メルと猫
陽月
メルと猫
もうちょっと。
うーん、ダメ。
痛くて、眠っていられない。
ここはどこ?
眠っていたのは、ベンチの上。
これじゃあ、体が痛くなるはずね。
耳に心地よいのは、噴水の音に、梢の音。
どこかの公園のよう。
外で眠っていたなんて、季候がよくて助かった。
昨日はちゃんと、ホテルで眠ったのに。
また、どこかに跳ばされちゃったみたい。
ホテルじゃ、お客が消えて大騒ぎかしら。
ニャー、足下から、猫の声。
あらあら、私の服と
こんにちは、私はメル、あなたはだあれ。
ミャー、ごめんなさいね、猫の言葉は分からないの。
トコトコと、背を向け歩く猫さん。
私が
どこへ行くのだろうと見ていたら、振り返って、ニャーと一言。
そして、私の足下へ戻ってくる。
ミャー、うーん、どうしたの?
トコトコ歩いて、振り返る、そしてニャー。
さっきと同じ、繰り返し。
もしかして、ついて来いって言いたいの?
猫さんを追いかけ、街を抜ける。
朝早いから、外に人はいない。
ちょっと気になる看板を見ていたら、ニャーと猫さんにせっつかれる。
ねえ、あなたが私を呼んだの?
ちょっとくらい、街の様子を見させてくれても、いいんじゃない。
いったい、どこに向かっているの?
辿り着いたのは、街外れの大きな木。
ミャー、猫さんが見ている先は……。
あら、一番下の枝に、黒猫さん。
これは、これは、もしかして。
登ったけれど、降りられないってヤツですか?
ごめんなさいね、私、木登りはできないの。
ヤダ、そんな瞳で見つめないで。
もう、私は木登りができないって、言っているじゃない。
仕方ないなあ、本当に無理なんだからね。
やるだけやってみましょう。
えっ?
少し木に近づいたら、黒猫さんがピョン。
私の頭から肩、そして地面へ。
えっと、これはもしかして。
降りるための踏み台が、欲しかっただけですか。
再会を喜ぶ猫さん。
くしゃっとなった髪を、直す私。
グー、空腹を訴える私のお腹。
猫さん、猫さん、お礼になんかくれてもいいんじゃないの?
訴えてみれば、黒猫さんと目が合った。
そして、黒猫さんはピュンとどこかに行っちゃった。
ちょっと、人の顔を見て逃げ出すなんて、失礼じゃない。
踏み台にした時点で、充分失礼だと思うけど。
白猫さん、私はもういいよね。
街で何か食べ物を。
そう思って歩き出せば、ニャーと白猫さんに止められる。
待っていろってコトですか?
しばらく、白猫さんと遊んでいたら、黒猫さんが帰ってきた。
咥えてきたものを、私の前にはいと置く。
ヤダっ、ねずみ。
二匹の猫さんが、見つめている。
これは、お腹が鳴った私に、食べ物をくれたのでしょうね。
ありがとう、けれど、ごめんなさい。
私は、猫さんじゃないから。
沢山食べる私でも、さすがにこれは食べられない。
これは、二人で食べておいて。
そうね、いきなり迷子の女の子が現れて、面倒をみてくれるような人を知らない?
知ってたら、会わせてくれると嬉しいな。
ニャンニャン、猫さんたちがご相談。
ニャー、今度は黒猫さんが案内してくれるの。
黒猫さんに連れられて、来た道を戻る。
途中で、くるっと曲がって、細い道をどんどん進む。
どこへ連れて行ってくれるの?
私が通れる道でお願いね。
ふふっ、ちょっと楽しくなってきちゃった。
メルと猫 陽月 @luceri
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