第3話 生徒

「今日は転校生を紹介する」

 廊下で待っている僕の耳に教室の中から聞こえる教師の声が届く。この中には何十人と僕と同い年の学生がたくさんいる。心拍数が上がり少し呼吸が乱れてきた、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。何回と繰り返してきた方法だ。


「では入りなさい」

 男性教師の声が聞こえ、教室のドアを開けて中に入ると30人はいるだろうか、全員僕を見ている。既に何人かと目が合い、とっさに床に目線を下げる。ヒソヒソと何やら僕の事を話している人もいるみたいだ。

「今日からここで皆と勉強をするスウィフト君だ、仲良くしてくれ。スウィフト君、奥の席が君の席だ。あそこに座りなさい」

「はい」

 奥の席に行くまで周りから視線を感じた。距離は長くないはずなのに遠くにすら感じた。やっと席に着きリュックを机の横に掛ける。

「じゃあ、授業を始めるぞ。教科書を前回の所開けよ」


 まずい、どこを開けば良いか分からない。物理の授業をしているのは分かった、教科書を開いて周りの生徒のページを見ようとした。

 後ろから肩を2回叩かれ、後ろを向いた。後ろに居たのはソバカスのある色白い金髪の少年だった。

「やあ、僕はカールだ。よろしく」

 握手を求められ、それに応じる。

「ああ、僕はジョン。よろしく」

 彼は笑顔だが、自分は笑顔になれなかった。

「あっと、教科書は今115ページの所だよ。探していたよね?」

 ありがとう、と返して体を正面に向ける。そのページの内容と先生の言っている内容は一致していて振り返り会釈をする、カールは親指を立てていた。


 授業が終わり、教科書をロッカーに置きに行こうと立ち上がるとカールが話し掛けてきた。

「勉強はついていけそうかい」

「まぁ、ありがとう」

 少し彼を振り切るようにして、ロッカーへと歩く。

「あのさ!実は最近できたカフェがあるんだ行ってみない?」

「いや、喉は乾いてないから大丈夫だよ」

「そうか……」

 彼が何故落ち込んでいるのか分からなかったけど、事前にある程度勉強しておいて良かった。なんとか勉強にはついていけそうだ。


 昼休みになった。食堂でお義母さんが作ってくれたサンドイッチを袋から出して食べる。あの頃食べていた残飯とは比べ物にならない、凄く美味しい。苺のジャムは甘くて、パンによく合う。

「やあ、隣いいかな」

「あ、うん」

 またカールが来た。あまり話すのは得意じゃないから正直来ないで欲しいけど。


「ジャムのサンドイッチ良いね、学食は頼まないの?」

「うん、母さんがこれ持って行けって言われてさ」

 お義父さんに言われていた通りの質問が来た。用意していた回答を返す。


「そっか」

「うん」

 また気まずい時間が流れる。こうなる事は予想できるのに何故僕に話しかけるのだろうか。


「君ゲームとかやるの」

「え、ゲーム?」

 あまり親しみにない言葉に反応してしまった。

「ああ、君もゲームとかやるんだね。こっち側の人間だ!」

 少し興奮気味に話すカールについていけなかった。


「こっち側って?」

「銃とか」

 銃?こっち側……?彼も僕と同じ境遇の子なのかもしれない。


「あぁ、6歳の頃からだよ」

「ええ、僕でも13歳の頃からで長いと思ってたんだけど。上には上がいるね」

「その経験は長くない方が良いと思うよ」

「そうかな、コントローラの操作難しくなかった?」


 操作?もしかしたら彼は無人機のパイロットだったかもしれない。それでも僕に周りには13の子に操作させている無人機なんて聞いたことがなかった。

「いや、僕はそれはやった事ないな。銃を担いで自分の足で走り回ってたよ」

「そうなの?って事はサバイバルゲームの方かな、すごいや僕もやってるよ」


 サバイバルゲーム?戦争の事をそういうのかな。


「僕も沢山銃を集めたんだ今日家に来るかい」


 敵から銃を奪っている事を自慢していた大人の兵士もいたな。少し彼の事を知った方がいいかもしれない。

「分かったついてくよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジョナサン 水溜 新一郎 @mizutamasiniti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ