150光年彼方のクリスマス

暗黒星雲

地球からのプレゼント

 地球から見ればおうし座の角に位置するヒアデス星団。

 距離は150光年離れている。


 その中にある惑星アルマ。

 地球と似たような大きさのこの惑星を支配しているのはアルマ帝国である。


 アルマ帝国の首都はリゲル。

 その中心部に建てられた皇城は帝国の中心である。また、皇帝、及びその親族の住まう場所でもある。


 その中の一室。

 第四皇女ララの部屋。


 名前はララ・アルマ・バーンスタイン。地球人的見た目では小学四年生である。胸元はまだ膨らんでいない。直毛の金髪を短めのツインテールにしている。そのあどけない容姿は帝国民の間では大人気であり、皇室の誇るアイドル的存在でもある。


 本日、地球から荷物が届けられた。

 ララ皇女宛に届いたその荷物は大きかった。


 人が一人入ってしまうのではないかという大きさだった。


 ララの部屋へと運び込んだ者もその大きさに驚いている。

 しかし、地球という異文化の地より届いたその荷物は周囲の関心を集めていた。


 ララ専属の付き人だけではなく、他の皇族の付き人や皇帝の侍従たちまで集まっているのだ。


 そのプレゼントの送り主は綾瀬紀子博士だった。綾瀬重工株式会社で人型アンドロイドを開発している人物である。綾瀬重工はその分野では世界一のシェアを誇る大企業である。


 中身はきっと地球で作られたアンドロイド。周囲の者たちは皆そう思っていた。異文化の地で作られた自動人形。そして彼らが憧れるエンターテインメントを誇る地球からの贈り物。その場で中身を想像してしまうのは仕方のない事だろう。


「アキハバラで見かける露出の多いメイドさんだよ」

「それはお前の趣味だろう。地球のクリスマスは恋人同士が語り合うイベントなのだから、ララ様の恋人役が入っているに違いない」

「それなら坂田何とかって言う怪しいサムライじゃないかな。ララ様はぞっこんだから」

「私は赤影だと思うけど。ララ様の恋人なら仮面の忍者に決まっているわ」

「それを言うなら鬼平よ。あの渋さがわからないの?」

「お前たち。ララ様にお相手がいないことをそう堂々と話すものではないぞ。私は合体するロボットではないかと思うのだ。戦闘機が三機合体するやつとか、五台の車両が合体するやつとかな。ララ様はかなりご執心だぞ」

「だからってロボットを恋人役にするなんてふざけ過ぎでしょ」

「いやそういうわけではないのだが」

「恋人役ならきっと地球的イケメン様だわ、鈴木亮平様のような」

「アンタの趣味なんて誰も聞いてないわよ。中身が女性の可能性も考えないとね」

「それならきっと赤木リツ子様のような理知的な落ち着いた女性に決まっている」

「ララ様にお似合いなのはアスカ様のような若くて活発な女性です。おばさんは除外してください」

「どうして二次元に走るのよ。きっと山口百恵様のような永遠のアイドルがお好みに違いない」

「貴方それは古すぎ。作者の趣味じゃなくてララ様のお好みの話なのよ」

「AKBの様な現代のアイドルに違いない。しかもメイド服を着ているんだよ」

「お前の趣味は聞いてないんだって」

「でもロボットは捨てがたいぞ。近日登場予定のララバスターを綾瀬重工が制作したんじゃないかな」

「ララ様をロボットと過ごさせる気なの。馬鹿じゃないの?」

「いや、外見はアイドルでも中身はロボットなのだろう。それなら……」


「この馬鹿者ども! 全員ここから出ていけ!!」


 このくだらないおしゃべりに、部屋の主ララ皇女の怒りが爆発した。

 侍従や付き人たちは深く礼をして退室していった。


「ナディア。この荷物を開けろ」


 一人残ったメイドのナディアが包みのリボンを解く。

 梱包材は四方に開き中身が現れる。


 そこにあったのはクリスマスツリー。

 星やベルや色々な輝くもので飾られていた。

 そして『クリスマスおめでとう』と書かれたプレートがついていた。


「ララ様、これは?」

「クリスマスツリーだな。地球ではごく普通のプレゼントだ」

「どんな意味があるのでしょう?」

「生命と信仰を象徴するものらしいな」

「クリスマスとは恋人同士の♡♡♡なイベントだと聞いておりましたが」

「それは発情した阿呆の戯言だ。本来は古い聖人の生誕祭だよ。神に感謝し生を喜ぶ、そう言ったお祭りだな」

「なるほど。先ほど其処で騒いでいた連中の認識は間違っていたのですね」

「文化の表面だけを真似るからそうなるのだ。馬鹿者どもが」

「おや? ララ様、これはカタログですね」

「見せてみろ」


 ナディアはララにカタログを渡す。ララはそのカタログを見て震え始めた。顔を真っ赤にして歯ぎしりをしている。


「ララ様どうされたのですか。ちょっと拝見いたしますね」


 ナディアはララの手からカタログ受け取って中身を確認する。


「何々? えーっと。非売品のご案内ですって。世界をリードする綾瀬重工の人型アンドロイド♡♡♡可能モデルですって。今回は特別に♂型のご案内をします。少年型、青年型、壮年型各種制作できます。○○○の太さや長さ、色形も自由に設定できますですって。あはっ。ララ様に恋人がいないから気を利かせて制作してくれるんですね。しかも好みのタイプを自由に作ってくれるなんて凄いです。あの綾瀬紀子博士って、ものすごく優しい方ですね」


 ナディアも顔を真っ赤にして喜んでいた。しかし、ララの怒りは収まらない。


「あんのクソ婆あぁ! 私を何だと思っているんだ!! 今度地球に行ったときは必ずぶん殴ってやる。乙女の処女はこんなに軽くない!!!」


 その後、クリスマスツリーは皇城の広場に飾られ人々の関心を集めていた。


 しかし、ララの怒りは三日三晩収まらなかったという。 

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150光年彼方のクリスマス 暗黒星雲 @darknebula

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