第3話

 さて、エクスが惚れ薬にかかってしまってからというもの、一行はなるべく彼とレイナを二人きりにしないようにしていた。が、惚れ薬の効果のせいか、エクスは周りのことを全くと言っていいほど気にしないのである。

 たとえば食事一つとっても


「あ、レイナ。この料理おいしいよ」

「ほんと? どれど――」

「はい♪」


と、流れるような動作で彼女の口に料理を運んだり、レイナの口元に食べ残しが付いていればそれをわざわざ拭ってやったりと、どこのバカップルだとつっこみたくなるような言動が多い――いや、多すぎるのだ。

 惚れ薬の効果で正気ではないエクスは良いとして、レイナはその度に顔を真っ赤にしてもごもごと口籠ってしまうのでいつもの調子が出ない。


「さて、どうします? 新入りさんがこのままだったらとてつもなくやりにくいんですけど」

「同感だ。坊主とお嬢があんな様子じゃ、オレらも調子出ねえよな」

「正直に言うと私のお姫様があんだけエクスくん一人に振り回されてるのはおもしろくないかなぁ」

「それはファムさんだけです」

「えー」


 口を尖らせるファムのところにレイナが近寄ってきた。ファムに抱き着いて混乱したように叫ぶ。


「ファムーっ、ちょっと避難させてーっ!」

「わ、どしたのお姫様? エクスくんといちゃいちゃしてこなくていーの?」


 ファムが言うとレイナはふるふると首を横に振った。ファムはからかったつもりだったが、レイナから真面目な反応が返ってきて少し戸惑う。


「あれはエクスだけどエクスじゃないから……。あんまり一緒にいると、勘違いしそうで怖い……」

「かわ――っ!」


 ファムが謎の言葉を発してレイナをぎゅっと抱きしめる。レイナはますます混乱したように目をまわした。


「ちょっとファムさん、姉御困ってません?」

「私はレイナを困らせるのが仕事だからいーの!」

「今すぐやめちまえ、そんな仕事」

「レイ――ファム? 何してるの?」


 義兄妹の見事なコンビネーションプレイの間を見計らったかのようにエクスがやってきて、ファムがレイナをぎゅっと抱きしめているという謎な状況を目撃する。

 エクスに何をしているのかと尋ねられたファムは少し考えてから自慢げに言う。


「ふっふーん。エクスくん、黙ってたけど実は私とレイナはこーゆー関係なのだよ!」

「え⁉」

「マジか⁉」

「空気読んでくださいタオ兄」


 エクスと一緒になって驚くタオにシェインが呆れる。

 ファムは彼女の腕の中から戸惑うように見上げるレイナに耳打ちする。


「今のエクスくんと距離を置きたいんなら、これくらい言っとけばいーでしょ」


 レイナが「なるほど」と感心して頷く。「お姫様の了解が得られればこっちのものだ」と言わんばかりにファムは微笑んだ。


「……いつからなの?」

「えーと、西遊記の想区で再会したときにね。ちょっといろいろ込み上げてくるものがありまして」

「え、本当なの?」

「マジもマジだよぉー! お姫様のあんなところもこんなところも、スリーサイズだって知ってるよ!」

「変態魔女」

「ちょ、お姫様ぁ……」

「ちょっと気にな――じゃなくて、そっかぁ。ファムとレイナがそんな関係だったなんて知らなかったなあ」


 「『ちょっと気になる』って言おうとしました?」と、その場にいる全員がエクスの予想していなかった言葉に動揺する。

 そんなわけで、エクスの新たな一面を知りつつ、彼へ故意に誤解をのこしたまま、レイナの奮闘は続くのだった。

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