03
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起承転結。
序破急。
何となく、小説を書いたことがなくても。国語の教科書や便覧で見たり聞いたりしたことのある言葉。物事(物語)には、順序があって。それを意識するとしないのでは、相手の飲み込みやすさがまるで違う。
また、自分で整理する際にも困る……らしい。
良くわからないけど。
てっきり要先輩が小説の書き方を教えてくれると思ったけれど、そんな気配は微塵もなかった。要先輩は読み専で、部費で買った小説をひたすら読めるから――という理由で所属しているそうだ。
実働小説書きは、殆ど部長だけみたいなものだった。
「えっと、部長」
「部長って固いからやめて」
「じゃあ先輩」
「よろしい」
先輩は、まず私にどうやって大学まで来たのかを訊ねてきた。
「えっと……電車を使って来ました」
面接かと思った。
「コンビニには寄った?」
「寄ってません」
「家には余裕を持って出た?」
「……ちょっと遅れそうになりました」
「何で?」
事情聴取だ、これ。と思った。
胸をガン見されてるのがわかる。慣れてるから何とも思わないけど、真剣な眼差しだった。
A4の紙には私の証言が箇条書きされてく。
それから、細かく質問が続き、A4の紙が半分埋まる所で「さて、始めようか」と先輩は言った。
「物語は、一から作るものじゃないからさ。ゼロを一に変える作家――とか、格好付けて言う人いるけど、あれは嘘だから。一を拾い集めて百ポイント溜めていく。それが、作家。それをわかってない人があれこれ教本読んでも無駄だから。まずは、自分の身の回りに起こっていることを把握して、組み立てる所から始めようか」
箇条書きを見つめるも、特に変わったことは見られない。物語性はなく唯々普遍だ。
・大学までは電車を使った。
・コンビニには寄らなかった。
・予定していた出発時刻より少し遅れた。
・それは、洗濯物が乾いていなくて少し服装を迷ったから。
・電車の中で、浴衣を着ている人を何名か見掛けた。
・大学に着いてからは、同じ高校の友達。それから、同じ中学校の友達とも再会した。何人かは髪を染めていたりして、一見してわからなかった。
・駅までの道中。全部青信号だった。
・昼食は学食を利用した。
・普段は弁当。
・弁当は当番制自分、母、妹のローテーション。
・母は時給が高いという理由で少し遠くのスーパーで働いている。
「さてと、この中で一番事件性があるのはどれだろうね」
「事件性……」
「簡単な話だよ。そんな難しく考えなくて良い。バラエティ番組とかでもあるでしょう? サイコロ振ってその話題の話をするってやつ。この中で自分が聞きたいならどういう話か。それを考えてみようか」
事件性、私にとって……。そう考えるとやっぱり弁当だ。
「弁当、です」
「何で?」
「父が料理人でして、家族揃って料理を鍛えられてるんです」
「ほうほう」
「もっと言ってしまえば、父のせいで舌が肥えてしまって。外食はあんまり好きじゃないんですよ」
「成る程成る程。結構手の込んだ料理ばかりなのかな?」
「お休みの日はそういうものも多いですけど。美味しくて手間の掛からない――それでいて保存の利くものってのを何品かストックしてあるんです。併用しながら作れば、思ったよりも負担は少ないです」
「今度教えて貰おうかな。……突然だけど、五分くれない?」
と、言って紫先輩は無言でノートパソコン開き、ひたすら打鍵し続けた。時折、指は止まるけれど、極めて軽快に見えた。
☆彡
学食が美味しくない、という話を友達にした所。私は、大顰蹙を買う羽目になった。
思ったことを思ったままに述べただけなのに。
帰宅して、その事を家族に伝えると父は激怒した。
「根性をたたき直してやる」と。
母はそれをなだめる。料理人の血が騒ぐのはわかるけど、穏便にしましょう。
妹も協力すると言ってくれた。
こうして、私達家族は、友達全員分の弁当を作ることになった。
翌日の昼休み、少しばかり人集りが出来ていた。
高校の頃の友達が、私の弁当目当てにやってきていたのだ。
「いやぁ姫城の弁当は美味しいよなぁ」
良く通る声だったので、次第に人が集まってくる。
いつの間にか、自分の分の弁当はなくなっていて、仕方なく学食で昼を済ませることにした。
けれど、不思議と昨日より美味しく感じた。
昨日と全くメニューの筈なのに。
☆彡
五分が経って、文章を見せられた。
「どう?」
「大袈裟ですよ」
「でも、嘘ではないでしょう?」
大筋は間違っていない。大学で弁当というのは珍しいらしく。目立ってしまった。私の家が味に厳しいことを何人かは知っている訳で――交換という形で、自分の弁当がなくなっていくというのもまた事実だ。
「後輩ちゃん。キミにとっての日常はね。他人にとっては物語なんだよ?」
まるで魔法に掛けられたような気分になった。
先輩と私~小説の書き方~ 紫陽花さくら @Hydrange_ajisai
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