第3話 水

尿をする

俺は時々こんな事になる前から考えてた事がある

尿をする為に水を飲んでいるのか 生きるために水を飲み生きるために尿をする

だがしかし水について語る文人はいれど尿について語る文人は俺は知らない

尿をする為に水を飲んでるなんてバカらしいと思えば、学生時分喉の渇きも我慢出来たものである

「尿はありがてぇじゃねぇか」

朝の冷えた築30年の家の便所で一人の中年がつぶやいてる

俺が自らを中年と呼ぶと 「なんだお前まだ若いじゃないか」と反感を買うかもしれないが考えてみてほしい

この家も俺が小さい時は新築の羨ましい家だったはずなのに今となっては壁を塗り替えるとか替えないとか言われるほどみすぼらしい住まいになったもんだ

俺も同じだ

この家と一緒に年を経た俺が今、ちんこが細くなっている事に傷ついている

気のせいならよかった 気のせいなのか違うのかまだわからない時でさえ、気のせいなら気のせいだと誰かに言って欲しい苦しさでいっぱいだった俺の心はもう枯れた古池もいいところだ

その前日はっきりしてしまった

俺が異常な事態に陥っているということだけはっきりしてしまった

先でも話したように俺は仕事帰りにある男をつけた

白髪の男、その日の朝に駅の便所でいきなり「君は何かね!」といってきた男だ

その男をつけると歓楽街の中では浮いた公園に行き着いた所までは話したと思う

その男は公園の街灯下ベンチに腰下ろし、うなだれた様子で俺が話かけるのをまっているようだった

「あの、すいません」

俺が話しかけると、とうとうといった感じで男が顔を上げた

「あの、すいません 朝私に駅で話しかけましたよね

あれ、なんですか?」

俺も少々見ず知らずの他人に選ぶ言葉ではなかったかも知れない

だが余裕がなかったのだ

すると男は俺より頭上の空を見上げ、丸で切なげに月に帰りたいとでも言うような顔をした後こういった

「あなた、オナニーしてたでしょ あんな場所で」

俺はあっけにとられた

まるでちんぷんかんぷんで脈略のない、会話が成立してるとは到底思えなかったその言葉に

なぜなら俺はオナニーなんか断じてしてないからだ

「何言ってるんですか?」

すると間髪いれずに男が「だからあなたあんな所でオナニーしてたでしょ!」と怒鳴るものだから俺も頭に来てここから先の事は何もわからないといった血管の逆流を感じたのもつかの間

「あなたみたいな変態に追っかけられて気味悪くて仕方ありませんよ!」とこの街一通りに響き渡るような大声で叫ばれ、血管の血流も正常にあそばせ気付けばその男は走って公園を出ていき、俺は街灯を飛ぶ小さな蛾を見つめるしかなかった

怖くて街灯から目を離せなくなり、離した途端に予想出来る余りに辛い現実の中でどうやってかいくぐればいいかわからなくなった

恐る恐る顔を下げると、都会の冷たさか、それとも優しさなのか、俺に興味を持つ人間など一人もいなく俺は人ごみに紛れ電車に乗り家路についた

その日の晩飯は俺はいつも帰りが遅くファミレスやコンビニで済ませるので親もふいをつかれたのか味噌汁さえなく、白飯と冷奴のホワイトダブルパンチ定食だった

こんな時に白い物なんか見たくないし、ましてや食いたくないが親の面前精一杯美味しそうに頂かせていただきました

風呂に入る

頭を流しながらこれから先の事をずっと考えているとガスの安全装置が作動してお湯が出なくなった

「冷てぇな・・・」

俺は冷水の中で泣いた

やっぱり夜は冷たかった

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はしら マンアナ @man333ana

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