2019/01/21(月) 根の国

我が家は、大工だったじいちゃんが建てて遺してくれた家だ。

将来、住む家族が増えた際に好きな間取りで部屋を作れるよう、2階は基礎となる柱と屋根以外は作られておらず、部屋を作るための材木だけが置かれていた。

この気遣いが無駄になってしまっていることに関しては心苦しいが。


そんな2階に、近頃ネズミが出る。ネズミを罠カゴで捕らえた私は、尻尾に追跡用のタグを付けて放した。

一目散に逃げるネズミの反応を追うと、どうやら庭の柿の木の根元に逃げ込んだようだ。

どこかに穴でもあるのかと探していると、バリッと足が地面に沈んだ。霜柱だ。

特に意味はないが、霜柱を踏んで壊すのは楽しい。子供のようにその場でいっちに、いっちにと足踏みすると、足元が崩れ、そのまま地下へと真っ直ぐに落下した。


あちこちぶつけながら落下する私は、なんとか太い根を掴んで止まった。

地下にはこんな広大な空間があったのか。以外にも明るく、太い根があちこちに垂れ下がり、細い根がそれらを繋いでいた。

デコボコな天井には、赤と橙と黄の斑点模様があり、秋の紅葉を彷彿とさせた。よくよく見るとあちこちの根にも同じ模様があり、どうやら菌類のようだ。恐る恐る下を見ると、どこまでも地面と呼べるものはなさそうだった。


なんとか上に戻らねば。根は意外にもしっかり繋がっていないものが多いようで、横のつながりで辛うじて位置を固定されていた。

根ットワークとはよく言ったものだ。私はジャングルジムを登るように上を目指した。

と、手をかけた根がぶちぶちと千切れる。バランスを崩した私の横を、根を齧っていたネズミがポロポロと落ちていった。


イヤな予感がした。どこからか集まってきていたネズミは、四方八方からその小さな黒い目をじっとこちらに向けていた。

こいつらは襲いかかるわけでもなく、登る先を支えている部分を齧って切り離すばかりだった。その度に、私はガクンとスイングするように下方へ落とされ、仕方なく横の根に移動する。延々とこの繰り返しが行われるさまは、賽の河原のようだった。


私だってただただ考えもなしに登っていたわけではない。切り離される前に先んじて横の根に移ったり、筋力をフル稼働させて高速で登ってみたり、色々策を試したが、数の暴力、多勢に無勢だ。集団で一つの生き物のように振る舞うネズミどもの統率力には敵わなかった。


どのくらい経っただろうか。腕を酷使しすぎて、プルプルしてきた。足を使ってその場にとどまることはできているが、登る力はもう残っていなかった。いったい私が何をしたというのか。いや、恨み言を言っても仕方ない。とりあえず少し休もう。そう思った私は、手がベットリと秋色に汚れていることに気がついた。


あぁ、そういうことか。


何もわからないまま、何かわかった気になった私は、重力に身を任せ無限に落下していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

平凡なプログラマーのゆめにっき 睦頃 @yoshiyoshimobile

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ