木像建築

安良巻祐介

 

 大伽藍より一斉に暇を出され路頭に迷うた仏師たちが飢えを恐れて彼処に集い、奇妙なる組合を結成した。

 彼らの手によって気を入れられた、仏ならざる巨大な顔の無い木童子の群れが、昼夜徹して蠢いて組み上げ始めた、いわゆる「木像建築」は、精密さや隙間のなさでは到底人の手による家々の敵わない代物だったが、見る間に出来上がっていく無数の家を、遠くから目を細めて眺める建築家たちの言うことには、仏どころか人ですらないああいう者どもが建てるのでは、建築物にとって一番大事な「しん」を入れる工程が抜けているから、あそこには誰も棲めないだろうということであった。

 彫り出した木の中に魂を込めることをこそ生業としていた仏師たちがそういうものを遮二無二生み出そうとしているのは、何とも全く皮肉なことだと、建築家たちはため息をついた。…

 やがて、無数の「木像建築」は出来上がったが、案の定誰も入居を申し出る者はなく、怪物を封じたかの迷宮ラビュリントスの如くに鎮座するその建物ならざる建物の闇の中へと、まず仕事を終え果てた顔無しの木童子群が列なして入ってゆき、その次には天を仰ぎ顔を覆った仏師たちが、念仏を唱えながらぞろぞろと入城して、永久に人々の前からその姿を消した。

 後には、無明の沈黙をのみ内包した、木製の巨大建築のみが遺された。

 今ではもう、その場所に近寄る者は誰もない。

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木像建築 安良巻祐介 @aramaki88

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