プラモデルと金型(流行と源流)

 最近、web小説界隈のことを知らない友達と話す機会があった。(知らないって言ってもそりゃ少しくらいは知ってるんだけど)


 僕が「カクコン通ったよ」ってリンクを貼ったら「僕の名前を探し出すまでにめっちゃ苦労した」って話から、「それにしても追放もの多いな」とか「タイトルながっ!」とか「あまりに同じようなタイトル過ぎて胸やけおこした」とか……。


 最近はもうずっとweb小説界隈を漂っていたから気にならなかったけれど、言われてみて今一度確かめて納得した。外界から見たら「なんでこんなに?」と疑問に思うのも頷ける。それくらいタイトルの長い追放ものが多いし選考を通っていた。


 なぜ?

 というものを深堀りしていくと、自分なりの答えに辿り着けるので、諦めずに考えることをお奨めするんだけど、今回は取り敢えず僕が行きついた答えをご紹介します。


・なぜ、同じようなタイトルが多いのか。

 →その系統のタイトル、或いはジャンルが流行っているから。


・なぜ、そのジャンルは流行っているのか

 →おもしろいと思う人がいて、さらにそれと同じものを書く人が増えたから


・なぜ、同じものを書く人が増えるのか

 →書きやすいから、読んでもらえるから


・なぜ、書きやすいのか

 →流行りの源流になったお手本があるから

・なぜ、読んでもらえるのか

 →ジャンルとしてのおもしろさが確約されているから


 と、こんな感じ。全然深くないけどね。


 今は供給過多と言われているけれど、逆にハイペース&コンスタントに供給できないコンテンツってのは廃れるしかない。大人気ユーチューバーだって更新の頻度が下がったら見る人も減るし人気も下がるだろう。

 読んでいる時間がないと言われつつも、新作を期待される。それはもうweb小説を続けていくなら付き合っていかないとどうしようもない『愛すべき理不尽』だと思う。

 今web作家に求められているのは『安定したおもしろさを次々に発信してくれること』なのだと思っている。

 だからweb作家は作りやすくて読者を見込めるものを常に探している。それゆえ『流行り』というのはとても有効性が高い代物なのだ。ジャンルとして確立しているがゆえに他の作品を参考にしたとしても『パクリ判定』は絶対に受けない。

 僕が個人的に思う強みは、下手したらプロットを書かなくてもいいところにある。なぜかって、『追放もの』というジャンルには読者が思う「追放ものとはこうだ」「こうでなければいけない」という概念が最初から存在しているからだ。それをプロットにして、キャラと設定を少しいじってやればいいわけだから。そしてその方がウケる。だって、みんな『追放もの』が読みたいんであって『追放ものを模した別のなにか』を読みたいわけじゃあない。だったら、下手にアレンジを加えないで、読者に求められるものをしっかりと踏襲して書いた方が納得感がある。

 これは別に追放ものに限らない。あらゆるジャンルに同じことが言える。


 さて、誤解されないためにここで一度言っておくが、これは別に「『追放もの』を書くな」という話でもなければ「流行りに乗っかるな」という話でもない。流行があるということは、求められていると言うことなのだから、それを発信していくことはよいことだと思う。


 今回僕が言いたいことは、プラモデルの話だ。


 今なに言ってんだこいつって思った人は正しい。話が飛び過ぎた。



 ——えっと。


 僕の思う創作ってのは、彫刻や粘土のようなものだと思っている。始まりはただの木や土。それを作者の手によって徐々に形を作っていって、色を付けたりなんかもして、『なにか』に仕上げる。

 とても自由度が高くてやりがいのあることだと思う。ただ一つ問題なのは、センスと修練がない者にとって完成させることがあまりに困難であること。


 考えてもみてほしい。

 木の板を一枚渡されて、「なんでも好きなもの作っていいよ」と言われたら、困らないか?

 なにを作ったらいいのかもわからないし、どうやって削ったらいいのかもわからない。まして、木の板を渡してきた人がなにを考えているのかもわからない。

 仕方ないから自分の好きなように「なにか」を作ったとしよう。そしてその写真を撮ってSNSで上げたら「なにこれ?」「なにを作ろうとしたの?」「いみふ」「ぷぎゃー」「ワロタ」「大草原」「笑い過ぎて腹筋つった訴訟」などと散々言われるのだ。


 なんのプレイやねん。


 まあ多くの人は「こんなものを作りたい」という願望があってそれに向かっていくだろうからなんとなく形にはなるのだろうけれど、それでもやはり初心者が上手く作ることはできないと思う。(天才というレアケース有り)

 それに「なにが作りたいのかわからないけれど、とにかく作ってみたい」という人もいるのではないだろうか?


 そんな人には「じゃあまず恐竜を彫って」という。

 しかし恐竜と一言で言ってもパッと思い浮かべられるだろうか? なんか全体的なイメージは浮かぶけれど、ディテールなど曖昧だし指の数が何本あったかも覚えていない。

 そこで恐竜図鑑を渡してみる。

 なるほどこれなら細部まで見て彫ることができる。

 だが図鑑の中にはたくさんの恐竜がいる。みんなが掘ってほしい、求められている恐竜がどれなのかわからない。ステゴサウルスかもしれないしティラノサウルスかもしれないし『ある日、トリケラ』(おもしろいよ! みんな読んでね!)かもしれない。

 なので、「今はステゴサウルスが人気だよ」と言ってあげる。

 するとなるほどステゴサウルスを彫ればいいのかと言うのがわかる。

 しかしここで新たな問題。写真で見た映像通りに彫るためのメソッドがない。これに関しては口で教えてもらってもわからない。参考書を見てもいきなりプロ級にはならないだろう。だから師を仰いだり、何度も修練を繰り返したりして形にできるようにしていく。

 昔は、それでよかったのかもしれない。なんでって、自分の納得いくまで作っては捨てて作っては捨ててを繰り返して、納得いくものをコンクールとかに出したりすればよかったから。

 だが今はネット社会。常に結果や進捗が求められる世の中だ。「あいつ彫刻家って自分で言ってるだけで作品一個もねえじゃん」ってエアリプが飛んで来ようものなら鬱になるだろう。

 なので、まあちょっと見栄えは悪いけど上げてみるか。って感じで上げて、「ぷぎゃー」「なにこれ」「ワロタ」の餌食になる。ぴえん。


 彫刻家は思う。


「いや、難しいんやって。くっそ難しいんやって」


 そしてある日プラモデルの写真に『いいね』と『RT』されまくっているのを見る。これなら自分も出来るのでは?

 彫ったりするものじゃあないけれど、立体的に物を作り上げるという点はまったく同じだ。

 プラモデルならどれだけ初心者が作っても見栄えのするものが出来上がる。

 どのように組めばいいのかは説明書に書いてあるし、シールもついてる。シールの代わりにペイントを使おうものなら、『引用RT』まであるだろう。「amazing!!」てリプライつくかもしれない。

 かくして彫刻家はプラモデラー(?)に転身したのであった。ちゃんちゃん。


 ……いや、だから、プラモデルをバカにしてるわけではないんだって。


 同じ創作でも『流行り&テンプレあり』と『非流行り&テンプレなし』では、それくらいの隔たりがあるんじゃあないか、と僕は考える。(※あくまで私論です)


 で、(話は一番上に戻るんだけど)これを外界の人間が見ると「同じプラモデルばかり並んでる」状態になるわけだ。

 もしもこれがすべて彫刻だった場合、仮に同じモチーフであったとしても人それぞれの力量や個性の差が出るから、また違った印象を持たれるかもしれない。


 僕は別にプラモデルがたくさん並んでいることを悲観したりはしていない。創造が生産になっているのは、なにも小説界隈に限った話ではないから。

 自分が創造する人間なのだと思うのなら無理に生産する必要はないし、利益を生み必要とされたいのなら生産をすればいい。

 創造にもスポットライトは当たるし、当てられないのは単純に実力不足だからだ。社会のせいにしてもいいししなくてもいい。


 でも。

 たった一つ、忘れてはいけないことがある。

 プラモデルには『金型』が存在していること。その金型を設計した人がいること。設計したものを組み立てた人がいること。初心者でも組み立てやすいように取扱説明書を書いた人がいること。

 それは、その源流は、一人の人間であったこと。


 流行をバカにする人がいる。確かに思考停止状態で流行に乗っている人は頭がよくないのかもしれない。けれど流行そのものはバカにしてはいけない。なぜなら流行を先読みする能力があるだけではなく、流行させるための『金型』となる作品を誰よりも早く書き上げたのだから。

 その人間は間違いなく、非凡な人間だろう。


 タピオカも、テクノポップも、異世界転生も、アイドルも、「その流れに乗っかりたい」と思えるほどに魅力的であったのは間違いない。そこに魅力がなければ流行らないのだから。そしてその魅力にいち早く気付いて、金型を作った人はやはり偉い。

 多くの彫刻家を『ぴえん地獄』から救ったのだ。


 そんで、僕の悪いところは彫刻刀でプラモデル作ってるところなのかもなーって思ったり。




 途中で出てきた『ある日、トリケラ』ってなに? と思った人のためにURLを貼っておきますね。

 このエッセイとはまったく関係ない、本当に素晴らしい純愛の物語です。


ある日、トリケラ/飛鳥休暇

https://kakuyomu.jp/works/1177354054930637677

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