第4話
惚れ薬の影響でレイナに一目惚れをしたエクスを制すため、『ファムとレイナが恋人同士である』という誤解を彼に植え付けた訳だが、ここで問題が一つ。
言ってみたはいいものの、現実ではレイナとファムはただの仲間であり、その説明は全くの事実無根であるということだ。
「どうするのよ。エクスってば、あれ信じてるみたいじゃない」
「いや~、まさか本当に信じるとは思わなかったよねぇ」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!」
小声でファムに詰め寄るといつもの調子で誤魔化される。逃がしはしないとでも言うように、レイナはもう一度「どうするのよ」と念を押した。
ファムは少し離れた位置で二人のやり取りを眺めているエクスに目をやると、わざとらしくレイナに近づいてみせる。
「どうするの、って、そりゃあ恋人のフリするしかないじゃん」
はぁ? と聞き返そうとしたレイナの声が裏返った。一生懸命に取り繕ってはいるものの動揺は隠せないようで、そんなところがまた可愛らしいと魔女は揶揄うように笑う。
「恋人のフリなんてお姫様にはちょお~っと難しかったかなぁ?」
「っ、な訳ないでしょ! やってやろうじゃない!」
――売り言葉に買い言葉、気付いた時にはもうお姫様は魔女に言質を取られていたのでした……ってね♪
すべてはファムの計画通り。レイナが意地を張って「できる」と答えるのはお見通しだったのだ。
「んじゃよろしくね、私の可愛いお姫様」
「エクスの惚れ薬の効果が切れるまでだからね…!」
かくて、姫と魔女の奇妙な恋人関係が結ばれたのであった。
レイナとファムがこそこそと戦略を立てている一方、エクスはタオとシェインにおもちゃにされていた。
この想区に牽かれ、パックの矢に当たったことでレイナを想うようになったのについて根掘り葉掘り喋らされていたのである。
「だから、惚れ薬はきっかけの一つに過ぎなくて、僕は前からレイナが好きだったって。何度も言ってるのに」
「なるほどなるほど。では、姉御のどこが好きだったんですか?」
「辛いことを表に出さず、必死に頑張っているところ。挫けそうになっても、最後まで絶対に諦めないところ。オトナぶっているけど中身は子供なところ。正義感が強いところ。食い意地が張っていて、素直じゃなくて、方向音痴で、それから…」
「おいおい、途中から悪口になってねぇか?」
聞いているうちに我慢が出来なくなったタオが口を挟む。彼の指摘にエクスは「そんなことないよ」と微笑んだ。
「全部全部、好きなところだよ。優しくて、仲間思いで、ちょっと気の抜けたお姫様。それが僕の好きなレイナなんだ」
少し離れた場所でファムと話しているレイナを見ながら穏やかな表情で言う。優しくレイナのことを見守るその表情には一寸の迷いもなく、彼が如何に彼女を想っているのかがまっすぐに伝わってきた。
エクスさんってこういうことをはっきり言える人でしたっけ、とシェインが呟き、タオもそれに同意するように頷く。きっとこれも惚れ薬の副作用なのだろうと結論付けたが、レイナへの想いを語るエクスの様子を見ていると全てが作られてものではないかのような錯覚に陥る。
妖精王に解毒薬を貰えばすべては元の鞘に収まるはずだ。
夏の夜の夢の想区へはまだ入ったばかり。それぞれの思惑を胸に、彼らは妖精王のいる場所へと歩みを進める。
惚れ薬の効能 雨宮羽依 @Yuna0807
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