ホトケツツキ

安良巻祐介

 

 法衣を纏った男が、路上に倒れて、その上に一羽の鳥が止まっている。

 男の衣は色褪せ、垢が染み、また擦り切れているため非常に薄く、痩せ衰えて骨の出た体のかたちを、裸でいるよりいっそう浮き立たせている。

 罅のような陰影のついた、その肉体の山脈の上に、飛禽は短い肢の爪を食いこませ、山より大きな怪物じみて黒い両翼を広げたまま、男の片目を啄んでいた。

 眠るように安らかな男の顔は、啄まれている片目の部分だけ破れて皮が引っ張られ、ちょっと苦笑しているような表情である。

 ぽっかりと空いた眼窩を覗きこめば、真っ黒い底の方から風の音でもさせそうなくらい、奇妙な奥行きを感じさせた。

 いっぽう鳥の、欠け過ぎた月にも似た細長い嘴は、啄むばかりでは飽き足らず、男の顔の肉を少しずつ剥ぎ取り、皮の下の筋や、さらにその下の骨などをも、次々と露わにして行くつもりのようである。

 梵天時計が正午を告げ、往生警報が遠くで聞こえる中、鳥はゆっくりと仕事を続けた。

 人の姿のない道の上を、なま暖かい風が撫でる。

 男の顔は、すっかり綺麗な髑髏になった。

 ぷつり、と音を立てて、首元から外れたそれが、地面へ転がり落ちる。

 鳥はそのかぎ爪で以て、器用に髑髏の丸みを掴み上げると、首なし山脈となった体の上で、高らかに一声鳴いた。

 そして、飛び立った。

 黒い翼がうす暈けた空の向こうにゆっくりと遠ざかり、その下で、かたかたと五月蠅い髑髏の哂い声が、取り残された下界へ向かって響き続けた。

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ホトケツツキ 安良巻祐介 @aramaki88

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