父の人形

滝川創

父の人形

 私は父が横になっている脇で心拍数を表す機械の画面に引かれた一本の線を見つめていた。

 ついに、父は旅立ったのだ。


                 *


 私は、しばらく悲しみで一杯だった。

 悲しみの中、父から最後にもらった箱の事を思いだした。それは、父が死ぬ一週間前ぐらいに「大切にしてね」と言って手渡されたものだ。

 箱の中身は人形だった。

 父が人形を持っていたなんて、渡されるまで知らなかった。

 最後まで、何の人形でどこで手に入れたかなどを聞くことは出来なかった。

 外国の人形のようだが、どこの国のものか判断できなかった。

 私は、箱を開けてもう一度人形をよく見てみた。人形は全部で五体いて、剣を持った兵隊、ドレスを着た女性、スーツの男性、筋肉質の男性、ピエロとバラエティ豊かだった。

 改めてみると、人形は父から受け取った時と雰囲気が変わっている気がした。

 全て、動き出しそうなぐらい人間らしさがある気がする。それに、妙なリアルさがにじみ出ていた。

 不気味に感じたが、父からもらったものなので捨てるわけにも行かなく、窓際に飾った。



 一年が経ち、私は何とか悲しみの底から抜け出しつつあった。

 その頃、私の家では奇妙なことが起きるようになっていた。仕事から帰ってくると、人形の位置が変わっているのだ。

 私は怖くてしょうがなかった。

 私は、それが起き始めてすぐに霊媒師を探して人形を見てもらった。

 だが、霊媒師は「これらの人形には、霊が憑いていたりということはありません。むしろ、近い人からの愛が溢れ出ているのを感じます」と言った。

 私は、怖かったがしょうがなく部屋に飾っておいた。

 それから、毎日家に帰ると必ず人形があちこちに散らばっていた。

 さらに、玄関に大きなスーツケースが用意されているようになった。中には、私の貴重品が詰められていた。

 私は中身を元あった場所に戻しながら考えた。

 やはり、人形達は呪われているのではないか、霊媒師は偽物だったのではないか。

 しかし、なぜ貴重品を詰めておくのだろうか。ある日、突然貴重品が全て消えてしまうようなことがあったらどうしよう。

 そこで私は、ある話を思い出した。

 不審者が、部屋に侵入してベッドの下などに隠れていたという事件があるという話だ。

 私は、恐る恐るベッドの下を覗いてみたが、何もなかった。私はひとまず安心した。


 私は本当に人形が自ら動いているのかを確かめるために、監視カメラを買ってきて部屋にカメラを仕掛けた。

 ある日、仕事から帰ると、いつものように玄関にスーツケースが置いてあり、横に兵士の人形が落ちていた。

 私は、そのままにしてカメラに向かった。そして、今日一日の録画されたビデオを見てみた。

 私が部屋を出て行ってしばらくすると、人形が動き出した。

 ありえないことだが、やはり、自ら動いていた。

 人形達は家中の貴重品をひたすらスーツケースに詰め込んでいた。

 そして、最後に皆で玄関まで押していくのだった。

 何とも不気味な映像だった。

 その時、後ろでガラスが割れる音がした。

 振り返ると、台所に置いてあったコップが落ちて割れていた。

 そして、元々おいてあった所にはスーツ姿の人形が立っていた。

 私には、自分の心臓がバクバク鳴っているのが聞こえた。

 すると、左右からドレスを着た女性の人形と筋肉質の人形が近寄ってきた。

 私は後ずさりをした。足に何かが当たった。そこには、折れてインクが漏れている赤色のペンが落ちていた。

 私は玄関に逃げた。

 玄関に置かれたスーツケースの上にはさっきまでなかったメモが置かれていた。

 そこには、「これを持って出て」と赤で書かれていた。

 不意に服を下から引っ張られる感覚がした。ズボンを見ると、ピエロの人形と兵士の人形が登ってきていた。兵士の剣はなぜか赤くなっていた。

 私は、二体の人形を全力で振りはらった。

 そして、スーツケースを掴むとすぐに玄関から逃げた。

 しばらく走って、後ろを振り返る。追われてはいない様子だった。

 しょうがないので、その日は近くのホテルに泊まることにした必要なものは持ってきたスーツケースに全て入っていたので問題はなかった。

 それどころか、もし家が人形に乗っ取られて使えなくなっても、やり直せそうなぐらい貴重なものはすべて揃っていた。

 私が一番大切にしている家族アルバムも入っていたので、気を紛らわすためにベッドに寝転びながらそれを眺めていた。




 いつの間にか眠っていたらしい。気がつくと朝になっていて、心地良い陽差しが顔を照らした。

 私は、ホテルから出た。

 家の状況を見るために、私は家に向かった。


 何だか、家の周りの道がいつもと比べて騒がしかった。

 それに、警察や消防隊が走り回っていた。

 私は家の前に着いて言葉を失った。




 そこには、ヘリコプターの残骸に押しつぶされてぐちゃぐちゃになった我が家があった。

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父の人形 滝川創 @rooman

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