第2話 -世界の変動と闇-
僕は教えられることを教えた。ラマーズはこの世界の歴史や語学を、僕は数式と科学を教え合った。歴史も学者並の知識を手に入れ、あとは戦力というところだ。時刻は午後8時過ぎていた。この世界にもなかなか慣れてきた。町の役人とも話をつけ、学問館の2階にある空き室に一時的に住むことになった。
「そこに収納スペースがあるから、自由に使っていいよ?」
彼はそう言った。何となくだが、この部屋は彼が学生の頃使っていた部屋だと思う。真新しいというわけではなく、極端に古いというわけでもない。ようするに、5年ほど前から使われなくなったのだと思う。そして彼はひとつの紙袋を僕に渡した。その中にはビスケットや"あっちの世界のフランスパン"の小さいバージョンのようなものが入っていた。夜食ということだろうか。まあ微妙な時間にお昼を食べてしまったので、無理もないでしょう。
「ありがとうございます!」
僕はこの世界では礼儀正しいらしい。
10時を過ぎた。町の明かりも消え始め、ラマーズも眠りに着こうとした。僕も彼に寝ることを伝え、眠りについた。
目覚めたら、僕は見慣れた部屋にいた。見慣れた時計は1時を指し、見慣れた体格には馴染みがあった。夢だったのかな。早く気づけばよかった。あれは夢だったのだから。それにしても、長くてリアルな夢だったなぁ。僕はそのまま眠りに着いた。
次目覚めたら、やっぱり見慣れた部屋だった。あれは少し長い夢だったのだ。ひどい勉強疲れが夢を生んだのだろう。僕はそのことをただの夢として記憶の片隅に置いておいた。
今日の日課が終わった。家に帰ってから受験勉強が始まった。もう"数日で"というまで来ている。塾もかなり力を入れている。僕が苦手としている証明の問題も、今まで以上に懇切丁寧にかつ、覚えるまで暗記させられた。そして塾が終わり、バタンとベットに寝転ぶ。疲れのあまり、最近は寝る瞬間さえも記憶せず寝てしまう。
突然目覚めた。眠気はあるのに、眠れない、しかも時計は0時を示す。忘れるはずもない同じ状況に、当然焦りだす僕。0時4分、僕は今度こそ起きていようと、手で目を開いた。0時5分になった。手がしびれだす感覚に襲われ、声も出ない。そして視界がぼんやりし、気を失った。
小鳥のさえずりが聞こえる。いつしかも見たことのある部屋の時計は8時を指していた。部屋を出ると、ラマーズは朝食の支度をしていた。
「おはよ~...」
ラマーズは眠そうにこう言った。この時間に起きるのはまれなのだろうか。きっと僕が居候しているから気を聞かせてくれたのだろう。申し訳ない。机の上にはいかにも朝食らしい食品が揃っていた。おいしそうで飛びつきたいぐらいだった。昨日の話では、朝は目を覚ますために、ピリ辛の塩を使ったメニューを一品加えるのだとか。ちなみに食卓の中には、昨日僕が教えたみそ汁があった。この世界では味の濃いものが好まれるようで、味噌は良く出回るらしい。この世界は食品に関してはどの世界にも負けないだろう。
「さあ、顔を洗ってきたほうが良いんじゃない?」
ふと頭を撫でると、寝ぐせが立っていた。はずかしい…
さあやっと朝ごはんか、と言わんばかり腹ペコな気持ちに襲われている。そして僕は思わず手を合わせた。するとラマーズが言う。
「なんで手なんか合わせているんだい?」
どうやらこの世界には「いただきます」の概念がないらしい。こういうところはさすが日本の文化なんだなぁと感じた。
「これはね、僕の住んでいたところのおまじないみたいなものさ。作ってくれた人や、食材に感謝することなんだよ。ありがとうって、そして"いただきます"って言うんだ。」
ラマーズはとても関心したらしく、「いやーニホン、すごい礼儀正しい」と連呼した。ここまで言われると食べ物にありつけなさそうなので、先に「いただきます」と言った。彼も僕に続いて「いただきます」と言った。とても気持ちがこもっていた。
僕は見慣れない野菜の中に、おもしろい野菜を見つけた。彼は「
「ところでラマーズ、剣術の本ってある?今日からお城の方で剣の練習が始まるんだよ。」
「剣術の本?あるっちゃあるけど、ほとんど使い慣れた人はいないよ?」
「それは何で?」
「剣術をマスターできるほど、魔力と耐久力を持った人が存在しないんだ。」
魔力は何となく分かるが、耐久力とは...。きっとRPGでいうHPとMPだなと勝手に想像した。僕はその本をラマーズから借りた。そして食後の片づけを手伝い、僕は10時まで部屋で剣術の勉強をしていた。剣術というのは、人の心であるそうだ。正義感や、これから魔物や悪党を倒す人々には高く値が付き、お金儲けや人を殺すために剣術を学ぶ者には低い値が付けられる。僕は今剣を持っていない為、ある程度の剣術と魔法、回避方法を学び、城へと向かった。
城に着くと、さっそくとばかりにグラディーが待ち構えていた。グラディーは高価そうな剣を僕に差し渡し、技能と強化についてを語り始めた。内容は要約すると、明確な目標や標的を思い浮かべないと戦術として実行しない、ということだった。そして、"かかし"を標的に"真っ二つ"と言われた。僕は、今朝学んだ剣術をやってみることにした。
-剣を縦に構え力を集中させる-
-左足を後ろに下げ、剣を30°斜めにさせる-
-右足で地面に蹴りを入れ、就くように標的を壊す-
僕はかかしを就き、木端微塵にした。それどころか一部の壁をも破壊してしまった。これにはグラディーも周辺で稽古をしていた兵も、王も驚いた。王と大臣はいそいで外稽古場に駆け付けた。
「何ごとだ!」と王は言う。グラディーは王にこう言う。
「王様、この方以外に勇者は考えられません。彼は、初級剣術をマスターした他、その初級剣術でかかしを一突きしただけにも関わらず、100m先のかかしまで消し炭にしました。」
ここで王が関心したのは、これが初級剣術だということ。
「何、初級剣術であれ程の規模を...」
王はこちらに近づいてきた。これは怒られるか処刑ものだと思い覚悟した。そうすると、王は僕の肩をポンポンと軽く叩きながら笑っていた。
「本物の勇者とは、これ程のものだったのか。いや参った。実は私はあまり信じていなかったのだ。君みたいに勇者を名乗るものはたくさんいた。だが、みんなアリほどの戦力じゃった。一つ、勝負しよう。私と君で竹を使った勝負だ。」
現世でいう竹刀を使った剣道といったところだろうか。そして僕は自分が本当にあれほどの力を持っていたのかを王で試した。しかし、王はどれほどの力を持っているか分からない為、王に素振りをお願いした。王の素振りは見事なほどの王族ぶりで、けっこう関心した。王も僕の素振りを見たいと言ってきたので、素振りをすることにした。
「せーのっ...」
こういった後、僕は剣先から赤い閃光のようなものが走ったことに気付いた。それも一瞬にして長く光った。今朝習ったものによると、殺傷能力が高い剣裁きには、残像が残るという。そしてその下、※のところには、上等な剣裁きの場合、小さく赤い閃光も残ることがある。と書いてあった。
「...」
王は沈黙を続けた。そして小声でこう言う。
「お昼にしよう(ボソッ...)」
僕は掛けてあった大きめの時計を見て、12時だということに気が付いた。
僕は、王族たちの食事を王と共に食している。こんなことあって良いのだろうか。それに、口に入れたら頬がとろけそうなまろやかさと、存在感を主張するコクに心を奪われた。
「そういえば、名前を聞いていなかったな。冒険者よ、名は何と言う?」
名前...。考えてなかった。現実ではありえないほどダサい名前(親にはアレだけど)だから、言ったら恥ずかしい。名前...名前...。そして僕が言ったのはネットでのニックネームだった。
「ユウと申します。」
この時初めて自分の名前を決めたので、
「そうか、ユウか。ところで、君は魔法や剣術といったところ、たった1日であれほど成長するとは思わなかったが、どこで練習したんだい?」
「自学です。ラマーズさんの学問館にあった本を借りて、しばらく勉強してからこちらに来ました。」
どうしても信じられない王、どこかにタネがあるのだと睨んでいたんだろう。
「あ、剣を触ったのはさっきが初めてです。」
城で働いていた女性が転んでお皿を割った。
「失礼しました...。」
「...で、何だい?剣が何とかって...
「いや、ですから、剣を触ったのがさっきn...」
王はわざとらしい咳を出した。
「ごおおおおおおおおっほぉぉぉぉんんんん...」
「さっ」
「ごっほごっほ」
この王聞く気がないなと思った僕は、王に提案した。
「この世界は確かに危機に侵されているようです、その脅威に立ち向かうのは僕でもなくこの国の国王であって、世界のTOPメンバーの一人である国王、あなたもなんですよ。ですから、本当に少しでも良いのです。サポートをしていただけませんか」
僕は、こう言った。
「ふむ、そうだな。実はそう言うと思って色々と準備をしていたんだ。」
僕は王様からひとつの巻物と、カードを渡された。
「それは国境をわたるときに必要なカードと、私たちが君の為にしたことが一覧で載っている巻物だ。詳細も載っているから帰って確認すると良い。それと、正直君がこんなにも早く自分を証明すると思わなかったから、ひとつ出来ていないものがあるが、あと3日で出来る。君なら分かると思うから考えて行動してくれ。」
王は、僕が勇者だと一応確信してくれた。
4時、僕は馬車に乗って町に戻っている。僕は勇者なのか。国の王や周りの人々がそう言うならそういう事なんだろう。そして僕は学問館に戻って成果を報告した。
「ラマーズさん、僕は一応国王に認められましたよ!」
僕は誇らしくそう告げた。するとラマーズは悲しげに答えた。
「やったね、じゃあ今日はお祝いに特別おいしいものを作るよ。」
いつもよりトーンが低かったのは確かだった。僕は部屋に行き、王からもらった巻物を確認した。
・フタフェン地方への架け橋を再建築
・フタフェン地方への在住権・連絡
・フタフェンタウンの家 購入(3丁目-4)
・フタフェンタウンの家へ 装備品一式の輸送
・10000FG(3年分の滞在費)
・証明カード
多分家の購入とかそこらへんがおいついていないのだろう。僕は明日、ラマーズに別れを告げることにした。僕は夕食までとにかく学習し続けた。僕は夢だと思っているが、もしも現実だとしたら大変なことになる、そう思ったからである。
7時になった。夕食だろう。僕は良いにおいで誘われ、下の階へ急いだ。ラマーズはちょうど鍋を机の上に置いた。
「ちょうどできたところだよ。」
においはシチューとカレーの間だろうか、曖昧な感じだが、とにかくおいしそうだった。僕は二人と一緒に「いただきます」と言った。僕は口にそのとろけるスープを口に運んだ。触感はやさしく、ホクホクとしたジャガイモは体中に温かさを届けた。そしてそのスープは肉汁を使った贅沢かつクリーミーな味わいで、胃袋を感動で包み込んだ。そして厚切りにしたやわらかいヒレ肉は、スープの味が染み込みとても美味。要するに、今まで以上にハイレベルな料理をしていたということだ。とても豪華で贅沢だった。
「明日は冒険の準備として、防具とかを揃えに行こう。」
ラマーズはそう言った。
「そうだね、僕に合う装備があるといいなぁ」
そんな会話から始まる食事だが、いつもより口数が少なく思えた。そして僕らは食事を終え、もうまもなく深夜という時間帯まで起きていた。ラマーズは寝てしまったのだろうか。僕は部屋を出て、下の階に降りようとした。その時、ベランダの方から冷たい冷気を感じた。僕はベランダに向かった。そこには彼が居た。
「・・・・・。」
ラマーズは、星で埋め尽くされた夜空を見つめていた。
「とうとう行ってしまうんだね。」
ラマーズはそう口ずさんだ。
「なんで分かるの?」
「分かるさ、君は本物の勇者で、僕は学者。その両者にだって欠点だったり何か抜けているところがあるんだ。僕は君が笑みを浮かべながら帰ってきたとき、"やり遂げたんだ"って思った。でも反面、心の中では"もう君とは会えないのか"って思った。所詮僕はただの学者、勇者である君とは縁があってはいけないのだ。」
彼なりに思っていることが、初めて言葉として聞けた。いわゆる本音だ。
「世界は変わり続けている。君みたいに勇者が現れれば、その値を戻すために悪魔を召喚させ、いままで通りの値に戻る。変動はたくさんあっても、必ず均一に戻るんだ。」
「ごめん、自分でも何を言ってるかわからないや。」
彼は初めて僕の前で涙を流した。僕は彼を泣かせてしまった。
「ラマーズさん、どうして泣くの?」
「ぼくは、君といちゃいけない存在だったんだ。僕は、君に出会えてからとても楽しい日々を送れたさ。だけど、そんな日々ももう終わって、いつも通りの孤独で寂しい日々が続くんだ。僕は、僕は...。」
「...泣いちゃダメ、ラマーズさん。僕だって別れるのは悲しいし、突然勇者って言われてもピンとこなかったよ。でも、ラマーズさんに出会えて、いろいろなことを教えてくれて、日々が楽しくて、これも全部ラマーズさんのおかげなんだよ。ラマーズさんがいなかったら、僕も孤独のままこの世界をうろついてたよ。」
僕は心のままを伝えた。
「でも、もう君とは会えない。遠くに行ってしまうんでしょ?僕は君と楽しい日々を送れないだろう。」
「それは違うよ。ラマーズさん。」
ラマーズは涙をこらえ、僕と目を合わせた。
「ラマーズさんは、世界を変える力を持っている。ラマーズさん。僕が教えた数式、きっと役に立つ。ラマーズさんはそれで世界を変えられるんだ。世界の神秘を。僕はまた会いに来ます。その時、何で僕が勇者として召喚されたのか、世界のすべてを、教えて。」
僕は、目標を作った。それは魔王を倒すよりも、最も大切なこと。
彼は、夢を確実なものにする。それは、僕との約束。世界を知ること。
そして僕たちは、悲しみを惜しんでこう言った。
「 また会おう 」
そして僕らはベランダで思い出(主に食品について)語った。いつのまにか眠くなって、部屋に行って眠った。「おやすみ」と言って。
冒険の旋律 @Fhokka
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