チャイム

四十雀

ピンポーン



 チャイムが鳴った。背筋に違和感を覚える。玄関に立ちそっと息を潜め、爪先立


ちでのぞき窓から眼を凝らす。緑色の帽子にサンドベージュのユニフォームの男が脇


に段ボール箱を抱えて立っていた。なんといったか、誰でも知っている有名な物流


企業の配達員だ。大雑把にいってこの国の物流業界は三つの大企業に分けられる。


名前は忘れた。誰でも知っているようなことについて僕はよく忘れる。しかしそれ


は、誰でも知っているのだから僕が忘れても問題ない。代わりに誰かが覚えている


からだ。それに僕とは関係なく社会は動いているし、むしろ僕が関わらない方が上


手くいっている面もあるかもしれない。


 ドアを開け配達員から段ボールを受け取る。妙に緊張してしまい、咳払いをす


る。昔から「間」というのが苦手なのだ。その瞬間自分がどう振る舞うべきか分か


らなくなってしまい戸惑いを覚える。例えば、見知らぬ番号から着信があった時


だ。あの感覚。突然訪れるシュチュエーションの変化にどうも慣れない。


リビングに座り段ボール箱に貼られた送り主を確認する。しかしその名に覚えはな


かった。釈然としないままカッターで箱を開ける。



―まさかこれがパンドラの箱だということはないはずだ。



箱の中に手を伸ばすと、頭の中でチャイムの音がした。


誰かに呼ばれる音。


誰かが僕を呼び出す音。


僕たちを出会わせる音。

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チャイム 四十雀 @japanesetit

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