冒険の旋律

@Fhokka

第1話 -アルクスフィア物語-

 いつからだろう。こんな不思議な夢を見るようになったのは、

 いつからだろう。これは単なる夢ではないと感じたのは、

 いつからだろう。あの世界を見るようになったのは、

 あの日から僕は、異世界の勇者をすることになった。


 2月になった。僕は昨日15歳になり、もうすぐ受験を控えていた。ある日、僕は0時に起きてしまった。トイレに行きたいわけでもなく、寝ようとしてもなぜか眠気がない。そして5分経ったときだろうか、意識が遠のいたと思ったら視界が真っ黒になった。何かに吸い寄せられる感覚に襲われた。死んだのかなって思った。

目覚めたら、草原に立ち尽くしていた。時間は5時ごろだろうか、ほんのり暗いがもう少しで日がでそう、っという時間だ。ふと我に返ると、自分の着ている服が気になった。装備というべきだろうか、麻布で作られた上着と茶色のマント、皮で作られたズボンを身に着けていた。そこで僕は本当に死後の世界なのか疑った。

視点を装備から前に戻すと、明かりの灯るごく大きな町が見えた。僕はそこを目指して歩いた。そして町に近づくと、自警団の2人が声をかけてきた。

「そこの君、お待ちなさい。見たところ冒険者のようだが、所属ギルドはどこだ?」

冒険者?ギルド?何だそれ?どうしよう、大変なことになってる気がする。僕は正直に答えた。

「僕はよく分からないんです。意識がなくなったと思ったら、あそこの草原で目が覚めたんです。」

とにかく必死になって答えたが、自警団の2人はあまり驚きもせず、僕を町の中心部まで案内してくれた。

「君はきっと冒険の疲れで記憶を失ってしまったんだね。今日と明日はこの宿でゆっくり休むと良い。」

その人はこう言ったけど、自分が15歳の受験生であるという記憶もあるし、よく分からない感覚に陥った。とりあえず、そろそろ日が昇るから少しの間部屋で休憩した。

 日は登った。8時ぐらいだろうか、僕は町の外側にある学問館というところに足を運んだ。そして僕はひとりの考古学者と出会った。考古学者曰く、僕は いにしえ より伝えられてきた伝説によって召喚された勇者的存在だとか。自分では信じられないが学者はこう言う。

「古代からの言い伝えでは、"世界が終末を迎えるとき、一人の勇者が救済を与える"ということなんだ。今まで君みたいな人はいなかった、君が"選ばれし者"なんだと私は考えている。」

考古学者っておもしろいこと言うんだなぁと思いつつ、僕は学者に教えられた場所に行くことにした。それはまた学問館とは真逆の位置に存在する洞穴ほらあなだった。僕は見たこともないはずなのに、何故か洞穴をみたことがあるような気がした。洞穴の中に入っていくと、小さな魔法陣があった。なんだこれ?と思い、魔法陣の中心に乗ってみた。すると魔法陣は輝きはじめ、左右に回転を始めた。とっさに腕で顔を隠したが、視界は真っ白に包まれた。

また目が覚めると、魔法陣は消えていた。それと共に、不思議なほど力があふれ出てくる。そして、こののことも、これから起こるのことも全てを記憶した。心の中で「魔法skill<Ικανότητα>」と詠唱した。すると自分のHPなどが分かるようになった。

 とりあえず、学問館に行き、さっきの学者と喋った。

「それが本当だとしたら、君は勇者だ。選ばれたものなのだ。それに、君の話からすると、もうすぐこの世界に惨劇が起こるんだね?」

ありのままの光景を伝えた。この学者はこんな突拍子もない中学生の話を聞いてくれるだろうか。ちなみに余談だが、魔法skillで確認した年齢は17歳であった。

「なんということだ。君、今すぐ国王のもとへ案内しよう。実は、王と我々学者は、賢者様の教えのもとこのような惨劇が起きると予測していた。このことは国民も知らないことなのだ。君は本物だ。王のもとへ行き、我々を助けてほしい…。」

この時僕は、初めて大人の真剣な姿を目の前で見た。中学生に深くお辞儀をするという光景を今までに見たことがなかった。そして、この国の自警団が何故簡単にもこの町へ通したのか分かった。あれは本当に記憶喪失だと思ってたからだろうか。もしかしたら、国民も何となくわかっているのではないだろうか。彼と一緒にそんな感じなことをしゃべっていると、ついに王族(貴族,富裕層)のいる城下町に着いた。


 時間は昼頃だろうか。城下町に着いた僕は、彼に手を引かれ簡単に城の中に入れてしまった。現世で言うホワイトハウス並のセキュリティがここでは簡単に潜り抜けられてしまうという。

「おおラマーズよ、良く来なさった。こちらへ」

大臣らしき人が彼を引っ張っていった。そういえば学者の名前を聞いていなかった。僕も一緒についていった。そして、玉座のある広間にやってきた。そこにはまさしく王と呼べる人がいた。現世では見たことのないぐらいの装飾が服に施されていた。

「ラマーズが冒険者を連れてくるということは、そなたが例の者かな?」

王は言った。そして僕は左の個室から現れる人間の存在に気付いた。そして現れたのは"おじいさん"ぐらいの人だった。ただ異様なほどの存在感がした。そのおじいさんが目の前に来ると、こう言った。

「この方で間違いありません。彼が例の勇者殿であります。」

広間がざわつき始めた。王も大きく関心していた。


旅より来る者、秘伝の地より力与えられし。

その者 王家より伝えられし笛を操り、いにしえの伝承を読む。

彼すなわち 真の勇者と見たる。


王が読んだのは、学者の言っていた"勇者を示す言葉"だという。

「その者、魔王という存在を信じるかい?」

まるでRPGのような質問を聞かされた。魔王とは何だろう、たしかに現世では"悪魔祓い"という儀式をテレビで見たことがある。

「…いると思います。私のいたところでは"悪魔祓い"という儀式がありまして、神が宿った聖なる神器によって悪魔を祓っていました。」

そう言うと賢者殿おじいさんは一冊の分厚い本を持ってきた。どうやら『Holy Bible(聖書)』と書いてあるようだ。そうすると体の中が熱くなる感じがあり、心が何かを伝えている感じがした。何となく、"いにしえの伝承"というのが聖書であることを悟った。小声で賢者殿がこう言った。

「お主には、"聖なる守護神による結界"と"悪なる魔物の呪い"の二つが存在する。」

賢者はそう言い残し、あとは自分で考えろと言わんばかりのいかつい目線で個室に戻っていった。

「勇者殿が来れば、もう安心だろう。」

そう王が言った。

「王様、私は自分でも勇者かどうか分からないのです。特別強いわけでもなさそうですし、その魔王とやらに勝てるとは限りません。」

僕ははっきりこう答えた。本当のことなのだ。いきなりこの世界に来て魔王をどうこうと言われても、何もできるわけがないのだから。

「君は、自分に自信を持ってよいのだ。我だって、実力を見ない限り君が本物で誰が偽物なんて分からないのだ。1週間の間、君に学習係としてラマーズをつける。そして剣術や体術は我が軍の指揮官であるグラディーをつける。1週間後、君の成長ぶりを確かめよう。」

そう言って王は大臣とひそひそを喋り、大臣が兵を呼び、その兵がとても強そうな人が来た。その人は王の前に来ると、カーテシー*をした。会話を終え、その人がこちらに来た。

「私がグラディーだ、1週間よろしく頼む。」

喉をフルに使った低音の響く声で、そう言った。少し恐く思えたが、各兵の面倒をよく見て、作戦をよく考える人だという。

 一通り面会や会話を終えた僕らは、学者ラマーズと共に町に戻るのであった。その帰り際、彼はこう言った。

「ぼくが学習係って、何か話しずらいなぁ…」

現世でも有名人と喋ったりとなると少し緊張したりするが、そんな感じなのかなぁと思って町に着いた。特に僕は気にならなかったが、彼は少ししか目を合わせようとしない。なんと表現すればよいだろうか。


 この町に時計があることをしったのは、午後4時のこと。学問館に着いて、机に向かったがあったのは書類ではなくささやかながらの食事だった。彼は言う。

「僕はこういうものしか作れないんだ。きっと君、この世界に来てから食事をしていないだろう?」

実はお腹が空いていた。きっと腹の音も彼に聞こえていたのだろう。机の上にはパンとスープ、西洋風のエビチリのようなものがあった。おいしそうなにおいが漂っている。

「いただいて良いんですか?」

「いいんだよ、学習係だからね。この世界の食べ物を知ってもらいたいんだ。まぁ何なら君のいた世界のことも知りたいけどね。」

この世界とあの世界のことを語りながら僕は食事をした。あの世界とは違って、しっかりと味が付き、濃厚でまろやかな赤ソースと、程よい辛みのするチリソースペーストが効いたマイルドソースが絶品だった。一方彼は、現世の和食に興味を持ったらしい。"透明なスープなのに味がついている"というところに追いつけない様子だった。とにかく料理の話題は絶えなく、親近感を持てた気がした。

 食事が終わり、勉強の時間となった。彼は一般常識に関する問題集を持ってきたが、現世と同じような内容だったので満点を取れた。そういえば、この世界の言葉は日本語や英語と異なっていた。でもなぜか理解できるのは、神のご加護のおかげだろうか?そして賢者殿が持っていたあの本、あれは英語だったなぁと考えながら、いよいよこの世界の歴史の勉強が始まった。どうやらこの世界はアルクスフィアと言い、5つの大陸で構成されているという。他にも歴史上の人物や建造物等の名前を学んだ。現実の世界ではありえないほどわかりやすく、これが現世だったらぜったい受験受かってるぅとか思いながら出来すぎた自分に浮かれていた。

「意外にできるんだね?じゃあ難しいけど、数式というものをやろうか。」

「数式?」

「覚えれば簡単な話だけど、初級は足し算,引き算、中級は掛け算,割り算、上級は分数,小数だよ。」

僕は真顔になった。思考が著しくヘルプを出していた。現世では小学生レベルというか何と言うか、とにかく簡単すぎる気がした。そして出された問題は案の定簡単すぎた。僕が簡単にも答えるので、ラマーズもこれにはドン引きしていた。

「君はどこの秀才なんだ、じゃあ中級やってみようか?」

解いた。

「上級」

解いた。

「  」

解いた。

「んんんんんんんん?」

彼の思考も止まった。と思う。彼の言う上級は、科学者もやっと扱えるほどの計算らしい。僕はこの時初めて文明の差というのを感じた。

「じゃあこれは解けますか?」

出されたのは現世で言う方程式だった。中学1年生の頃にマスターした方程式は入試に出るということで勉強してきた。

「解けますよ?」

そして目の前で解説を交えて回答した。これにはラマーズも興奮していた。

「やっぱり!この計算式、僕が学者になるきっかけだったんです!昔とある男性に貰ってから解読するためにはまっちゃって…」

このタイプは珍しくない。解けないものを解こうとする、そういう夢を持つものが世界を作っていくのだ。僕は中学生ながらも学者に同情した。申し訳なさも出た。簡単にラマーズの夢を僕が解いてしまって、さすがにかわいそうに思ってしまった。そこで僕は考えた。勇者というものは何かを。

 勇者というのは、どういう存在か。

 人を助けるため?魔物を倒すため?

 勇者はどういうべき存在なのか

 勇者はみんなの為に戦うのか?

 勇者は戦うものなのか、

様々な問いが出てきた。そして僕は考えた。

「ラマーズさん、僕の知識をすべて渡します。だから、あなたがこの世界の数式や謎をすべて解いてください。きっとあなたならこの世界の謎を解けるはずです。」

決め台詞っぽくなってしまったが、ようするに彼に公式などの知識を教えるということだ。そうすればきっと彼の夢はまだまだ続くだろう。


この時の出来事が、"アルクスフィア文明を地球よりもはるかな知識世界"にすることを、両者考えもしなかった。



カーテシー* ・・・ 片足のみ跪き、頭を下げる行為。身分が上の人に対し行う行動のこと。













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