第4話 周りは敵だらけ

マサカズは片足で立っている。

立っているというよりバランスをとっているのだ。

ふっふっ!

マサカズの息が上がっていた。

一子相伝伝承者とはいえプランクには勝てないようである。

早く足を降ろさないとやられる!

右側の窓から太陽の光が射し眩しい。

その光がマサカズの顔を照らす。

おでこの辺りがキラキラと光っている。

少し汗をかいているのがわかる。

汗かいちゃったな、シャワー浴びようかな!

マサカズの頭の中にシャワーがよぎる。

なんて気持ちいい、程良いシャワーの水流と温度がイメージとなりマサカズの脳裏を叩きつける。

すぐに首を左右に振る。

現実から逃げちゃダメだ、今が大事!

すぐにマサカズは冷静さを取り戻していた。

流石である。

今はそんな甘えてる場合じゃない!

汗ばんだ体を清めるのは、今のこの状況を回避してからであると。

ナキッ!

左足のくるぶし辺りから鳴った。

巨漢を支えた足首が悲鳴をあげてやがる!

俺の足はこんな重量に耐えられる程の設計で作られてないよい!

でもよく頑張った、もう頑張らなくていい!

そして、こんな俺に38年間よくついてきてくれた!

解放させてやるよ、なぁ!

こんな事させるあの主を一緒にやっつけようぜ、なぁ相棒よ!

そう口ずさみながらなんとかバランスを立て直し右足を地面に着地させた。

ふぅ、やりよるわぃ!

廊下はフローリングで出来ている。

廊下の先にドアがあり、5センチ程開いていた。

あそこか、全ては!

あそこにヤツが!

その顔拝んでやるぜ!

廊下の長さは3mであろうか、しかしそれ以上に長く感じる。

ドアの隙間から太陽の光が漏れている。

マサカズがドアに近づいた

マサカズの体がスーっと動き出し、ドアの隙間を縫っていく。

なんて滑らかな動きだろうか、例えれば流水である。

川ののどかな上流で葉っぱが流れ、水面に突起した岩の横を滑っていくアレ。

しかしマサカズの体はドアをすり抜ける事はなかった。

詳しくはすり抜けるギリギリで動きが止まったのだ。

ピクリ。

厄介だ、この5センチ!

マサカズは口ずさむ。

魔の5センチ

図られた隙間である。

マサカズの策略はこうだ。

このまま静かに廊下を進みドアの隙間から部屋に入りこみ、憎きヤツの首を締めてやろうと考えていたのだ。

しかし…、しかしである。

それが出来ないのである。

その隙間には入り込めないのだ。

じりびんっ!

入れる隙間ではないのだ。

ドアの向こうに入るには少しドアを開けなければならない。

どれだけ痩せた体型でさえも決して開けずに入る事の出来ない隙間。

悪魔の尺である。

悪魔が口を開いてやがる!

ドアを開けないで隙間に入る方法はあるのか。

そうか、猫なら!

クソッ、意味もない事を考えて数秒無駄にした!

マサカズは脳内にある会議室へ向った。

あいつらならきっと!

マサカズはあの空間を歩いている。

会議室に着いた。

しかし、会議室のドアが少し開いていた。

え、5センチ!

クソ、ここも!

試しているのか俺を!

ここを自力で解いて部屋に入ってやっとスタート地点だ、と言われているかのようである。

マサカズは手も出せずにいた。

何も出来ない!

マサカズは振り返り手土産を左手に持ち来た道を引き返した。

土産を持つ左手が来た時より力が入っていた。

少し血管が浮き出ていた。

お前はここに来るには早すぎると言われた気がした。

なんとかなるさ、独りでも!

どんな屈強な時でも自分の力でやってきただろ!

自分に言い聞かせていた。

しかし…不安である。

ツーっとおでこから頬へ汗が伝う。

いつもと違う事はおでこの汗が物語っている。

一体どうなるのか。

マサカズにもわからない。

そういった感じである。

しかしなんて巧妙に計算された5センチであろうか。

5センチ以内なら入れないと諦める。

5センチ以上なら何とか入ろうと考える。

そのどちらでもない5センチの隙間。

そのどちらかならあるいは!はぅっ!

冷静になれ!

そんな事を考えても仕方ない!

それに…。

歩く度ミシッと足元が鳴る。

程よく劣化したフローリングが、68キロが動く時鳴るのだ。

まるでレーダーである。

きっとマサカズが今どこにいるのか主に教えているかの様である。

周りの物まで味方につけてやがる!

もしかしたら体制や歩き方さえわかっているのではないか、まさか服装や髪型までもが手に取るようわかっているのかもしれない、と思った。

こんな強敵にこの俺は勝てるのであろうか?足が震えていた。

あんなに満タンだった自信が、少しずつ大気に溶けて放出されている様である。

空間までもが敵なのかとマサカズは思う。

ならばどうすれば良いのか。

マサカズは絶望を感じ愕然としていた。

勝てるわけがない。

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朝の目覚め @ourgar

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