「また会いに来たよ」

泡沫 希生

何度でも約束するよ

 今日一日待っていたけれど、君が私を思い出すことはなかった。昨夜は私を思い浮かべてあんなに嬉しがってたのに。どうして残すのを忘れるかな……。

 寂しくて寂しくて仕方ない。でも、私にはどうしようもない。思い出すのを待つしかない。できるとしたら念を送ることだけ、思い出してって。


 君は一日中、仕事机に向かってうんうんと唸っていた。何度も何度も髪をかきあげては仕事の手が止まる。どうやら「私を忘れてしまっている」という事実には気づいているらしく、何か引っかかるものを感じてはいるようだ。

 頑張れ、思い出して。もう一度あなたに会いに行きたいから。


 そうやって、聞こえるわけがないとわかっていても私は何度も語りかけた。



 しかし願いもむなしく時は流れて、君が私を思い出さないまま夜になってしまった。

 暗くなった部屋のベッドの上で、君は静かに目を閉じた。どうやら思い出すのは諦めたらしい。そんなの困るよ。

 お願い、寝ないで。私を思い出して!

 私が最後にもう一度念じた時、


「あっ!!」


 通じたのだろうか、君はいきなり声をあげると体を起こした。も、もしかして……!





「――お、思い出したぞ。昨日寝る前に思い付いた小説のアイデア。うんうん、やっぱりこれは面白いぞっ」


 嬉しそうに君はつぶやいた。私も嬉しかった、思い出してくれたから。ようやく君にまた会えたから。


「よし、今日こそはメモに残しておこう。昨日はそのまま寝ちゃったからな」


 そうして君はスマホにメモをし始めた。今度こそ私もメモすることも忘れずにいてね。

 ……っていつも言ってるのに、君は私を思い浮かべては今日みたいに時々忘れてしまうから、本当に困ってしまう。


 私を君の中から引き出して、外に出してくれるのは君だけなんだよ。私が形になって他の人を楽しませることができるのも君のおかげなの。

 わかる? 読んでくれる誰かを楽しませることができる。それは君だけじゃない、私の喜びでもあるの。


 だから何度忘れられても、頑張ってまた会いにいくね。何度でも約束するよ。

 だから君もせめて、忘れないようにする努力だけはしてね。それも約束だよ。


 じゃあ、またいつか会う日まで。




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「また会いに来たよ」 泡沫 希生 @uta-hope

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