第15話
孤独とは安寧を意味していた。
体から緊張が抜けるのは、一人でいる時だけだった。だけど頭の中にこびりついた不安と恐怖がじくじくと頭の中の方で蠢くようだった。
それは一瞬の安眠さえ許してくれなくて、だから。
一瞬でもいい。これを取り除いて世界で息をしたかった。
だから、世界に誰もいなくなればいいと思っていた。
──"一人は嫌だ"って言ったんだよ。
だから、本当に驚いたのだ。
それでもなお、誰かを求めている事に。
腕の中にいるミコトを見ているだけで、そんな矛盾を飲み込めてしまえた事に驚いたのだ。
そして。
そして、それをきっと嬉しく思ったのだ。
だから、だカら、ダかラ。
(ミコト)
ぼんやりと感情の実感が薄れていく。一秒前までの喜びが理解できなくなっていく。
それを振り払うように、必死に彼女の名前と顔を思い浮かべる。
恐怖はもはや無い。彼女の為ならば。
痛みすら乗り越えた。
だから、だから、彼女の為に──。
──そう、そウ、そうだ。
「絶対に、世界を滅ぼさなイと」
◆
「ミコト」
ふらりとリオンはこちらを見た。足取りは確かで視線はまっすぐで、でもどこか彷徨っているようだから、ふらりと。やはりそう感じてしまう。
「待っていた。さあ、世界を滅ぼす準備は出来てるよ」
きっと彼は笑っている。顔はブリキで固まって見た事もない無表情だったけど、きっと。
怪物ではない。人形ではない。人間ではない。
リオン=アルファルドは使い捨ての爆弾である。
だらりと左腕が力なくぶら下がっていた。ミコトの視線に気付いてリオンは自分の腕を見て、こちらを見た。きっと笑いかけてくれたのだろう。
「負担が大きくてな。人間の体は無くなってしまった。このブリキの体でもギリギリだ。あまり親切な設計だとは思っていなかったが、世知辛いな。だけど大丈夫。耐えられる。耐えてみせるよ」
ミコトも笑った。ぎこちなくなってしまったけど、それでも。
「……綺麗な場所だね」
「ん?ああ、そうかもしれんな」
「リオンによく映えてると思う」
広い金と銀の稲穂の世界。穏やかで風もなく、心地よい静寂がある。とても綺麗な原風景。ここは、きっと一つの世界の果て。
「でもね、リオン。ここは、私達の世界の果てじゃない」
彼は困ったように小首を傾げた。絞り出すように感情を込めた言葉も、まるで届いてはいないようだ。打てば響いた彼はもういない。
「そう、か?」
「うん。ここはきっとリオンを作った誰かが、リオンを使って描こうとした世界の終わり」
彼は操り人形だ。金と銀の糸が彼に絡み付いて、その動きを促している。人形は操られている事にも気付かせてもらえない。
「怒っているのか?」
リオンは驚いた様だった。少し考える様な仕草をして、またこちらを向く。
「でも、喜んでくれると思ったんだ。ほら、見てくれ。この腕なら誰にも負けない。この足なら何処にでも行ける。鼻も目も背中も声も、きっと君の役に立てる」
「うん、リオン、頼りにしてる」
「ああ、良かっ──」
「でも、ダメだ」
ミコトは視線を上げる。もう視界は金と銀の光で満ちていた。リオンと抜け落ちたような黒を湛える右目は余りに浮いていて、それを全て当たり前のように備える無機質な表情がどうしても怖い。
「リオンは、リオンはね、本当は怖がりで痛がりなのに、見栄を張って尊大に振る舞う人だ。変な奴なんだ」
「……違う。もう怖いものなどないのだ、ミコト。君がいるからだ」
「違うよ。私がいる程度の事でどうにかなるほど、君の弱さは弱くない」
ふわりと、辺りに一陣の風が通り過ぎた。
異質の風だった。熱風にも、凍てつく空気にも感じられた。漂う金と銀の光も、世界の裂け目も、一瞬だけ動きを止める。
「これからきっといっぱい辛い事がある。多分、楽しくて嬉しくて、だから苦しい事も。きっと私はそういう道を選んだから。後悔はないよ。でもね、リオン。一人じゃ無理だよ」
ミコトがぽつりぽつりと話す度に、風は勢いと数を増した。
その風はミコトを中心に広がっている。それは、彼女の魔力で怒りで涙で叫びだ。
「苦しいのも痛いのも楽しいのも嬉しいのも、一緒に感じてくれなきゃ、やだよ」
彼女もまた禁忌と神秘の巣窟である。
その一端が零れ落ちているだけで辺り一帯が彼女の魔力で満たされ溺れていく。音もなく物理もない。ただ空気の中に熱い油が混ぜられたかのように、人も木々も虫も一様に息を詰まらせる。
ただ一人目の前で佇む男以外はだ。応えていないというよりは、認識していない。ただ一人世界から切り離されたかのように、孤独の王はミコトの訴えに気付けない。
「……そんなの、一人ぼっちと変わらないじゃないか……」
ミコトの手がさまようようにリオンに伸びてその腕を掴んだ。
「一緒にやろうって、言ったじゃないか……っ」
ミコトはリオンの腕を握りしめる。堅い鉄の感触を返すだけの腕に、ミコトは俯いた。
「ミコト。ミコト……?どうして泣くんだ。大丈夫だ、私は一人になんてしないから」
「いいんだ、私はもう奪われる側でいるのは止めたから……」
ぐし、と手の甲で強く涙を拭くと、目尻に水滴を残したまま、ミコトは不敵に笑った。
「──許すものか。思い知らせてやる」
瞬間、更に噴き出る力が膨れ上がった。更に更に更に、刻一刻と魔力が濃く深く広がっていく。世界中が怯えるように震えはじめる。吹き出て充満する魔力の量が人智を超えている。人の身に納まるようなものではない。
ガラスのコップが海を内包しているかのように、世界中の空が一枚の写真に納まっているかのように、手の平の中に宇宙があるかのように。
まるで、彼女の中に世界が内包されているかのように、溢れ出る魔力は止めどない。
「ミコト、何を……」
「もう一度言うよ。ここはね、私たちの世界の果てじゃない。こんな終わりは認めない。もっと痛快で、もっと悲しくて痛くて、それでも自分の手で作った世界の終わりじゃないと、意味が無いよ」
「ミコ──」
ミコトは聞き分けが悪いリオンの口を唇で塞いだ。触れるような口づけだった。すぐに離れたミコトは少しだけ頬が赤い。
「相手が生みの親だろうと、神だろうと。リオンは渡さないよ、……もう私のだもん」
瞬間、充満していた力が全て消え失せた。腕を握られたリオンだけが、それが全て自分に集約されたことを知った。
「……だから、ごめんね」
リオンの目に恐怖が宿る。いや違う。怯えているのはその奥にいる何かだ。
突如得体の知れない音が鳴り響いた。それは何かが千切れるような音で、悲鳴で、唸り声のようだ。
警戒している。先程までミコトに目もくれなかった世界を壊す機構が、ミコトを認識し、リオンに繋がる糸を手繰る。リオンはなされるがままミコトの手を弾こうとして──。
「──離すの?」
「いいや。離さないよ。死んでも、もう二度と」
リオンの口からすらりと出てきた言葉に。リオンがもう一方の腕で離そうとする腕を押さえつけた事に。ミコトも、リオン自身さえも驚いて目を丸くする。しかしミコトはすぐに安心したように微笑んで目を瞑る。
「──"だからどうか。この冒涜を許してほしい"」
そしてリオンは、ミコトの表情に見惚れるのに時間を費やして、その瞬間を迎えた。
「《天衣再臨・ミツムギ》」
びきりと腕に罅が走った。ビスケットの様な脆さで罅が体に首に頬に広がっていく。それはすぐに眼球にまで及んで、リオンの世界が割れる。
“世界の終わり”の断末魔が聞こえる。
ばらばらとブリキの翼が地面に散った。
◆
「──私が人を支配したり死体を操れるからじゃないんだ」
気ままに吹き抜けるそよ風にふわりと乗せるような、柔らかい声だった。
「ホントはね、その力の原因がいけなかったんだ。私の人形が心臓で血潮を送り、骨で支え肉で動き皮膚で覆い、やがて子を宿す、その造りが。──人を作れてしまう冒涜の力が、彼等を恐怖させて私を殺す事に決めさせた」
崩れ落ちるようにリオンは膝をついた。
いつの間にか世界の裂け目は忽然と消え去り、辺りには少し高度を上げた太陽と青空が見渡せる。ひょうと軽やかに風が吹いている。
ふらりとリオンの体が揺れる。倒れ込んできたそれをミコトは柔らかく受け止めた。
だからリオンが最初に思い出したのは、少しだけ汗をかいた手の平から伝わる、彼女の体温だった。
「ごめんね、勝手な事して」
喉が震えて言葉にならず、顔も上げられない。頬が流れ落ちる水滴の熱さを感じる。酷く、情けない顔をしている。嗚咽が漏れそうで、やはり声は出せない。
「リオン……?」
鮮明に思い出せる。ナイフが手の平から肩までを抉っていく感覚。骨を削り引っ掛かりながらも振り抜いた。ずぐりずぐりと脈が暴れている。
「ミコト……」
「……なに?」
「良い匂いがするな、君は」
「んにゃぁあ!」
ミコトは声以上に猫っぽく飛び退いて髪の毛を逆立たせた。
「好きな匂いだ」
楽しそうに歯を見せてリオンは笑った。あまりに爽やかに笑う物だから、真っ赤になって睨み付けてはいるものの、全くしょうがない奴だとミコトも怒気を収めるしかない。
「刺すような、景色だな」
「……独特な表現だね」
「それ以外に言葉が見つからない」
きっと知らず知らずに奪われていた感覚がたくさんあったのだろう。思考が吹き飛ばされるほどの鮮明さがリオンの中に流れ込んでいるのだろう。邪魔するのは無粋なようで、ミコトは黙ってリオンと同じ方向を眺めた。
「……嘘じゃない。本当なんだ」
「え?」
「君の為に命を賭けたいと思った。強くなって君の事を守りたいと思う。本当に嘘じゃない。そうしたいと思ったし、誇らしくも思った」
リオンは静かにこちらを向いた。悲し気に、笑っている。
「でも、怖くないなんて言うのは、嘘だ」
「……そっか」
「ミコト。もう一度抱きしめていいか?」
「……か、嗅がないなら」
「嗅ぐ。それはもうクンカクンカする」
「もう……」
いつものバカな冗談だと思った。だから怒ってやろうとリオンを睨んで、未だ悲しそうな笑みである事に気付いて。
「───っ」
そして、その顔に首筋から這い上がるように伸びるブリキを見つけた。
「頼むよ。一度で良いんだ」
「……ずるいよ」
「すまない」
二人は再びどちらともなく身を寄せた。
「……私はきっと最後には君を好きだった事も、理解できなくなってしまう。それが何より、怖いんだ」
ぱきり、ぱきりとブリキの鈍色がリオンを侵食していく。左腕を左足を、背中を首筋を。
じくじくと黴と埃に覆われていくようだ。
「ミコト」
リオンの言葉尻が震えた。指先が震えた。ブリキで斑な瞳が震えた。
「ミコト……」
「──え、それは大丈夫じゃない?」
縋るようなリオンの声を、ミコトは一笑した。ゆっくりと体を離して、鼻と鼻が触れ合うような距離で見つめあう。ひたりとミコトがリオンの頬に触れた。
「大丈夫だよ。私が覚えているもの。忘れられる訳ない。そう言ったでしょ?」
「っ……」
「大丈夫。もう、状況が変わったんだよリオン。前とは違うんだ」
「な、何が……」
「リオンはもう、一人ぼっちじゃないんだからさ」
得意気にミコトは言った。
どうしてか、ひどく驚いている自分がいた。
「ああ、そうか──」
そうか。当然そういう事になるのかと、納得はしたが、何だか初めて自覚したようで、おかしくなった。
「私はずっと貴方の隣にいるから、教えてあげる。それじゃ、駄目かな」
馬鹿な理屈だった。だけど、戻れる場所をミコトが守ってくれている。それだけで震えは止まっていた。
「……いや、安心した。なんだ、もう私は大丈夫じゃないか」
「そうなんですよ」
にひひ、とミコトは笑った。
視界の一部が鈍色の斑に変わる。鼻の奥から香りの気配が消えていく。地面はブリキの足の裏を固く押し返す。けれど不思議と、怖くなかった。
「君を見ていると、悩んでいたのが馬鹿らしくなる」
「褒めてるの、それ?」
「うむ。大絶賛だ」
「なんと」
打てば響く様に言葉が返って来て、くすぐり合うようにふざけ合う。
「あ」
「あ」
ぱきん、と一際大きな音がした。声が重なる。ミコトは見て気付いたのだろうが、リオンは体感だけで気付いた。
「止まった」
「止まったね」
「最期のつもりでクンカクンカしたんだがな」
「残念でした」
んべ、とミコトが舌を出す。
簡単な事だ。この体はミコトの力を押し返してブリキを侵食させようとしたけれど、ミコトの力もまた、押し返しているのだ。リオンの体の中で、きっとそれは心臓の様に息づいている。たまらなく、温かい。
「ミコト、愛している」
「ふふふ、でしょうね?」
「む」
「ふふん」
「……チョロいのが日本人の良い所なのに」
「恥ずかしがり屋って言ってくれる?」
こつんと額と額を合わせた。仄かにミコトの体温がこちらに流れてくる。
どうしても伝えたい言葉があった。思うより先にそれは口から飛び出た。
「ありがとう、ミコト」
「どういたしまして」
「助けてくれて、手を握ってくれて、共に過ごしてくれて。ありがとう」
「う、うん」
ミコトの照れた顔が好きだった。そのために言う訳ではないけれど、どうしても言葉に熱は籠る。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「え、ええ……?」
「健やかに育ってくれてありがとう」
「お、大げさすぎるよ」
「いや、本当に、本当に。生まれてきてくれて、健やかに育ってくれて。何より──」
華奢な体を強く抱きしめた。奇跡だと思わずにはいられなかった。こんな時代に、あんな苦境の中で、生まれてくれて、生き延びてくれて──、そして、何より。
「こんな広い世界で、私と出会ってくれて、ありがとう」
◆
押し切るようにすべて言い切った。すっきりとした面持ちで顔を上げると、もにょもにょとした表情のミコトと目が合った。それが可笑しくて思わず口元が緩む。
「ち、調子に乗っちゃうから、止めてってば……」
「良いよ。存分に乗ってくれたまえ」
「……え、えへへ」
照れ臭そうにはにかみながら、しかしミコトは体を離した。リオンも遅れて気付く。まだ終わっていない。いやミコトの顔に戻った緊張感を見るにむしろこれからなのか。
見逃してくれるはずもない。決着がつくこの時を悠然と待ち構えていたはずだ。
「──よくぞ打ち倒したァ。信じてたぜ。親友」
聞こえた声は耳元で。どしりと逆の肩に腕を回された。しぱしぱと吐かれた煙草の煙が目の前をちらつく。
ジトリとその横顔を見据えるが、嬉しそうに笑い返されて、一瞬鼻白んで、あまりにその顔が、本当に嬉しそうなものだから、リオンも呆れた様な笑いが零してしまう。
「ひひ」
唐突に、回された手に握られた銃が火を吹いた。
本来地面に突き刺さるはずの銃弾は、当り前の様に世界の間を通り抜けて、リオンの眼前に迫っている。
「あっはっは!どうなってんだそれ!」
その銃弾が無数の糸に絡め取られて空中に縫い付けられたのを見て、ワルドは笑みを深くして声を荒げる。
「離れろ」
当然繰った糸はそれだけではない。ワルドの首に腕に肩に足に絡み付いて引き絞る。しかし唐突に糸から感触が消えた。忽然とその姿は消えて──。
いや、一瞬だけ消えて、そのを糸を踏み付けにまた目の前に立っている。挑発するようにこちらの顔を覗き込んで口の端を曲げる。
「いやいや、本当にさ。世の中、どうなるかなんて判らないもんだ。奇跡だって起こる時には起こるよな。神の寵愛のたまものだ」
その手には鈍色の拳銃。声も視線も表情も興奮と撮影に濡れている。
「まあ、一日に二回もは起きない訳だが」
「では、奇跡ではなかったと証明しよう」
「ひっひ」
「まだ、言い返せてなかったな。丁度いい機会だ」
ワルドに声を掛ける。この男にまだ、反論をしていなかった。
「この広い世界で。ミコトと私はすれ違った」
「はあ……?」
「お前が笑ったこの運命で、私達はお前たちを越えるよ」
きょとん、として、数秒固まって、そして、ふつふつと込み上げてきた感情に、ワルドは凄惨なほどの笑みを浮かべた。
「お似合いだよ、お前ら」
そんな言葉を去り際に残してワルドは消えた。だがその濃密な気配は移動しただけ。その方向を振り向けばその隣に大きな威圧感を放つ人影がもう一つ。いや、彼女こそがそこに在ったのだろう。ワルドはあくまで追従する存在に過ぎない。
ミコトが微動だにせず彼女を見据えている。彼女もまた普通に歩いて来るのみだ。一瞬で移動する訳でも、幻を見せる訳でもない。
しかし、その脅威は肌が痺れる程に感じていた。
ナイフ一つで殺せる生物でしかない彼女が彼等を凌ぐ程の存在感を示しているのは一体どういう訳なのか。
「話し合いの余地はあるかね」
「ないない。あの顔は言葉より先に左フックから流れるような胴回し蹴りが飛んでくる顔だから」
「狙いは何だ?」
「ああ……。多分、私が君に固執したものだから、君の手足でも千切ってどこかに幽閉するつもりかな。そりゃあまあ漁夫の利狙うよね」
冗談のような、しかしおそらく冗談ではない言葉に、リオンはため息を吐く。
「本当に長い一日だ……」
「……ううん、リオン。ほら」
歩み寄る双影のずっと向こう。無邪気にミコトが指差す先。あつらえた様なタイミングで雲間から淡い朝陽が差した。
「もう夜は明けてる」
「……ああ、そうだな。そうだった」
ミコトは嬉しそうに笑うと、続いて奏に向き直りその笑みを挑戦的な物に変えた。
「とは言え、あれだね。私も奏が相手となると、やっぱり思う所あるし、少し感傷的になって暗くなりがちではある」
「ん?」
「という事で一つ、喧嘩を吹っかけようと思うが、どうかね。リオン」
「……それは、また私の口調を真似しているのか?」
にひ、とこちらに快活な笑顔を向けてから、ミコトは前を向く。
「奏ぇーーッ!」
声をはりあげる。それだけでふらつく体を楽しそうに動かして、ミコトはまた大きく息を吸い、淡く色づき始めた蒼穹に響き渡らせる。
「バーーーーーーーカっ!」
その声に、リオンとワルドは噴き出して、奏はびきりと額に青筋を立て、ミコトはほんのりと上気した顔で思い切り笑う。
「ストレートだな!スッキリしたかね!」
「したとも!」
「多分、滅茶苦茶怒ってるぞ!」
「スッキリしたからよし!」
威嚇するように奏から魔力が噴きこぼれて立ち昇っている。まるで奏を心臓とする巨人が立ち上がろうとしているようだ。
笑みを携えたまま、むせ返るような魔力の中を突き進む。不意にワルドの姿が消え、リオンがそれを追って消える。
そして残された2人は、片や冷たく怒りを携えて、片や挑戦的な笑みを浮かべたまま、引いてなるものかとガツンと額を付き合わせた。
かくして始まりは終わり。
終わりは始まった。
敵を潰し友を亡くし、悪を誅し正義を潰し、師を隣人を神を世界を殺す悪魔と魔王の物語。
きっと世界が終わっても。
──いつか、死が二人を分かつまで。
世界の果てまで二人きり ドドドド @mildman
★で称える
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