第16話 甘えてやりたい放題の私
その週の土曜日に私たちは入籍した。すぐに結婚指輪を買いに行った。
そして結婚写真をどうしても撮っておきたかったから、式場を探して二人だけの結婚式を挙げた。私の両親の結婚写真がどこにも見つからなかったからだ。
ここまで長い道のりだった。二人には始めから試練ばかりだった。その試練に私は耐えられずにほかの人と結婚することになった。そして別れた。
戻ってきた私を山内さんは優しく受けとめてくれた。私をずっと思ってくれていた。今度こそ絶対に離れないと決心して山内さんと結ばれた。
この違いは思いの強さだと思う。前より増して山内さんへの思いが強かったからだ。私は神様の試練を今度は思いの強さで乗り越えたと思う。
◆ ◆ ◆
それからしばらくは今までどおり、それぞれの部屋に住んでいた。
ウィークデイの夕食は私が作って山内さんは帰りに寄って食べてくれる。休日は山内さんが夕食を作ってくれて私が食べに行く。金曜日と土曜日の夜はどちらかの部屋で愛し合う。
入籍してから、山内さんは二人のための新しい住まいを探してくれていた。
今の 2DKの部屋に二人で一緒住んで住めないことはないけど手狭だからだ。ゆっくり二人で過ごせる住まいが欲しかった。
近所で築年数が古いマンションを改装して売りだしていた。リノベーションマンションと言うそうだ。
二人で見にいったけど、3DKを2LDKにしたとかで、内装は新築マンションと変わりがない。
キッチンも今様の対面キッチンで料理がしやすいと気に入った。値段も底そこなので、山内さんは貯金を叩いて買うことにした。
山内さんは月々のローンの額も負担になるような額ではないと言っている。
歳が離れているので自分が早く死ぬようなことがあっても私のために住居だけは確保しておいてやりたいといってくれた。
ありがたい。その山内さんの優しさを感じないではいられない。
引越しをして荷物を搬入した。出来るだけ余分な支出を避けようと今あるものを持って行こうと相談した。
私は山内さんの部屋にあるものを自分の部屋にもそろえたのでベッド以外はなんでも2つある。
ベッドは山内さんのセミダブルを持ち込んだ。私は思い出がいっぱいで愛着があるし、二人では少し狭いけど、抱き締めて寝てもらえていいと気に入っていた。
高さが同じ二人の整理ダンスも寝室に入れた。テレビはリビングと寝室に置いた。ソファーもリビングと寝室においた。
冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、掃除機は私の新しいものにした。食器棚とテーブルと椅子も私の新しいものにした。もう1つの部屋には山内さんの本棚や机を入れて書斎にした。
二人の新しい生活が始まったころ、もう7月になっていた。
別居して暮らしていたものの生活パターンはあの同居していたころと同じになっている。私は嬉しくてしようがない。
丸2年以上、別々に生活していたけど、一緒に生活してみるとその期間がまるでなかったように思えてくるから不思議だ。
「こうして生活していると、会ってからずっと二人で生活していたように思う。あの別れていた期間がなかったような気がするね」
「私もそう思っていました」
「あの別れていた期間は俺たちの試練のためだったように思う」
「辛かったけど、あの期間があったから今があるようにも思っています」
「俺には未希が必要と分かった」
「私も同じです」
「こうなるのが運命だったとこのごろ思っている」
「私もあの日に出会ったのも運命だったと今は思います」
二人でお風呂に入る。私たちが出会ってからはほとんど二人でお風呂に入っていた。
ここのお風呂はあのアパートとは比べ物にならないくらい快適だ。ボタン一つでお湯がバスタブに満たされる。バスタブも洗い場も広い。お湯は溢れるが二人でバスタブにも浸かれる。
だから、二人はつい長風呂になる。この生活が毎日続くことを祈るばかりだ。
山内さんは私の父のようにはなりたくないとずっと言っている。そうならない覚悟ができたから、私にプロポーズしたとも言った。
二人とも過去に捕らわれることなく、前向きに一日一日を大切にして生きていきたい、私たちはそう話し合った。
私は山内さんから精神的にも自立しつつある。山内さんも私に溺れないで自立しつつあると言っている。
お互いに愛し合っていることは身も心も分かっている。だから、二人はいつも穏やかで喧嘩もしない。
山内さんは絶対に私に小言なんか言わない。私も不平を言ったりしないけど、甘えてうまく伝えることができている。それはそれでよしとしよう。山内さんは前から私に甘かった。
山内さんの今の収入だと私を家で主婦にしておくこともできるけど、共働きをしている方が私にはいいと言っている。
私も経済的にも余裕がある上に、社員食堂でサラリーマンの生活を見ているから、山内さんの仕事への理解も深まると思っている。それに働いて経済的に自立していると言う自負が私を大人にしている。
生活が落ち着いて来た最近の週末の夜には、私は山内さんに気が遠くなるほど可愛がってと言って甘えている。
山内さんは私の言うとおりに気が遠くなるほど可愛がってくれている。
でも終わった後に山内さんはぐったりしている。あのころは私がぐったりしていた。
今は反対になっている。10歳以上も歳が離れているから、年の差のせいかもしれない。この先が少し心配になっている。私のために元気で長生きしてほしい。
これで、冬の雨の日に出会った家出JKととんでもない性悪のサラリーマンとの凄まじいラブストーリーはおしまいです。 めでたし、めでたし
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この作品「冬の雨が上がる時」について
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885794339/episodes/1177354054887559566
「私の作品について」
冬の雨が上がる時 登夢 @iketom
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます