第2話

「つまり、エクスはパックの矢……惚れ薬のせいでこんなことになってる訳ね」


 楽しそうに二人を見ていたタオたちに事情を聞き、レイナは納得したように頷いた。


「そうそう。いわば『一目惚れ』ってやつだね」

「一目惚れ……」


レイナはファムの言葉を繰り返し、ちらっとエクスの方を見た。するとエクスはにっこりと笑う。


「確かに、きっかけはパックの惚れ薬かもしれないけど、僕は前からレイナのことが大切だし、好きだよ」

「す……っ⁉」


 予想していなかった言葉にレイナたちは戸惑いを隠せない。いや、一目惚れと聞いた時からある程度の予想はしていたが、こんなにもストレートな言葉を投げかけられるとは思っていなかった、と言った方が正しいかもしれない。


「す…好きって……え、っと」

「あーあ、これはもうダメだね。お姫様、いつもよりポンコツ化してるよ。結構重度だし」

「ですね。もともと姉御の方が新入りさんを好きだったんですから仕方ないと言えば仕方ないですが……」

「にしてもチョロすぎねーか、お嬢? いくらなんでもこんだけチョロいと心配になってくるぜ…」


 エクスの言葉に自分のキャラも立ち位置も忘れ、顔を真っ赤にしているレイナについて、三人の議論が始まった。それはレイナを心配しているというよりはオモチャの新しい遊び方を見つけて、その使い方を相談している、という風だった。


「ちょ、ちょっとぉ! 私、そんなにチョロくないし! ポンコツ呼びも禁止っ!」

「そこがレイナのかわいいところなんだし、恥ずかしがることないと思うけどなあ」

「……っ! エクスはちょっと黙っててっ」

「えー、僕だけ仲間外れ?」

「仲間外れって……」

「シェイン達がいること本当に分かってるんですかね、あの二人」

「ああ。容赦なくいちゃついてやがるな」

「そんなことないわっ!」

「そんなことないの?」

「…………」


 いつもはストッパー役のエクスがボケにまわった(本人に自覚はないが)ことで、この場を収める者がいなくなってしまった。

 仕方なく、この場では最年長であろうファムが場をなだめようと、パンッと手を鳴らす。


「はーい、ストップストップ! タオくんもシェインちゃんも、それくらいにしといてあげなー? あとエクスくん、あんまりレイナを困らしちゃだーめ」


しぶしぶ頷く二人とは違い、エクスは不満げにいう。


「別に困らせてるつもりは……」

「エクスくんにそんなつもりがないのは分かってるよ。でもレイナが困ってるのも事実でしょ? だから、もう少しレイナのことも考えてあげて。ね?」

「……わかった」

「うん、いーこだね。レイナも、いくらエクスくんのこと大好きだからって、流されるだけじゃダメだよ~?」

「だ、大好き……って、そそそそそそんなことっ」


 少しからかうようにファムが言うと、思った通りレイナは慌てて首をぶんぶんと横に振る。

 そうしてさらに否定しようとしたレイナの視線の先にはエクスがいて、少し不安げにレイナに問う。


「そんなこと?」

「……なくもなくもなくも、ない」

「姉御、それだと『ある』になりますよ」


 シェインが呆れたように言う横で、タオが一生懸命「なくもない、で『ある』。そんで『ある』のなくもない、でまた『ある』……」とぶつぶつ呟いている。


「……このメンバーをまとめるのは骨が折れそうだねぇ」


 ファムがため息を吐きながら苦笑いを浮かべた。

 いつも当たり前のように、そう、例えば空気のようにそこにいて存在感が薄いと思っていたエクスが、実はみんなをまとめていてくれたのだと実感し、エクスが元に戻ったら少し優しく接しようと思ったファムだった。

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