第4話 内政チートだぜ!ヒャッハー!

「はい、報酬、ちょっと色つけておいたから」

ミルダさんが俺に粗末な麻袋を渡す、中には金貨が十一枚。

「あたしらもしばらくこの街にいるから、またなんかあったらよろしく」

ミルダさんはあのごたごたの後ちゃかりお宝を手に入れて、冒険も黒字。

 十一枚、……いまいち価値がわかんないんだけれど。

「ありがとうございます」

ここはお礼だろうな。

「今度は魔法と剣もあてにしていいかな」

「もちろんですよ」

頼られてるっていいよな、じゃ、手を振ってみんなが去っていく。俺はまた一人になった。

「さて、もう寝るか」

そう言って宿にチェックインする。今日は遅い、体の疲れをとろう。

 宿屋のBGMなんかない、静寂。

 う~ん、むにゃむにゃ、みかんはポン酢で。

 ……変な夢を見たぞ。異世界にきたんならそれらしい夢を見たかったな。

「おはようございます、昨日はよく寝られたようですね」

「あ、おはようございます」

宿屋の主人に俺は挨拶する。

「では、宿代はこちらになります」

「はいはい」

金貨三枚を払う、

「確かに受け取りました、では行ってらっしゃいませ」

金貨三枚が宿代に消えた、とりあえずどこかで飯食うか。

 おっ、レストランみっけ。なになに、銀貨500枚でお腹一杯?銀貨ないけれどおいくらぐらい?

「あの、銀貨ないんですけれど」

「あっ、金貨でおつりが出ますよ。いらっしゃいませ!おひとり様ですか?」

ウェイトレスが俺を案内する。金貨でおつりってことは、金貨が銀貨より大きいのな。

 しばらく待つと美味しそうなサンドイッチにスープ、ベーコンと野菜のサラダが出て来た。おっ、なかなかじゃん。

「スープお代わりご自由になってます、ではごゆっくりどうぞ」

コーヒーまでついてるよ、やったね。

 しかしこれまで出たのが金貨三枚に銀貨500枚、金貨十一枚もらったけどもう四枚なくなった、残り七枚か。そうすると金貨一枚千円ぐらいの価値かな?とにかく、天気もいいし稼げるうちに稼いでおくか。

「ごちそうさまでした」

「はい、お会計ですね」

俺は金貨を一枚払い銀貨500枚を受け取る、とにかく、アイラちゃんたちと出会った酒場に行こう。

 街行く人々はにこやかに歩き、俺の顔を見て笑い出す。

 しばらく歩いて、前行った酒場に辿り着いた。

「いらっしゃいませ」

「あの、またなんか紹介してもらっていいですか?」

 俺は酒場の主人に挨拶する。

「あぁ、いいよ。そうだあんたの名前はなんていうんだ?」

「リュード、です」

酒場の主人は書類に書き足す。

「リュードね、今日はこの辺りの地主さんが、何人か働き手を集めて下水講の掃除をするそうだ、大丈夫そうかい」

「はい、任せて下さい」

下水の掃除なんて仕事ここにもあるのか、いちおうボランティアやっててよかった。

 俺は指定された待ち場に行くと、しばらく後色んな人以外のモノも集まってきて親方ってみんなに言われてるゴブリンが来て、今日の予定と、注意事項、まぁなんていうか俺はあんま詳しくないけれどわりと普通の朝の現場だよ。

 俺はシャベルを持ち、泥を書き出す、泥はねばついているけれど重くはない、でもこれあそこまでやるのか……きついな、一日で終わるかなぁ。

「あの」

「なんだ新入り、ぼやぼやしてないで穴掘れ、穴掘れ」

怒られるし、やんなっちゃうよな、もう。

 でも、俺は大魔法使いだったんだよな。

 あそこまで泥をかき出すなら、水とか、やってみようっと。

「出でよ水」

水は泥を……やっぱ重くて流れない、何やってんだ俺。つむじ風を起こして吸引するならワンチャン?でもどこに吸うんだよ、それだよそれ、まぁ大きな麻袋はあるけれど、これに吸い込むように細かく調整して魔法使うのも難しそうだ。

 まぁでも掬ってもどうしようもないものならそれこそ高圧の水の出番だけれど。

 こうしてしかたなく俺がえっちらおっちらドロをすくっていると。

「……どうしよう、でも今日こそ……」

もじもじとした女の子が、手紙を持ってうろうろしている。

 おさげのかわいい子だ、いいなぁ。

「……だめよだめだめ、もじもじ片思いは卒業するって決めたんだもん」

誰かにラブレターかな、いいなぁ。

「でもこんなわたしなんか振られちゃうかもしれない、だったらあきらめれば……それでも失恋かぁ、嫌だなぁ」

なんで悩むんだろう、あんなに可愛いのに。

「いつもいじわるしてくるあのこ、多分彼のことを……どうしよう付き合ってるって噂だけど、あぁ、もう、渡せない!」

そんないじわる普通相手にしねぇってば、いけいけってのに、煮え切らないなぁ。

 よしっ、ここは俺が行くか。

「あの」

「あっすいません工事中ですよね」

女の子は謝ってくる。

「それもそうですし、もしよかったら、俺どうせ暇だし、手紙届けましょうか?」

「ありがとうございます。……でもそんなにお礼が出来なくって」

女の子が困っているのに見て見ぬふりはできないだろう?

「いいよそんなん、なぁどこに届ければいい?」

「じゃあ、悪いけれどこのビスケット一袋と林檎一個でお願いできますでしょうか。住所は、こちらです」

女の子に渡されたメモとかわいらしい袋に入ったビスケット、林檎、そして手紙を俺は服に隠す。

「確かに」

「よろしくお願いしますね」

女の子は俺をちらちら見ながら帰っていった。

 さて、現場も終わり、俺は金貨十枚を手に入れる。ビスケットと林檎は俺のお昼になった。

 先にお礼を貰ったんだ、あのこに教えてもらった住所へ行かないと。

 しばらくぶらついたら、あっけなく住所は見つかった。

 綺麗なガーデニングを世話するハイエルフのイケメン青年、お前だな。あのこのハートを盗んだのは、このやろう。

「……あの」

俺は思い切って彼に話しかけたら、

「なんだいルナ?」

「ティータイムにしましょう、大好きなアップルパイがあるわよ」

家から、とてもいじわるには見えないそれはそれは綺麗な女の人が出てきたんだ。

                     

                     ☆


「で、あんたは帰ってきたと」

「だって思いを伝えないと……両想いにならないと……」

「女の人がいた、か」

「誰か彼女かな、あのこ振られるのかな」

「それはわかりませんよ?妹かもしれません!」

逃げ帰った俺はアイラちゃんたちを探し回り、彼女たちに相談した。他に知り合いもいないし。女の人なら、こういう時どうすればいいか考えてくれそうだ。

「で、どうしたいんだい?あたいはもうありのままを彼女に伝えて、諦めるように言った方がいいと思う」

「……わたしは反対だ、アイラの言ったことは一理ある、確かめてからでもいいと思う」

「そうですよ!いとことか幼馴染とか!あっ……それじゃ恋人になれちゃうのか……」

三人ばらばらの意見が出てまとまらない。

「とにかく俺は……」

選択肢が出てこない、時間制限も早い、こんなギャルゲーやだな、何か難しそう。

「もう一回行って、あの女の人が誰だか確かめようかと思う」

まぁ確かめないことにはな。

 俺は三人を伴って、また宛先へ向かう。

 ハイエルフの青年はハーブの手入れをしているみたいだ、歌が聞こえる、声までイケメンってずるいよなぁ。

 女の人がでてきた。

「ねぇ結婚式の準備だけど、これでいいかな?」

綺麗なドレスを着ている、って、結婚式?

 俺はまだ街に詳しくないので、その日は何もせず前泊まった宿屋で寝た。

 寝ながら考えた、誰の?でもこのタイミングは悪い、このままではあのこが涙を呑むことになるだろう。

 でもなぁ、あの女の人も、幸せそうだった。

 なんだよイケメンなんて女の子泣かせやがって。ちくしょう。

 明日結婚式。

 よしっ明日はとりあえず結婚式とやらに行こうか。今日はもう寝よう。

                        

                      ☆


 で、俺は女の人が言っていた教会に来た。

 幸いお客さんが多く、誰もがお祝いに来ていたので俺は全く怪しまれず済んだ。適当な場所に座る。

 来てどうするつもりも何もない。

 ただこういうのって案外「なーんだ」ってことだってあるかもしれないからな。

「新郎新婦の入場です」

パイプオルガンが荘厳な音楽を奏でる。

 新婦が父親らしい人に連れられて、新郎の場所へ行く。

 新郎、新郎は……ここじゃ見えない。

「あっ、すいません」

隣の人にぶつかってしまったぞ。

「いえ」

「え?」

俺はぶつかった人の顔をまじまじ見た、手紙の相手のハイエルフのイケメン、ここにいるってことは、新郎じゃない?

 BGMにのって新郎が花嫁に指輪を渡す、相手は誠実そうな青年だった。


                     ☆


「彼女は僕のガーデニングの先生でね。あぁ、手紙?僕に?」

こうして、俺は難なくミッションコンプリートした、

「そうだ僕も実は手紙を書いてね」

なんだようせっかくいいエンディングを迎えようかと思ってたのに、あなたも違う誰かを?

「リーンっていう、おさげのかわいい女の子に。お礼は……」

リーン、俺の持っている手紙にもそう書いてあった!

「お礼はいりません!ぜったい渡します!」

俺は涙でくちゃくちゃになりながら言ったんだ。

 かくして彼らは愛し合う幸せな二人となり、それからというもの俺は手紙を送るというアルバイトを始めた。これが評判になれば世界を変えられるぞ。

 ところがそうはならなかった、俺はそんなに人を集められない。それでも続けたのは、飯代浮かすためだったような。

 俺はある日極東から来たっていうガキんちょのママに手紙を渡した、ガキんちょは偉く感動して、俺に「おおきくなったらおにいちゃんみたいになる」と言った。

 彼の名はヒソカ・マエ・ジマ。

 後に郵便の父と呼ばれたらしい。

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