたはこの世界に残りますか?」
果て困った、おふくろよりは可愛い女の子がいいに決まっているけれど、うーん。
「できれば戻って欲しいのです、今日はこういった特典を用意いたしました」
「特典?」
なんだ、新しい能力?
「あなたの世界で、あなたが思いつく『あるもの』の発明を速めます。あれはどうしてもあなたしかできないことなのです。きっとあなたならできます」
なんだろうそういうの異世界でってえっ!マジで?
「それ何?ヒントちょうだい、ヒント」
俺は食いついた。
「迎えに来る日は……では引き受けてくれますね」
「ね、俺の使命って何?」
「では失礼します」
こうして俺はまた温かい光に包まれて目覚めた。
☆
「でさぁ、今日はお願いがあって来たんだ」
酒場にはアイラちゃんたちが来た、なんだろう。
「……ここじゃちょっと、来てくれるかな」
なんだアイラちゃん置いたままで、告白かぁ?いやいや、モテる男はつらいねぇ。
俺はミルダさんを見つめると、ミルダさんはやっぱり俺の顔を見て笑い出した。
「ぷっ、改めて見るけどあんた変な顔だねぇ」
やっぱ俺ブサイクでした。はぁ。
しばし後、ミルダさんが切りだした。
「白いアルファ草?」
「あぁ、それが偉く強い魔力を持っていて、なんでも代償に払ったものさえもとりもどすらしい」
「……わたしもミルダもやさしさや美しさになんか興味ない、しかし、アイラはどうだろう?」
エレナさんが酒場の机に頬杖を突いて言った。
「あぁ、アイラの代償は大きすぎる、あの癒しの力の代わりに、光を失ったなんて」
なるほどねぇ、よしっ、ここはひと肌ぬぎますか!
「魔法が必要だ」
「じゃあ俺の出番だな」
「助かるよ、お前なら手当はずめばいいみたいだから」
あ、そういうことでしたか、まぁいいですよ。
☆
俺らは街を出てこないだの洞窟とは違う方へ歩いて行った。
西へ西へ、交代でテントに泊まる時もあったけれどそういう日もパーティーに入れてあるってことで給料がもらえるんだからつべこべ言えない。例え俺が変な気起こさないためにエレナさんがおっかない目を光らせてようと。
三日ほど泊まっただろうか、ようやく見える低い山に、
「見えたな、あの岩山に、アルファ草があるらしい」
ミルダさんがキッと表情をしかめる、いよいよ、か。
「モンスター強いよ?みんな、油断するな」
こうして俺らは山を登っていったんだ。
山は低いけれどそれなりにゴロゴロしていて登りにくい。おやくそくにたがわずに、低い場所には赤いアルファ草しかない、となると頂上に見えるあれだ、間違いない。
俺らは蛇や鳥のモンスターを倒しながら頂上を目指す。ボンッ!俺の魔法もかなり役に立った、まぁ言ってもレベルの低そうな魔物なんか俺の相手じゃないね。
果たして頂上には白い花の群れ。
「アルファ草は貴重だから、一つしか取れない決まりになっている」
ミルダさんがそれを見て言った。
「え?誰も見てないけれど?」
俺は思ったままをいったら
「それは重罪だな、よくて冒険者世界からの追放、悪くて死刑」
エレナさんに睨まれた、くわばらくわばら。
「おはなのにおいする~」
何にも知らないアイラちゃんがはしゃいでる、俺らはみんなアイラちゃんには感謝している。だってアイラちゃんのお陰でこんなに冒険できる。
「あっ、危ないよ」
そこに岩が、という間もなくアイラちゃんは躓く。やっぱ早く目を治してあげないと。
「いたぁ」
すりむいてアイラちゃんは泣き出しそうになる、早く、治してあげるね。
「治してあげようか」
「うん?けが?」
「けがじゃなくって、目」
「目?なんで?」
アイラちゃんけなげだなぁ、同中もそれなりに儲かったし、街へ帰って、俺らはここでお開き。
「おっと、そうだ、あのさ、一日開けてくれる?」
ミルダさんが言ってきた、俺はいつでも暇だけど。
「じゃあこの日、神殿に本当の魔法使い呼ぶよ、アイラの目を治すんだ」
うわっ!その日、俺が現実へ戻る日じゃん!
☆
約束の日、俺は約束の場所へ向かった。
とても気難しそうな老紳士が一人、荘厳なローブを纏っている。
「では、花をここへ」
ミルダさんが取って来たアルファ草を銀の皿に置く、いよいよ始まるらしい、皆神殿の静かさに声を発することはない。
これから起こることを、俺らはまだアイラちゃんには言ってない。
けれど、目が見えないなんて、かわいそうじゃないか。
「……オンマカマカ、ジュモンマカマカ……」
魔法使いが呪文を唱え出す。と。
白い光が、神殿に溢れた。なんだ?成功か?
「あの、すいません」
ところがその光から出て来たのはいつしかの女神。
「つい洪水から村を救ってしまい、力が足りないのです、リュードはこのままでは自分の世界に帰ることはできません。何か力のあるものは……」
彼女の目は、アルファ草を見ていた。
☆
その光に、誰もが目を疑う。
「女神さまだ!」
「伝説は本当だった!この神殿に来られたんだ!」
あぁ、という声があちこちから聞こえる。涙ぐみ、手を合わせる者までいる。女神は困ったように言った。
「誰も私の声を聞いてはくれない……」
女神は困ってしまった、そりゃそうだろう、言ってることに嘘はないようだしきっと今は力が無いんだ。
「あの……」
声を上げたのはアイラちゃん。
「これ、なんのお願いごとしているの?」
それをアイラちゃんには聞いて欲しくなかったな。
しばしの静けさの後、ミルダさんが言った。
「これは、失ったものを取り戻す願いを叶えようとしているところだよ」
「私たちはみんな優しさや美しさを犠牲にしたからな、そして……」
エレナさんの声をアイラちゃんがかき消した。
「そんな!そんなことない!」
アイラちゃんは目に涙を溜めて、俺にこう切り出した。
「ねぇリュードさんはどう思います?」
「えっ?俺?」
……俺はまぁ、思ったままを言うだけだよ。
「俺はミルダさんは美しいし、エレナさんだって優しい人だと思うよ。でも俺たちの取り戻そうとした、アイラ、君の……」
俺の告白に、あどけなくアイラちゃんは言った。
「え?だってわたしこのままでいいよ?」
やっぱそうだったのか。
でも、俺は、アイラちゃんの笑った顔が見たい。
笑って欲しいんだ。
アルファ草で叶えられる願いは一つだけ。
「あの子の目を……」
アイラちゃんも叫んだ。
「リュードさんを元の世界へ!お願いします!」
そして、きれいな光に辺りが包まれる。
俺はおもいっきり変な顔をした、元から変な顔だけれど、アイラちゃんに笑ってもらえるなら。
「ありがとう、さようなら。リュードさんかっこよかったよ?」
アイラちゃんが、笑っている。
俺何やってんだよ、精神までブサイクになったのか?あの子の幸せを願っているのに、幸せを願われてどうすんだよ。
俺、カッコ悪い。
白い光が俺を包んでいく……。
そして、俺は病院のベットで起きた。
おふくろは喜んだ、帰って来たくなかったんだけどな……。
俺はちょっとだけ思った。
アイラちゃんみたいな人は、もっといるはずだ。
もっと色々な、目の見えない人の笑顔が見たい。
俺はちょっとずつよくなると、そういった場所のお金の無さに、目の見えない人での団体のボランティアを決めた。
俺が自分で始めたって、おふくろは喜んでたっけ。
やがて俺はあるものを発明した。
それを元に銀行から出資を受けるようになって、今や小さな会社の社長だ。
発明品の名は『アイラ』
目の見えない人を助けるために作られたものだ。
ボランティア仲間の内面を誰よりも見てくれる人と結ばれて、今は幸せに暮らしている。
俺?俺の名は……。
『転生したがやっぱり俺はブサイクだった』 完
転生したがやっぱり俺はブサイクだった 夏川 大空 @natukawa_s
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