第3話 初心者用の洞窟で奴隷ハーレム!
城壁に囲まれた街を出ると、なだらかな森の向こうに、低い山が見える。
「この森を抜けたら洞窟があるんだ、そこにみんなが捕らえられている……」
エレナさんはキリッと涼しい目つきに力を込めて言った。
「まったくやんなっちゃうよ、捕らえられているのドワーフだったっけ」
ミルダさんが悲しそうに俯く、ドワーフが捕らえられているのか?ふーん。
「まぁ、でもさ、奴隷制度があるのもしかたないことだよ、あいつらの安い労働力のお陰で、あたしらはこうしていられるんだ」
ミルダさんは呟いた。それをエレナさんが咎める。
「……そんなふうに言うのはよくない、彼らだって、同じ人間だ」
「うわっ出たよエレナのいつものが」
冷たい顔のエレナさんに、ミルダさんは苦い顔をした、
「あいつら豊かにしてどうなんの?下には下がいるって言って、あいつらを見て気がまぎれることもできなくなるよ」
ふぅん、奴隷、ねぇ。
俺がもし奴隷なら、解放してくれるって言われても、「どこに?」とかぐらい聞きたいなぁ。
「……でも、助けに行くんですよね?」
俺は言ってみた、こう言いながらもそこに行くってことは「そうゆうこと」だろうから。
「いや、あたしは助けない」
ところがミルダさんはきっぱり言い張った。
「ドワーフがどうなろうが関係あるか、あたしはあいつらが貯め込んでいるっていう、キラキラのお宝しか興味がないさ」
「そんなに貯め込んでいるんですか?」
俺は思ったままを言ってみた。
「あぁ、なんでも噂だけれど、捕らえられてきた時隠し持っていたらしい、そいつを奪う」
エレナさんは静かに目を伏せてミルダさんと目を合わせようとしない。
「まぁ、どっかの誰かさんはどうするか知らないけれどね」
エレナさんは黙って何も言わない、ドワーフを助けるつもりなのだろうか、にしてもどこに?逃がしてもすぐ捕らえられてしまうような場所に逃がしても仕方ないだろう。
これはちょっと俺の手に余りそうだなぁ。うーん。
「ほら、森に入った、この道をまっすぐ行けば、もうすぐ着くよ」
ミルダさんが言った、うっそうとした森に蛇やキノコ型のモンスター、ありがちだけど俺が剣を構える暇もなくミルダさんの斧もエレナさんの剣も早く、この辺のは「ざこ」とか呼ばれるんだろうなぁと思う。
「そうだ、これ持ってて」
渡されたのは丸い入れ物に入ったクリーミ―なたぶん傷薬と、あとなんか固いけれど、これ爆弾かなぁ?
「近くの錬金術師に傷薬と手軽な爆弾を作ってもらった」
そう言われながらも二人はそれなりに強い、俺も剣で、魔法で戦わないと。
手頃な枝を拾う。
俺に狙いを定めるキノコ型モンスター、いまだ。
「あっ!」
ガシュッ、枝がキノコを切る。ミルダさんを守ったぞ、ほら惚れろ惚れろ。
「…ありがとう」
「例には及ばないです、パーティーですから」
エレナさんはそんな俺を見てまた笑う、ふぅ、決まったね。
☆
山の洞窟に着いたぞ。
とくに強いモンスターもいない、俺も岩を大学卒業してはじめての仕事を始める。
こうして仕事があって金もらうってなかなかだぞ。悪くはないな、まぁ奴隷は嫌だけど。
お礼は金貨10枚ってのが実はいまいちよくわかってないんだけれどまぁいいや。
いやシャベル重いけどな、そういえば監督に「お前のシャベルの持ち方は変だ、貸してみろ」って言われたことあるな。監督元気だろうな、あの人殺しても死ななそうだし。
「あ、これ掘って、中に宝石があるかもしれない」
ミルダさんは岩を指した。かカチカチ、かてぇ、働くのやっぱ無理かも。そうだ、もしかして。
俺は意識を集中して、炎をイメージする。
真っ赤な真っ赤な炎、それが青くなる、いつも現場で見てたことを思い出す。岩は、確か。
その炎を岩の上で燃やす、岩は炎によってもろくも崩れ、中の宝石を吐き出した。
どうだ、なんてったって俺大魔法使いだからな!
「へぇ、りゅーど」
アイラちゃんがまず気づいた、目は見えないけれど、炎の暑さは感じるんだろうなぁ、危ないから近づいちゃ駄目だよ。
「ほのお?ぼーん、ばーん?」
「うんそう、どうだ俺けっこう魔法凄くねぇ?」
俺はミルダさんとエレナさんを見た、
「炎か」
エレナさんは岩を見る。
「あぁ、やってみた」
「へぇすげぇなあ」
もっと褒めて褒めて。
「ついでにお昼頼んでいい?あたしもエレナもみんな料理下手でねぇ、手当はずむからお願い」
えっ、そういう話になりますか、わかりました、やります、やりますよ。
☆
洞窟にいた鳥に似たモンスターを焼いて、ミルダさんから粉ミルクととうもろこしを借りて、スープを作る。俺たちはお昼にした。
エレナさんがみんなにパンを配る、固いけれど、美味しいパンだ。
「そういえば皆さんはなんで一緒に旅をしているんですか?」
食べながら俺は聞いた。
「そりゃなんもかんも違うからだよ」
「考え方も戦闘スタイルも、被ると見えないこともこのメンバーなら見えるからな」
「みんなバラバラだから、たのしいよ」
快く答えてくれた、やっぱ仲いいや。
洞窟を進む、下へ進むことが出来るみたいだ。下へ、下へ。
暗がりに持っていったたいまつの炎が燃える、消えたら、俺が燃やせばいい。
「……ウー、ウー」
唸り声が聞こえる、ぱっと見ゴブリンに似ているけど、もっとずんぐりしていて、目に光が無い。
「ギルシャーマンだ、人間型に見えるけれど、言葉は通じない、みんな、しまって行こう!」
ミルダさんたちが応戦する、モンスターは次々と斧で、剣で倒れていく。
「あれ、何か見つけ」
モンスターが持っていた爆弾と共に、ミルダさんがモンスターの腰の袋から取り出したのはちいさな鍵。
「これって……もしかして……」
「あぁ、多分ドワーフたちの捕らえられている所だ」
ほれっ、ミルダさんはエレナさんに鍵を渡す。
「……?」
「あたいはお宝にしか興味ない、だからドワーフがどうなろうと関係ない。でもあんたはそうじゃないんだろう?好きにしな」
「……ありがとう」
エレナさんはもじもじと照れている、なんだ、優しいとこあるじゃん。
「じゃあ、まずはみんなが捕らえられている所みつけにいこう!」
アイラが無邪気に飛び回る、いや、待て。
「それには及ばない」
俺は言った、何もダンジョンをさまようことはないはずだ。
「このギルシャーマンはそこそこ強くなかったか?俺らが奥に行っている証拠だよ。あとはちょっとずつモンスターの集まっている所へ歩けば、きっと強いモンスターが警護しているはずだ」
「そうだな、なんだ、リュードもそれなりには旅慣れているみたいだな?よしっ、行くぞ」
ミルダさんが俺を小突いてからかった、俺らはこうして奥へ、奥へ。
ふと隠し部屋を見つける、中には金銀財宝、でも今探しているのはそれじゃない。
「これは後で、いいからドワーフだ」
みんなの心は一つだ。
五つほど階段を下りただろうか、突然ギルシャーマンと、牛みたいなモンスターが、俺らのゆく手を塞いでいる。
「やべ、強そう」
ミルダさんが思わず呟く。
「ミノタウロスか、……あの扉を守っているみたいだな、中にいるのは……」
歌声が聞こえる、「おいらの こきょうにゃ きんぎんざいほう あんたの こきょうにゃ いわくずを」どうも趣味が悪いけれど。
「今のはドワーフに伝えられているっていう歌です!行きましょう!」
アイラちゃんの声にみんな頷く、あいつを倒さなっきゃ。
ドンッ。
血の気の多いミルダさんが斧でミノタウロスに切りかかる。エンカウントイベントなんかない、モンスターが気づき、重いパンチをこちらにお見舞いしてくる。
「ミルダさん!回復しますよ!」
アイラちゃんが杖を振ると清らかで白い光が、たちまちミルダさんを包んでいく。
「援護する!」
エレナさんは剣で応戦して、まずはギルシャーマンをやっつける、いよいよ、ミノタウロスだ。
ミノタウロスはその大きな角でこちらを捕らえようとする、やべぇ、俺はとっさに魔弾を飛ばしてモンスターの攻撃を読む。
「やるじゃんリュード」
面食らってミノタウロスはたじろぐ、どうだ、少ないRPGの知識だって役に立つだろう?
「今だ!」
みんなで呼吸を合わせる、急ごしらえの、合体攻撃なんかしたことないパーティーだけれど、エレナさんが次に切りかかった時そこにミルダさんの斧を合わせ、アイラちゃんが加護を祈っているうちに俺が炎を飛ばすことならできそうだ。
勝負は一瞬。
タン、エレナさんが剣で斬りかかる。ミノタウロスがこちらを振り向く前に、ミルダさんがミノタウロスに斧を飛ばす。
「天に召します精霊よ、今ここにこのものたちを護りたまえ……」
そのすきに、アイラちゃんが俺たちに結界を貼ってくれる、よし、今だ。
俺は一瞬で精神を落ち着かせ、指から炎を飛ばす。
バシュッ、炎はたちまちミノタウロスを包み、ミノタウロスが大きな炎に包まれていく……。
「やるじゃん、リュード!」
ミルダさんの声が響く、魔物は倒れた。
☆
さて、持っていた鍵であっけなく扉は開き、中にいたドワーフは自由の身に。
自由ってなんだ?俺よくわかんないけど、ここから逃がしても街で捕まるだけってのはわかった。
うん待てよ?逃がすだけなら、転送魔法ってできねぇかなぁ、よしっ。
「おい、お前ら」
俺は泣いて嬉しがる彼らに話しかけた。
「街に行っても捕まるだけだぞ」
ぶっきらぼうだけど、事実は事実だ。
「……街、ならな」
転送魔法はやったことないけれど、ドワーフの行きたいこところを、故郷をイメージしてみたら、空間に四角いぼやけたドアの先に見たことない村が写る。
「故郷だ!」
ドワーフが声を上げる、よしっ、やったか。
「ありがとう、このお礼をしたいのですけれど……」
もじもじと女の子が近寄ってくる、ドワーフにしては可愛いなぁ、お礼、お礼と言えばあれですよ、ぐふふ。
でも俺はそんな下心を思いっきり隠して言った。
「そんなお礼なんでいいですよ、俺の名はリュード、冒険者さ」
だから俺は思いきりかっこつけて言った、なのに。
「ぷっクフフ!何そのセリフ、まぁいいわ、ありがとう」
女の子は俺のせめてこんなことしかできないですけれどからのR18 展開熱望なんか全く思いもせず、俺の顔を見て笑うとそういった。
あぁそうか俺ブサイクだったんだなぁ、どんなにかっこつけても、笑われるだけ。
「ありがとうございます、あなたの名前は、みんな忘れないですよ」
おじいさんにお礼されてもなぁ、アイラは、ニコニコと笑っている。
アイラ、俺の顔で笑わないの、アイラだけだよ。
☆
後日なんとなく聞いた話だけど、この村に立ち寄ったことからやっぱりドワーフだからって奴隷にするのよくないって気づいた偉い人がいて、その人の運動のお陰で奴隷制度は無くなった。
彼の名はリン・カーン。隣にはドワーフのかわいい妻がいたっていう話だ。
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