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 佐倉紫。二年生なのに文芸部の部長を務めている。

 文芸部は、私の予想した通り緩いサークルらしい。所属人数は二十名。しかしながら、実際に部室に来て活動を行うのは五人未満。

「だってさぁ、小説って一人で書けるんだよ。そして、小説書きってプライド高いかメンタル弱いのばっかりでね。自分の作品にとやかく言われるのを嫌ってる。忌避してる連中が多いってわけ。そもそも、大学に入って一から小説を書こうと思う奇人狂人変人なんか普通いないしね」

 部長は、やる気のない文芸部の中で、やる気のある人らしい。

 ただし、他人に何かを強制しようと思う程。やる気のない人に、やる気を出させる程やる気のある人ではないそうだ。

 部を存続させるためには、最低一年に一度、成果物である機関誌を発行すること。それは、別に一人でも出来てしまうそうだ。

「あなたは奇人かな。少なくても暇人だろうけど」

 少女の様に幼く笑いながら、無邪気ながらも――何故だか苦手だと思った。

 この人は、部室に入って会話を始めてから一度も私と目を合わせていない。会話は完璧に成立させているけれど――どころか、私の言葉から引用して返してきている――けど、教本に目を通していて、結局のところ、私に関心を抱いていないように見受けられた。

「文芸部について、教えて貰えませんか?」と訊ねるも。

「え、面倒」と瞬時に返答される。

 途切れなくずっと喋っていた紫部長が、静かになった。

「……おっぱい、揉ませてくれるなら説明しないことも……ないよ」

「えっと、その……」

「いいじゃん、減るものじゃないし」

「あの……その……えっと……」

 素早く間合いを詰められ、両手を掴まれる。

 小柄なのに、結構腕力がある。

「はぁはぁ……大丈夫。優しくするから」

「その台詞大体『もう我慢の限界だ!』ってなるやつですよね!」

「ほぅ、詳しいじゃん」

 押し倒され、もう少しで胸に手が触れるところで、救いの神か悪魔が部室に君臨した。

 何と形容して良いものか。

 ドアが開くと、巨人がいた。


「ゆかり、何やってんの?」


 身長が二メートル程ある、男子学生。手には金属バットを持っていた。

 ……。

 しばしの沈黙。

 それから気の抜けた声が響く。

「……(あ~)」

「あ~みたいな顔やめろ。で、何やってんの?」

「た、助けて下さい!」

 全てを察した様に、彼は溜息をついた。

「やれやれ、お前も懲りないね」

「いや、この子さ。めっさ可愛いじゃん。そして胸大きいじゃん? 揉むじゃん?」

「いやその理屈はおかしい。男としてわかるけど、おかしい」

 ひょいと、紫部長を持ち上げる。じたばたとするが、びくともしない。

「……許してやってくれ。この通り馬鹿なんだ。小説を書く以外のスペックを全て犠牲にした様な馬鹿なんだ」

「おいおい副部長。部長に向かってなんだその言い草は!」

「俺は副部長をやってる要だ」

「無視すんな!」

「姫城(ひめじょう)です」

「野球部と兼部しててな。さっき、終わったから部室に来たんだ」

「そうなんですか」

「ところで、学部は?」

「経済学部です」

「ふーん。なら、講義のことえーっと。地雷科目とか。ある程度教えられる。ちなみにこの馬鹿も経済学部だが、当てにならない」

「失敬な、単位はあまり落としたことないぞ」

「この馬鹿を見習うと、如何に講義をさぼり。教授に気に入られ――と言うダメな人間になるから駄目だ」

「なるほど……」

「まぁ、こんな馬鹿でも小説に関しては馬鹿にならないんだが」

「要、さっきから馬鹿馬鹿言いすぎじゃない? 小説だったら、校正作業の時に意見する所だよ」

「あと、知りたいこととかは? 別に、部活のことでなくてもいいけど」

「だから、無視すんな!」

「じゃあ、一つだけ良いですか?」

 何故私がこんなことを思い至ったのか。わからない。

 やる気のないサークルで、適当に楽しく過ごせれば良いと思っていた。

 強いて言うのであれば、暇人と呼ばれるよりは変人の方がまだマシだと思ったのだろう。

「未経験者でも、小説って書けますか?」

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