おまけ

「<2019クリスマスSS> サンタと先輩 」

 私、椎葉メリーは吸血鬼である。

 故に日光が苦手であり、天敵なのだ。


 ……だが、そんな地獄も冬になると少しは和らいでくる。

 カンカン照りが多い真夏日と比べて、冬は薄暗い日が多い。空も雪やらなにやらの天気の予兆のおかげか、こうして太陽が覆い隠されていることが多いのだ。


 好機。実に素晴らしい季節。

 こういう日が続いてほしいものである。私は常にそう思う。


「……椎葉さーん、寒いのは分かるけど、そんな隅っこでくつろがないで」


 現在、私は冬休み! 特にバイトの制限もない私はアルバイトをしています!

 

 ……吸血鬼という身分を隠す以上、あまり人前には出たくない。人前に出るバイトなんて手を出さない私が何故、こうして人だかりの多いクリスマスのバイトをしているのかをお教え致しましょう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 それは、とある先輩からの一言が始まりでした。


「ごめん。ちょっと困ってるんだけど、この日空いてる? 手伝ってほしい」


 冬休み前、学校で先輩が私にお願い事をしてきたのです。悪戯もせずに凄く困ったような表情で珍しく。


 これは明日、猛吹雪がやってきて日本が雪に埋もれてしまうのではないかと考えもしましたがココは敢えてツッコミをせずに聞くことにしたのです。


「この日、ちょっと知り合いのお手伝いをしないといけないんだけど、親戚が仕事に来れないって……助けてくれない?」


 こうして、先輩が頭を下げてお願いするだなんて何があったのでしょうか。

 しかし、私はつい受けてしまったのです。なんかこう、先輩が私に頭を下げるところを見ていると、凄く愉悦を感じたような気がして。


 というわけで、私は先輩からお仕事を引き受けました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「引き受けはしましたが……」


 雪を避ける為のパラソル……もとい、日光を避ける為のパラソルを手に。

 私は”とある赤い服と白いひげ”をつけた先輩の元へ向かう。







「聞いてませんよ!! "ミニスカサンタ"のコスプレとかァアアアア!!」


 へそ出し、太ももギリギリ。ノースリーブの攻撃的なサンタ服。

 真冬にするには拷問である以上に露出狂。私は同じくサンタ衣装の先輩に強く抗議を致しました。


 そう、私は騙されたのです。

 親戚からの仕事というのは嘘で、実際はバイト……それは、クリスマスケーキを売り出すサンタのバイトだったのです。


 だがよりにもよって、こんな衣装だなんて聞いてない!!

 


「……ぷっ」


 鼻で笑いやがった、コンチクショウ。

 似合ってないと嗤ってるのでしょう。小柄な体に色気がないとか言いたいのでしょう。もう瞳がそう語ってるのが分かってしまうんですよ、コノヤロウ。


「これで風邪をひいたら呪ってやりますからね……!」


 インフルエンザで年越しだなんて死んでも御免。私はそう告げる。


「大丈夫、馬鹿は風邪ひかないから」

「誰か馬鹿ダァアアアアアアアア!!」


 仕事の内容も聞かず、ほいほいこんなところにやってきた私が悪いのは一理ある。馬鹿と言われても反論できないけれど反論してしまうことをどうかお許し願いたかったのでした。


「……あと、何個売ればいいんでしょうか?」


「五つじゃないかな。ノルマは」


 ノルマを達成すれば、それなりの額のバイト代が出る。

 これだけ体を張っているのだ……何が何でも達成して見せると、私は奮起になってパラソル片手にケーキの売り出しに一役買うことに。










「ねぇ、あの子可愛くない?」

「本当だ。小っちゃくてかわいー」


 男の声が聞こえた。


「……あぁん!?」


 小さい、って聞こえたぞコラ。

 私は思わず、男たちを睨みつける。


「スマイルしろ、スマイル」


 後ろから注意が聞こえたが、私は知った事ではなかった。



「……ねぇ、写真撮ってもいいかな〜? あと、撫でていいかなぁ〜、ぐへへへへ」

「マスコットっぽいし、ちょっとくらいいんじゃない〜? ぐひひひひひ」


 可愛い、そういった男たちが少しずつ迫ってくる。



 片手には写真撮影の携帯電話。そして怪しく動く腕。



「ひいいいーーーっ!?!?」


 迫る魔の手。

 少々喧嘩売りすぎたかと私は焦る。









「……悪いけど」

 ふわっ、と、私の体が浮いた。


「そういう仕事じゃないから。買わないなら何処か行って」


 男達から引き離すように。

 気が付けば、私は先輩と体が引っ付いていました。



「おい、それがお客さんにする態度、」

「...何処か行け」


 ドスの利いた先輩の声で男達の鳥肌がヤバイ。


「はい、ごめんなさーい……失礼しまーす……」


 男たちは逃げるようにその場から去っていきました。




「……先輩?」









「お前、やっぱ今日は帰れ。すぐに着替えて、すぐに帰れ。クビ。」


「っはぁ~!?」


「売りも下手だし、いるだけ邪魔」


「言いやがりましたね!? 見てろ! 意地でもノルマ達成しますからねぇえ!?」





 とある日の冬の思い出。

 ほんの一瞬だけ……先輩の体温を感じた。

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吸血姫の私に狩人な彼 九羽原らむだ @touyakozirusi2

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